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「壮大なマンネリズムの中でのトピックス」


 園長  釜土達雄

 

 5月22日。富山に出張していたわたしの携帯に、幼稚園日誌の報告が届きました。普通はその後、口頭での報告があるのですが、この日はその時間帯が会議中だったため、メールの報告だけでした。
 いつものように(会議中であるにもかかわらず)報告を読んでいたのですが、そんなに特別なこともない普通の報告が羅列されていたのです。ただ目を引いたのが、お家の方から「ヤドカリとカニが届いた」との報告。「しばらくは幼稚園で飼ってみることにしました」と続いていました。
 ヤドカリかぁと思いました。ここしばらくは飼っていないのだけれど、以前は夏の定番で、ヤドカリを幼稚園で飼っていました。小さなキョウセンベラを飼っていたこともありましたし、かわいいナベカというお魚も飼っていたのです。ナベカはわたしの大のお気に入りでした。
 変わったところでは、クラゲを飼っていたときもありました。あのぼんやりしたほのぼの感は、何とも他のものと比べようもありません。
 ウミウシを飼っていたこともあります。ウミウシの種類は豊富で、小さくてきれいなウミウシがたくさんいます。そんなウミウシが幼稚園にいた時もあったのです。

 海水で飼育する生き物は、お世話が淡水の生き物よりも大変です。
 「園長の趣味ですか?」そう聞かれたこともありました。確かにそんな傾向はありましたが、こだわりは、能登の海に住んでいる生き物であること。夏が近づいて、磯や砂浜に行くチャンスがあるのならば、そこで見ることが出来る生き物は飼っておこう。そして、実際の磯で、同じ生き物と出会ってほしい。そんな気持ちで飼っていたのです。

 ヤドカリや磯にいるカニ。5月のこの時期はちょっと早いけれど、せっかく持ってきていただいたのなら、夏まで飼ってみようと、教師たちがそう考えたんだな。そう思って、メールを読んでいたんです。

 ところが遅くに幼稚園に戻ってきたら、園長室にメモがありました。「タツノオトシゴがいます」。
 えっ!タツノオトシゴ?

 玄関の水槽のところに行ってみると、どこにいるのかわかりません。一緒に入っている海草と同じ色なのです。なかなか見つからなかったのですが、あの独特な顔が2つ。確かにタツノオトシゴが海草にしっぽを巻き付けて、飼育ケースに入っていたのでした。


 さぁたいへん。

 ヤドカリやカニの飼い方は知っていますが、タツノオトシゴなんて、水族館で見たことがあるだけ。飼ったことがないばかりか、飼ってみたいと思ったこともありません。
 早速おしえていただいたインターネットで飼い方を調べてみると、「相当の根性がないと飼えません」などと書いてある。えさも生き餌が中心。七尾市のお店では、きっと売っていないだろうなぁと思われるものばかりが羅列されていました。

 餌付けのこつは、どんな場合でも変わりません。おなかがすいてから、与えてみること。
 生き餌ではなく(食べるとラッキーと書いてあった)乾燥餌のブライシュリンプを、24日に飼ってきて与えてみました。ところが全く見向きもしない。
 それならば・・・と、25日の日曜日の夕方、日没間近に百海の海に行ってきました。生き餌のイサザアミをよく食べると書いてあったのですが、似たものが磯で群れているのをよく見ますから、名前はわからないけれど、それをとってくれば良いのかな・・・と思ったのです。七尾の海で生きているタツノオトシゴなのですから、七尾の海にいる似た生き物なら食べるだろう。そう考えたのです。

 大成功!その日の夜に、しっかりと捕食するのを確認しました。何匹か食べた後、ちゃんと居眠りを始めました。タツノオトシゴの居眠りなんて、初めて見たけれど、本当にそんな風に見えるのです。時間がたつのも忘れて見入ってしまいました。
 そして、これで大丈夫。お家の皆様にもご披露できる。そう思ったのです。


 確かにタツノオトシゴは珍しく、楽しい生き物です。しばらくの間、ちゃんと育てられたら嬉しいなぁと思います。えさが手に入らないと思ったら、海に帰してあげないといけないかもしれない。そうも思います。
 けれども、しょせんトピックスにすぎません。子どもたちには、タツノオトシゴよりも、見てほしい生き物がたくさんいます。知ってほしい生き物がたくさんいます。
 幼稚園は、なによりも、そんな常識の生き物たちと共に生きている世界でなければならないのです。

 金魚さん。やっぱり金魚を幼児期に見ておかなければならないでしょう。金魚さんてどんななのと聞かれて、ちゃんとイメージできる和金、琉金、コメットは、必須です。
 メダカとフナ。今はメダカは幼稚園にいないのですが、近々採ってこないといけないなぁと思っています。
 熱帯魚も知っておいたら良いでしょう。いろんな種類はともかくとして、幼稚園で飼っている熱帯魚は、グッピーです。グラスキャットフイッシュもいますが、これは、園長の趣味。

 お花はどうでしょう。
 桜、チューリップ、アサガオ、ひまわり、ホウセンカは定番です。桜を除いて、みんなで種をまき球根を植えて育てていきます。
 お庭にはタンポポが生えています。オオイヌノフグリも定番です。呪文のようなお名前ですが、オオイヌノフグリは、覚えておきたいお花の名前です。。
 それ以外に、シクラメン、スイセン、ベコニヤ、インパチェンス、マリーゴールドなどなど、たくさんのお花が幼稚園を飾ります。今はアマリリスが大きく花を広げています。いろんなお花に囲まれながらも、覚えてほしいお花の定番は、しっかりと関わってほしいのです。

 夏野菜もそうです。
 ナス、ピーマン、トマト。落花生に枝豆。お母さん当てクイズもして、定番お野菜に親しんでほしいと思っています。みんなで育てて、食べてみたいと思います。
 実はそれ以外にもこっそりとすいかが植えてあります。マクワウリもヘチマもゴーヤも植えてあります。こちらはちょっとうまくいくかどうかの自信がありません。
 見え見えの場所にあるのは、いちご。今お花が咲いていて、幼稚園でもいちごが出来るのを、いちご狩り遠足に行ってきたこどもたちはみんな楽しみにしているのです。

 

 残念なのは小鳥たち。長い間飼っていたジュウシマツはいなくなり、今度はセキセイインコがいなくなりました。本当はこの2種類は、幼稚園での定番の小鳥たちでしたが・・・。ここしばらくの鳥インフルエンザ騒ぎで、積極的に飼うことが出来ません。以前には鶏の名古屋コーチンがいたり、金鶏を飼っていたことがあるのですが、遠い昔になってしまいました。


 幼稚園は常識の世界でなければならないとわたしは考えています。
 大人のわたしたちにとっては、珍しいものに目を奪われてしまいます。
 たとえばチューリップ。定番の赤、白、黄色はあまりにも一般的で、おもしろくない。だから変わりチューリップがおもしろい。
 けれども幼稚園にやってくるこどもたちは、生まれてから3年、4年、5年の子どもたち。生まれて初めて自覚的にチューリップを見るときに、やっぱり基本のチューリップから、見てほしいと思うのです。
 赤・白・黄色。基本中の基本のチューリップがしっかり咲いていて、その横にちょっと変わったチューリップが咲いているのがよいのではないか。そう思うのです。あくまで基本は、赤、白、黄色。

 タツノオトシゴはとてもおもしろく、子どもたちの中で気に入ってくれた子もたくさんいます。
 でもそれは、金魚やフナやアメリカザリガニやグッピーがいてのトピックス。トピックスを追いかけるのではなく、壮大なマンネリズムの中での常識を、追い求めたいと思います。

 それでも、タツノオトシゴの居眠り。
 かわいいですよ。

 
(2008年5月27日 七尾幼稚園園だより巻頭言)

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