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「さなぎの中
     どうなっているか
     知ってますか?」

 園長  釜土達雄

 

 とにかく去年から今年にかけてヘンだった。

 暖冬で、全く雪が降らず、ソリ遊びもほとんど出来なくて、困っていたのが一月、二月。あんまりにも雪が降らないので、スタッドレスタイヤを普通タイヤに変えようかと思った三月初旬に、急にたくさん雪が降って、大あわてをしたのでした。少なくとも、タイヤを替えなくてよかった・・・と、ホッと胸をなでおろしたのでした。
 そして、そのあとに起こったのが能登半島地震。気がつけばもう、あの地震から三ヶ月が過ぎたのでした。
 そして今は梅雨、七月です。暑い夏がもうすぐそこまでやってきています。
 「こんな異常気象が続く夏は、暑くなる」。そんな話題が、あちこちで聞かれます。
 本当に暑くなるかのかどうかは別にして、いつもと違うことが起こるというのは、本当にイヤなこと。少なくともわたしはそう思います。


 幼稚園は、「日常」が大事です。毎日が同じことの繰り返し。そのことを維持するために、最もたくさんの時間を使います。

 朝起きて、ごはんを食べる。

 そんなあたりまえが大事です。
 幼稚園にやってきて、おはようございます。
 そんな、あたりまえが言えるようになることが大事です。
 お外の靴から、中のズックに履き替えて、朝のお支度をして、カバンをお部屋の所定の場所に持っていって、自由遊びにはいる。
 それがじぶんでできるようになることが大事なのです。
 お始まりになって、お片付けをして、トイレに行って、ホールの順番に並んで、ホールに入ってきて、お歌を歌ったり、お話を聞いたり、ダンスをしたり、そしてそれぞれのお部屋に帰っていく。
 そんなその一つ一つが、成長の証し。大事なことなのです。

 トイレに行って自分でオシッコができるようになることも、ちゃんと手を洗うことが出来るようになることも、大きくなれば誰でも意識しないで出来るその一つ一つが、子どもたちにとっては一大事。そんな一つひとつが出来るようになることこそ、子どもたちの幼稚園で学ぶ最も大事なことなのです。


 ところがそんな日常の中に、突然のトピックスが起こります。

 
 先日、アゲハチョウの幼虫を持ってきてくださった方がありました。
 ミカンの葉っぱを食べていたので、同じミカンの葉っぱを探さないといけません。大あわてで、「ミカンの葉っぱありませんか?」と呼びかけました。幸いなことに、あちこちからご提供があって、このアゲハチョウの幼虫はすくすくと育っていったのです。
 ここ数日、毎日のように、さなぎになるこのアゲハチョウがいます。また、さなぎから脱皮してチョウチョにもなりました。
 甲部先生恒例の「ピンポン、パンポ〜ン。」がありました。「これからチョウチョを逃がしてあげます。見たい人は玄関まで来てください」の放送です。たくさんたくさん子どもたちが集まってきて、チョウチョさんとお別れをしました。ずっと一緒に過ごしてきた、成長を見続けてきたチョウチョさんとのお別れだったのです。



 そうそう、こんなこともあります。
 春にカブトムシの幼虫がやってきました。グニョグニョ動く白くて大きくなイモムシさん。AぐみさんとBぐみさんは、そのイモムシさんを手に乗せてみることにチャレンジしました。衝撃的なトピックスでした。
 そのカブトムシの幼虫がさなぎになりました。しかも、飼育ケースの腐葉土の上の方に、頭を出したままさなぎになってしまいました。さらにそれは、カブトムシの雄二匹。何で雄だと分かるかというと、カブトムシの雄の形のまま、黄色のさなぎになっているからです。
 「ヘンなカブトムシがいる!」子どもたちは大騒ぎ。驚きのトピックスです。




 幼虫がさなぎになり、チョウチョになって旅立っていく。それを何度も見てきた大人にとっては常識でしょう。けれどもそれをはじめて見る子どもたちにとっては、あまりにも衝撃的なトピックス。出来事なのです。
 カブトムシでも同じこと、幼虫を手に乗せた衝撃もトピックスならば、カブトムシのさなぎを見たことはさらなる衝撃です。そして、そのさなぎが大人のカブトムシと同じ形をしているのを発見したならば・・・。それはもっともっと、大きな衝撃となるに違いない。


 日常を軽んじてはいけません。
 日常の中にあるトピックスこそが、何よりも大事ですし、日常こそが何よりも大切なトピックスを、たっぷりと内に秘めているのです。

 アゲハチョウのさなぎや、カブトムシのさなぎ。あの中は、どうなっているのかご存じですか?
 わたしは小学生時代に、見たくて見たくてしょうがありませんでした。そして何度も何度もこっそりと、中を開いて見てみたのです。
 その衝撃的なお話しはいたしません。
 けれどもごくありふれたさなぎの中にも、実に衝撃的な不思議な命の営みはあるのです。


 幼稚園は毎日が同じことの繰り返しです。毎日が同じの、日常生活の中にある。
 しかもその日常は、春・夏・秋・冬の、季節の変化の中にある日常。昨日と同じ今日ではない世界。今日と同じ明日ではない世界。季節の変化が少しずつ現れてくる、ステキなステキな世界です。マンネリにはなりようのない、ステキな日常が、わたしたちの幼稚園の置かれている場所なのです。

 無理してイベントを考える必要はありません。特別な行事を、企画する必要もないでしょう。日常の中に、子どもたちに知って欲しい山のような常識が、たっぷり転がっているからです。そしてその衝撃の方が、ヘンな企画ものや天変地異よりもはるかに大きな衝撃的なイベントになるのです。


 だから、雪が降らない冬もいらないし、涼しい夏もいらない。暑すぎる夏もいらない。雨の降らない梅雨も結構。もちろん、地震なんて、本当にいりません。
 子どもたちのためにも、ヘンな季節はいりませんからね。
(2007年6月30日 七尾幼稚園園だより巻頭言)

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