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「七尾幼稚園って どんなとこ?
   こんなとこ。」

 園長  釜土達雄

 

 今年度から大きく変わったことがありました。
 それは、幼稚園の入園願書配布時期と入園願書受付時期。
 九月二〇日配布で、一〇月一日受付開始。石川県全県の私立幼稚園が、同じ日程で行なうことになりました。
 もちろん、実際には未満児保育がはじまっていますから、途中入園は良くあることです。途中入園の方にとっては願書の配布や受付は全く意味のないことですが、4月入園をお考えの方にとっては大事な日時です。それが、石川県全県で統一されたのでした。

 このことは、石川県私立幼稚園協会がテレビスポットやラジオスポットでコマーシャルをしていましたから、事前にお気づきになった方もいらっしゃるかもしれません。
 けれども、考えてみれば入園準備が1ヶ月早くなるのです。それを忘れて、いつもの通り夏を過ごしていた私たちにとっては、すぐに九月の中頃になってしまい、てんてこ舞いになってしまいました。
 しかも、入園願書の受付開始日は一〇月一日。その日は七尾幼稚園の運動会の当日なのです。もしその日が雨天で、事前に運動会の会場をワークパルに変更することになってしまったら・・・。肝心の一〇月一日はどうしたらよいのでしょう?
 何はともあれ、新しいことがはじまると多少の混乱はあるもの。今年度は致し方ないとしても、今後は工夫をしていきたいと思います。


 しかしそのような変化の中で、9月になってから何人かの方が七尾幼稚園に見学に来てくださいました。入園願書受付時期の変更を知っておられる方もいらっしゃいました。これは喜ばしいことでした。

 幼稚園を見学に来てくださる人には、なるべく園長のわたしがご案内をしたいと考えています。そして、幼稚園についてご質問があったときには、なるべくちゃんとお話ししたいと思っています。
 園舎の構造のこと。アルミサッシの安全対策のこと。アクリル板を使っている箇所のあること。そんな一つひとつをお話ししたいと思います。もちろん、保育の内容もその一つ一つをお尋ねいただければ、大喜びで長話をしてしまうに違いありません。それは、いつも心にかけている毎日の保育そのものなのですから。

 ところが、そんなわたしにも苦手な質問があります。
 「七尾幼稚園って、どんな幼稚園なのですか?」
 「七尾幼稚園の特徴は何ですか?」

 きっとわたしは、かなり困った顔になって、急に元気のないお答えになってしまうと思うのです。

 「七尾幼稚園は、特別のことをしているわけではないし・・・」。そう思います。「英語を教えているわけでもないし、漢字を教えているわけでもないし、はだし保育やわらじ保育をしているわけでもないし・・・」。そう思います。「毎日楽しくお遊びしているだけだから・・・」。そう思ってしまうと、なんだか急に元気がなくなってしまうのです。

 「ようするに、七尾幼稚園って、どんな幼稚園なのですか?」
 これは大変説明がしにくく、本当に困ってしまうご質問なのです。


 なぜ困ってしまうのかと言えば理由があります。それは、七尾幼稚園は、普通の幼稚園だからなのです。





 普通の幼稚園はどんなことをするのか。
 幼稚園については、学校教育法第七七条・第七八条にその目的が明確に記され、その内容も記されています。

第七七条 幼稚園は、幼児を保育し、適当な環境を与えて、その心身の発達を助長することを目的とする。
第七八条 幼稚園は、前条の目的を実現するために、次の各号に掲げる目標の達成に努めなければならない。
一.健康、安全で幸福な生活のために必要な日常の習慣を養い、身体諸機能の調和的発達を図ること。
二.園内において、集団生活を経験させ、喜んでこれに参加する態度と協同、自主及び自律の精神の芽生えを養うこと。
三.身辺の社会生活及び事象対する正しい理解と態度の芽生えを養うこと。
四.言語の使い方を正しく導き、童話、絵本等に対する興味を養うこと。
五.音楽、遊戯、絵画その他の方法により、創作的表現に対する興味を養うこと。
          (学校教育法 抜粋)

そして、この学校教育法に従って、定められている「幼稚園教育要領」は次のようになっています。目次だけを記してみましょう。

第1章 総 則
1 幼稚園教育の基本
2 幼稚園教育の目標
3 教育課程の編成
第2章 ねらい及び内容
健 康
人間関係
環 境
言 葉
表 現
第3章 指導計画作成上の留意事項
        (幼稚園教育要領 目次)

 「健康」「人間関係」「環境」「言葉」「表現」。これら5つの領域が、幼稚園でなされる教育の中身です。
 そしてそれらの体験や経験を計画的にしてほしいと願って作り上げられるもの、それが「指導計画」です。その指導計画を作り上げる責任者が、園長の職務なのでした。

 


 わたしは、二三年間、七尾幼稚園の園長をいたしております。けれど、「これで十分」と思ったことは一度もありませんでした。あんな経験もさせてあげたい、こんな経験もしてほしい。そう願いながら、あんな経験もこんな体験も十分にさせてあげられないまま、時が過ぎてしまうのです。捨てなければならない企画が、たくさんあるのでした。本当に時間がないのです。
 だからといって、これでいいと妥協することもできません。年度替わりの年間計画打ち合わせ会では、できなかったことも加えた年間計画で、新しい年度の打ち合わせをすることになっています。
 どこの幼稚園も、どんな幼稚園も、必ずしなければならない教育課程の編纂。指導計画の作成。それは特別のことではなく、幼稚園としてごく常識的にしなければならないことなのです。そして、それらをきちんと丁寧に行なうことが、とても時間がかかり、これで終わりということのない、とても深い内容の伴うことなのです。わたしは、この幼稚園としての常識を、どこまでも丁寧にやりたいと考えているのでした。


 だから困るのです。
「七尾幼稚園の特徴は何ですか?」「ようするに、七尾幼稚園って、どんな幼稚園なのですか?」
 答えようがないのです。ごく普通の幼稚園を目指しているから、答えようがない。どんな幼稚園かと言われても、昔からある古典的な幼稚園が目指していたものを、今でも同じように目指しているから、新しい保育も斬新なアイデアもないのです。壮大なマンネリズムの中にあるのです。
 おばあちゃんが七尾幼稚園で経験し、お母さんが七尾幼稚園で経験したことを、今度は七尾幼稚園の今いる子どもたちにも同じように経験してほしい。そう思って毎日を過ごしているのです。

 確かにそうなのです。だから、答えることは大変困難だけれども、見てほしいというものは、確かにあります。
 戦前から運動会で使われていた大玉。この大玉を使って、CぐみさんやDぐみさんは大玉ころがしをします。おじいちゃんやおばあちゃんが使っていたのと同じ大玉です。玉入れ、戦後すぐから使っていたポールは、ネットを張り替えて今も現役です。
 いえいえ、そうではありません。本当はそんなものを見てほしいのではないのです。
 それらの物品も思い出として大事なものなのだけれど、もっともっと大事なのは、「普通の幼稚園」「古典的な幼稚園」で過ごしている子どもたちの笑顔や温かさ。この幼稚園で毎日過ごしている子どもたち全体の雰囲気です。この子どもたち全体の雰囲気を、「見て味わってほしい」と思います。

 幼稚園の主役は幼稚園の先生ではありません。幼稚園の子どもたちです。幼稚園の雰囲気を作り出しているのも、子どもたち自身。小さな子どもたちを手助けするのは、先生達よりも先に、少し先に生まれた子どもたち自身なのです。だから、先生という字は「先に生まれた」と書くのでしょう。

 「七尾幼稚園ってどんなとこ?」
 わたしはうまくは答えられないのだけれど、七尾幼稚園を見学に来てくださっている人にいつも答えることにしているのです。
 「ほら、ここにいる子どもたちが七尾幼稚園です。この雰囲気が、七尾幼稚園です。七尾幼稚園って、こんなとこ。」

(2005年9月29日 七尾幼稚園園だより巻頭言)

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