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「ハムスターだって 一匹一匹違うもの」


 副園長  釜土蘭子

 

 ある日突然、「幼稚園でハムスターを飼いませんか」というお話をいただきました。

 実はずっと前、二〇年以上前に一度幼稚園でハムスターを飼ったことがありました。ところがその子は完全に夜行性。昼間は寝てばかりでした。「ねぼすけハムスター」。そう呼ばれておりました。子供が期待するような滑車をはしらせたりはしてくれなかったのです。子供達が見ている前で、あおむけになっておなかを出して寝てたのですから・・・。「ハムスターは幼稚園で飼うにはイマイチだな」、そんな印象がありました。

 個人的には、自宅でハムスターを飼ったことも2度あります。一匹目は真っ白なハムスター。とてもおとなしい子で、引っ込み思案なお嬢様でした。
 2匹目は、よくあるジャンガリアンという種類のハムスター。ハムスターにしては珍しくよく「ヴィヴィ」と声をたてるのでした。
 

 けれど今回は3匹を一度に飼うということのお話だったので、正直少々迷いました。一匹だけ七尾幼稚園に残して、あとは他の園にあげた方がいいかなぁ・・・。そんなふうにも考えました。









 入院するので飼えなくなるのだという切迫したご事情だったので、とりあえず七尾幼稚園に迎えることにいたしました。ハムスターだけがやってくるのかと思ったら、飼い主の方も一緒にこられることになりました。ご不自由な体で幼稚園にこられる、それを伺っただけで、今までこの3匹のハムスターをどんなに大事にしてこられたかがわかりました。3匹のお家(飼育ケース)には、「ともこ」「はるか」「こういち」と名前が書かれてありました。子供達に一匹一匹を紹介され、一匹一匹をよろしくとお話ししてくださいました。お帰りになる時には、「ともこ」を手にとってほおずりされて・・。一匹一匹との別れをどんなにさびしがっておられるか、がよく伝わってきました。それはおそらく子供達の心にも届いたことでしょう。
 
 


 その時、私も園長も、ここで3匹一緒に飼うのが一番いいと判断しました。今までも3匹一緒に飼われてきたハムスターを別々にしてしまうのはなんだか可哀想でした。何より飼い主の方から直接「かわいがってください」と言われ、それに素直に応えようとしている子供達の気持ちを大切にしてあげたかったからです。

 元の飼い主の方からも「3匹は性格が違いますよ」、というお話はありました。とはいえ、自分で接してみないと本当のところはわからないものです。そこで幼稚園が連休だった2日間、自宅に3匹を連れてきてじっくりおつきあいすることにしました。朝から晩まで観察してみないと、一匹一匹の性格を理解できないかなと思いました。


 一番つきあいやすいのは、「ともこ」です。「ともこ」は、とってもよい子です。誰とでもすぐ仲良くなれます。お家の中も彼女なりにきちんとしています。えさを食べる場所、寝る場所、だいたい人間が思うところでそれを決めておいてくれます。ハムスター用のミックスフードをあげると、ほぼ好き嫌いなくどんな種類も食べてくれます。ひまわりの種の殻もだいたい一ヶ所に集めてあるのでお掃除もラクです。そして人なつっこく、手のひらにのってきます。でも急に走り出したりはしません。この辺で遊んでていいよという範囲の中でちょこちょこ動いて満足してくれます。でもあそんであげないと、ちょっと寂しそうなお顔をします。


 「ともこ」に比べると最初はつきあいにくかったのは、「はるか」でした。「ともこ」と「はるか」は同じ種類のハムスターです。でも性格は本当に違うのです。今から思えば警戒心の強い子なのでしょう。最初の頃は私が彼女の家に手をいれただけで、とっても怒りました。手に噛みつこうとすることもありました。えさ入れ、寝る場所、こっちの思うところにはしません。えさ入れはカラも木くずもゴチャゴチャに入っています。寝る場所は自分でいいと思ったところに、おふとん(ハムスター用の綿)を持っていって自分の居心地のいいように作ります。自分なりのこだわりを持っています。かといって、「はるか」を放っておくとまたまた機嫌が悪くなってしまいます。えさをあげる時にはひまわりの種を一個一個お口のそばに持っていくとご機嫌。それをしないでえさ入れにただいておくとプンという態度になります。えさの中でなぜか大好きなのは、煮干し。両手(前足)で上手にもって食べている時は幸せそうです。「はるか」の大事にしているものを大事にしてあげること、そうしてあげれば、「はるか」はこっちを信頼してくれるようです。今では園長先生の手にのってくれるようになりました。


 「はるか」にも増してマイペースなのは「こういち」くんです。「こういち」だけが毛並みも違い大きさも違います。大きさは一番ちいさなハムスターくんです。「こういち」は好きなように生きています。「はるか」のようにこだわりはありません。今日はこっちでえさを食べていたかと思うと、明日はあっち。えさ入れに入れておけば勝手に食べています。かまってもらうことはあまり好みません。少し遊んでやろうかと飼育ケースから出したら、その途端に走り出し、つかまえるのに大変苦労いたしました。周りの事なんか気にしない、自由人?「こういち」です。そして、何より大好きなのはヒマワリの種。ミックスフードであげてもヒマワリの種ばかりを食べて、他のものを残してしまいます。「ちゃんと何でも食べなさい!」と言いたくなります。そしてヒマワリの種の殻は散らかし放題です。でもこっちが勝手に掃除をしても怒ったり執着したりはしません。



 同じ飼い主さんに同じように育てられたのに、こんなに違う3匹の性格。子供達もそれなりに性格の違いを感じながら、ハムスターたちを眺めております。一匹ずつ飼っていたら、こんなふうには思わなかっただろうなと思います。性格の違う3匹が並んでいるからなんだか楽しく、おもしろい。

 実際のお世話をする私や園長も、3匹それぞれの性格にあうように気にかけています。「はるか」ちゃんのこだわりを大切にしてあげるように。「こういち」くんの、マイウェイな気持ちを否定しないように。そしていつもよい子でいてくれる「ともこ」ちゃんに「ともこちゃんはよい子だね。」と手にのせて毎日お話ししてあげるように。
 
 
 同じように育てたら同じ性格になる、なんてわけにはいきません。
 そして、その性格を矯正したいとは思いません。一匹一匹に違う良さがある。それをいとおしく思うのです。同じ性格で、同じ行動しかとらないとしたら・・・。なんだか寂しい気がします。

 小さな小さなハムスターでも一匹一匹違うのです。まして人間はもっともっと複雑な感情をもち、もっともっと一人一人違う性格を持っています。



 「こういち」くんのように、マイペースで走り回っている子がいます。毎日の行動はパターン化せず、昨日はホールで遊んでいたかと思うと今日はお庭で走っている。昨日はあの子と遊んでいたのに今日は別のお友達と・・・。時々ちょっと危ない遊び方をする時があって、ヒヤヒヤさせられます。でも、いつもなんだか楽しそう。

 「はるか」ちゃんのように自分自身で考えて、行動したい子がいます。そしてそんな子は案外繊細で、ちょっと自分のしたい事を拒否されると怒ったり泣いたりします。でもヒマワリの種を一粒一粒お口に入れてあげるとご機嫌になるように、ゆっくりゆっくりお話するとニコニコ笑顔になってくれます。その子が大事にしているものを大事にしてあげる事、それがとても大切です。

 「ともこ」ちゃんみたいに、「いつもよい子でいよう」とする子がいます。先生のお話はちゃんと聞いて、お約束をちゃんと守ってくれます。「少しここで待っててね」、先生に言われるとちゃんと座って待っててくれます。そんな、「ともこ」ちゃん達に対して、時々教師達が忘れてしまうのは、実はそんな子に語りかけること。「よくできたね」「がんばったね」「ありがとう」、そんな言葉を一番待っているのは「よい子でいよう」と思っている子供達です。

 そしてもっともっといろんな性格の子供達が幼稚園に集まっています。一人として同じ子はいないのです。
 一人一人がどんな子なのか、じっくり見極めながら、その子にあった接し方を心がけていきたいと思うのです。

 
(2008年11月27日 七尾幼稚園園だより巻頭言)

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