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「「たいがいのことは、
自分の思い通りにならないって、
      思いませんか?」


 園長  釜土達雄

 

  幼稚園のラセン階段の下にある鉢植えのサンショウの木。ある時何気なくそのサンショウの木の一つを見たら、葉っぱのほとんどがなくなっていました。
 もしやと思って目をこらしてみてみると、キアゲハの幼虫が、やっぱりいました。
 幸いなことにサンショウの植木鉢は二つあるので、もう一つのサンショウの木をそばに置いてくっつけておきました。小さな方のサンショウの木の葉っぱはほとんど食べられていて、もうなくなっていたのです。小さいときに食べた葉っぱしか食べませんから、サンショウの葉っぱを食べた幼虫は、サンショウの葉っぱしか食べないのです。
 
 幼稚園のお庭には、ホトトギスがあります。
 ホトトギスと言えば鳥を思い浮かべますが、ゆり科の植物にも、ホトトギスと呼ばれる植物があるのです。実は七尾幼稚園のお庭にも、鉢植えで、このゆり科のホトトギスの一つを飼育しています。実は理由があって、このゆりかの植物を好んで食べる蝶がいるのです。ルリタテハという、とってもきれいな蝶です。毒を持っている毒蛾に似ていますが、とってもお茶目な毒のない蝶の幼虫です。今、3匹が順調に育っていますが、いつの間にか親が勝手に卵を生み付けたものなのです。

 実は、このキアゲハの幼虫もルリタテハの幼虫も、まだ子どもたちには見つかっていません。「先生!アゲハの幼虫がいる!」誰かが、いつか、そんな風に発見の報告をしてくれるのを待っているのですが・・・まだ誰も報告には来てくれません。


 まだまだあります。
 今年の秋、いきなり彼岸花が七尾幼稚園のお庭に登場しました。彼岸花なんて植えたこともないのに、いきなり咲いたのです。プランターの中に一本だけ。「先生!変な花咲いてる。」そんな風に言ってほしいのですが、まだ誰も気づきません。

 春にオジギソウを3つ買ってきて、植木鉢に植えておきました。子どもたちが楽しみにしてくれるからで、玄関にあるオジギソウも、園庭のオジギソウも、子どもたちの大人気です。
 そうやって何年にもわたってオジギソウを買ってきては育てていたのですが・・・。気がついたら、お庭のあちこちにオジギソウが勝手に生えていました。わたしが見つけたのでも7つあります。

 なぜだか、幼稚園のあちこちに青じそが生えてきていて、栽培しているプランターの中の青じそは育ちません。どうしてだかわからないのですが、雑草のようにはえてくるものばかりが元気で、大切に大切に育ててきたものは、しおれてだめになってしまうのです。


 本当に思うのです。自分の思い通りになることは本当に少ない。そして、それがどうしてだかは、さっぱりわからないのです。



 七尾幼稚園の玄関に入ってきて右側に、いかにも玄関にはじゃま!な、おおきなポリのケースがあります。大きなゴミ袋が二つも入りそうなこのケース。中身はなんだかご存じですか?

 このケースが大好きな子どもたちがいます。そのほとんどは男の子達。園長先生が開けるのを待ちかまえて、一斉に集まってきます。また、このケースをこっそり開けようとしたりする子だって、何人もいます。その中身を知っている子にとっては、宝物のケースです。


 このケースをここに持ってきた人がいます。富山県の高岡市で、坂ノ下保育園の園長をしている風間宣夫(かざまのぶお)先生です。実はこの先生、学生時代に七尾幼稚園で研修をした先生でした。七尾幼稚園の二階の和室で約一ヶ月間、泊まり込みで研修を受けたのです。指導したのはわたしでした。そして、わたしの家で朝ご飯もお昼ご飯も夕食も食べていた先生です。

 今年の春、その風間先生がこのケースを持ってきました。「釜土先生!カブトムシの幼虫20匹持ってきました。」そう言って、このケースを車から引っ張り出してきたのでした。
 カブトムシの幼虫を手に乗せてみるのは、七尾幼稚園の定番行事。「ありがとう」を、風間先生に言って、受け取りました。
 そして別の日に、子どもたちの手にカブトムシの幼虫を乗せる定番行事を終え、そのままこのケースに戻しておいたのでした。

 当たり前のことですが、そうしたら、梅雨明け頃から中から、カブトムシがこのケースの中に20匹も生まれました。
 そしてこどもたちは、このケースの中に、カブトムシがいるということを、しっかり覚えたのでした。

 そうです。あのポリケースは、カブトムシの幼虫がいたケースだったのでした。

 普通ならここで、さなぎからかえったカブトムシたちを別のケースに入れて飼育します。その方が子どもたちにも喜んでもらえるというものです。
 ところがそのあとも、カブトムシが幼稚園に何匹もやってきて、幼稚園の飼育ケースは満員。それならばと、この大きな飼育ケースの中でそのまま何匹ものカブトムシが過ごすことになってしまったのでした。だいたい、このケースが重く、一人では運べそうになかったのでそのままにしてしまったのです。
 これが、決定的な事だったのです。

 ふたが閉まって真っ暗なケース。幼虫たちが過ごすには、抜群の環境。適度な湿り気。昆虫ゼリーの残り。カブトムシの雌達が、卵をたっぷり産んでいたのでした。
 8月の末頃から、なんだか動く小さな白い虫たちが・・・。そしてそれは、9月になって、はっきりと姿を現し始めました。カブトムシの幼虫たちの誕生です。しかも、たくさんたくさんいたのです。

 これは大変だと、先日、腐葉土を入れ替える作業をしました。カブトムシの幼虫がいるのならば、何匹ぐらいいるのか数えてみようと考えました。
 びっくりです。数えたのは百匹ぐらいまで。まだ、いるような気がするのですが・・・それ以上は数える気力もなくなりました。
 実は、こんなに幼虫がいると知る前に、カブトムシの幼虫を20匹、もらったばかりだったのです。合わせたら、何匹になるのだろう・・・。そう考えたら数える気がだんだんなくなってしまいました。

 玄関の大きなケースに、約40匹。玄関の飼育ケース4箱にそれぞれ5匹ずつ、合わせて20匹。そして、外のポリ容器3個に、それぞれ15匹ずつ、45匹。そして、外の発泡スチロールのケースに20匹。合計何匹になりました?それだけが、わたしの確認しているカブトムシの数なのです。


 自分の思い通りになることは、本当に少ないと思います。
 たいがいのことは自分の思い通りにはならないけれど、それを楽しむ余裕があれば、七尾幼稚園の小さなお庭でも、発見がいっぱいあって、結構おもしろいとわたしには思えるのです。

 子どもたちとの毎日の生活も、案外同じだな。わたしは、そう思います。
(2008年10月1日 七尾幼稚園園だより巻頭言)

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