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職員室から

事務主事 釜土蘭子


 
 毎年三月の園だよりには、「別冊」がついています。一年間のAぐみさんとしての歩みを担任教師が書く、「Aぐみのおへやから」と、私が書く「卒業生の横顔」です。


 年度末が近づくと、その原稿の事が頭の中にいつもあります。一人一人の顔を見ながら、何を書こうかなと考えています。いえもっと正確に言うのなら、その子が入園してからずっと考えているといってもいいかもしれません。私にとってはそれほどに思い入れのある原稿です。「横顔」というよりは、そして、現在のそして将来の一人一人に届けたいメッセージの意味が強くなってしまうようになりました。年を重ねて、「老婆心」が強くでるようになった気もします。
 
 
 園長先生が巻頭言で書いているように、このクラスはおとなしいクラスでした。教師の気持ちをよく理解して行動してくれたクラスでした。あんまり叱らなくてもいい子供達、だからちょっと心配だったのです。
「もっと自分を表現しようよ!」「やりたいことを言おうよ!」そんな気持ちで接してきた一人一人だったのです。
Bぐみの運動会ごっこの時。間違えないようにと岡本先生のダンスを見てばかりいた子供達の姿がありました。それをやめられるように、「岡本先生は踊っちゃダメ」とあえて言って、「みんなだけでもできるでしょ!」とハッパをかけたことがありました。
 Aぐみの運動会では、「子供達だけでリレーごっこができるように」と指示した事もありました。卒業式にみんなでする最後の合奏には、「担任教師は見てるだけ」という異例の形をとりました。
 卒業までに「自己表現力」をつけてほしい。そんな願いを込めて過ごしてきた日々でした。

 今卒業を目前にして、元気に遊ぶ子供達。「幼稚園教育修了証書」を渡すのにふさわしく成長した一人一人に、心からおめでとうと言いたいと思います。
 
 卒業、おめでとう。

 自分の気持ちをうまく表現できなかった小さい頃の君達。それが今はどうだろう。
 一人一人がそれぞれに、自分を表現する道をもったね。
 あるお友達は巧みな言葉で、あるお友達はリーダーシップで、あるお友達はひょうきんさで、あるお友達は包容力で、あるお友達は調整力で。また製作品や音楽で・・・。それぞれに、自分を表現する場所を持っている。

 だからといって、お友達と衝突するわけじゃない、それぞれがお互いを認めあっている仲間達だった。それがステキなクラスだった。

 これからそれぞれの小学校に分かれていくけど、そうしたら一度はちょっとおとなしい君たちに戻ってしまうかもしれないね。
 でも入園した時の君たちとはもう違う。どこにいってもしっかり「自分」を表現できるだろう。
「自分を表現する事」、それは、かけがえのない一人一人が「自分」であるために必要な事なんだよ。「自分」を表現する事で傷つくんじゃないかとおそれないでね。
 評価されない時もあるかもしれない。落ち込むこともあるかもしれない。でも人に流されない「自分」をしたたかに持ち続けていって下さい。傷ついた時には、幼稚園に遊びにおいで。落ち着かなくなったら、小さい頃の写真を見てごらん。きっと自分を取り戻すのに役立つと思う。

 卒業おめでとう。
 あなた達に出会えて、本当によかった。
(2006年3月16日 七尾幼稚園 職員室から)

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