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「教育実習生と共に」

 園長  釜土達雄

 

 五月になって例年のごとく、保育学科の実習生がやってきました。将来、幼稚園の教諭や保育園の保育士を目指す学生達の幼稚園実習です。
 今来ているのは、北陸学院短期大学保育学科の実習生三名。五月九日から二七日の三週間の実習です。このあと五月三〇日から六月十七日には、北陸学院の別の三人が実習にやってきます。時期を同じくして五月三十日から五週間の予定で実習に来るのが金城大学短期大学部の二人。それ以外にも、金沢福祉専門学校や大阪の短大の学生もやってきます。
 保育士の資格を得るには保育所の実習が欠かせないし、幼稚園教諭の免許を得るには幼稚園での教育実習が欠かせません。保育士資格と幼稚園教諭資格の両方をとりたいと考える学生は、保育園の実習も幼稚園の実習もしなければならない。ところが、七尾周辺に保育園はたくさんあるのですが、幼稚園は圧倒的に少ない。幼稚園が少ないとすれば・・・七尾幼稚園にある程度実習生集中するのもいたしかたない・・・そう思います。

 教育実習生を受け入れるというのは、そんなに嬉しいことではありません。慣れた教師が、自分たちで自分たちの保育を展開していくこと、それはとっても楽なこと。
 ところが実習生がやってくると、保育計画を見てあげなければなりません。実習日誌も見てあげなければなりません。一日の反省を聞き、適切な指導が必要です。実習日誌には、指導教師のコメントが欠かせません。
 正直に言えば、かなりめんどくさい話なのです。

 それでも、すてきな出会いがないわけではありません。
 教育実習生として七尾幼稚園で過ごした学生が、保育園や幼稚園に就職し、いろんな研修会で出会うことがあります。「やきいも大会、今でもやっていますか?」と聞かれることがあります。「先生の一言が、いまでも励みになっています」。そう、懐かしそうに話をされることがあります。
 短い時間であったけれど、一人ひとりが成長して、子どもたちの前に立っているんだなと思うと、しっかり教育実習をさせてあげようと、思います。

 ましてや、七尾幼稚園で教育実習をして、そのまま七尾幼稚園に就職してしまった先生がいたりすると・・・甲部先生のことですが・・・教育実習もすてきなものだなぁと思います。そして、自分が書いてもらっていた実習日誌に、その甲部先生が助言の言葉を書いているのを読んでいると、一人の教師の成長に心から驚きます。そして嬉しくなるのです。教育実習はすてきだな。そう思います。

 だからわたしは、いつの間にか実習生とおしゃべりをするのが大好きになりました。ほんのちょっとのヒントで、みんないろんな発見をしてくれまし、それが次の保育に生かされていきます。ピアノのように、一生懸命練習しないといけないものもありますが、ほんのちょっとの発想の違いで、保育の中身が変わってしまうものもあるのです。


 実習生達は、意気込んで「子どもたちのお世話」をしようとやってきます。ところが、年少のCぐみさんでも、入園式から一ヶ月がすぎて、もう幼稚園生活にかなりなじんでいます。自分で出来ることが多いのです。ごはんも自分で食べることが出来るのです。どうしてよいかわかりません。無理に手伝おうとしても、「そんなの自分で出来る!」とぴしゃり。ましてやBぐみさんやAぐみさんは、もっといろんなことが出来るのです。

 子どもたちの「ケンカ」を、どう仲裁するか・・・。実習生の大いに悩むところです。ところが、ケンカになっても子どもたち同士が自分たちで解決していく姿を目にします。実習生よりも、Aぐみさんの方が上手に仲裁する事ができます。

 自分が思い描いていた幼稚園の生活と、実際の幼稚園の生活とのギャップに、驚きととまどいを感じる日々なのです。悩みながら、子どもたちの前で実際に絵本を読んだり手遊びをします。その中で子どもたちの実際を体感する。そんな経験の喜びが、実習日誌に出てきます。保育科の学生が、保育者に変わり始める大事な瞬間。だからこそ、教育実習はおもしろい。


 去る五月十九日、七尾幼稚園のA・Bぐみのイチゴ狩り遠足が行なわれました。続いて二三日にはC・Dぐみのイチゴ狩り遠足が行なわれました。子どもたちの感動と、満面の笑顔の報告が、実習生の実習日誌にも書かれていました。

 すべてが終わったあと、わたしは実習生に質問したのです。
「何でイチゴ狩りだと思う?」
 実習生が答えます。「子どもたちはイチゴが好きだから」。
「そうか、だったら、買ってきて幼稚園で食べてもいいよね。何でイチゴ狩り?」
 はっとした顔をして、実習生が答えます。「イチゴが実っているところを見せたいから」。
 「そうそう、だけど何でイチゴ狩り?」

 三度もおなじ質問なので、実習生達は困った顔をしました。そこで少し解説を始めたのです。
 「七尾幼稚園では秋にリンゴ狩り遠足といもほり遠足をするんだ。リンゴは木になる果物。いもほりは土の中になるサツマイモ。木になるものと、土の中になるもの。イチゴは土の上になるもの。この三つの違うところで実る食べ物を、実際に畑や果樹園で経験して欲しくて、行っているんだ。全部木になるものでも困るし、全部土の中になるものでも困る。全部土の上になるものでも困るんだ。だからイチゴ狩りなんだよ。
 今やっている保育は、一年間の大きなカリキュラムの中に、位置づけられている。一年間で経験して欲しいあれこれのひとつが、今やっている一つひとつなんだ。一年という大きなサイクルの中で、この行事は何をねらいにしているかを知っていないと、ただ行事をこなしているだけになっちゃうんだよ。それは保育とはいわないんだ」。

 ちょっと専門的な話に、なるほどと納得した実習生の顔が嬉しかった、園長なのでした。

 ところがそのうちの一人が、こんな質問をしてきたのです。「けれど何でイチゴ狩りですか?他の土の上になる野菜でもいいと思うんですけど。」
 「そりゃそうだ。だけど、イチゴは感動的で衝撃的だよ。子どもたちが好きだから。
 同じ土の上になるものでも、ピーマン狩りやトマト狩り、それになす狩りじゃ、イチゴ狩りほどの感動を演出できないよね。イチゴなら何個も食べる楽しさもあるよね。
 いもほり遠足も、焼き芋大会まで結びつけるからおもしろいんだ。同じ土の中になるものでも、『今日は大根狩りに行きます!』だと、どうも・・・。おでん大会でもいいんだけど、ちょっと感動が違うかなぁ。」

 「もちろん、それらがどんなふうにに実るか知って欲しいから、幼稚園のプランターにはいちごもあるし、なすもピーマンもトマトも作っているんだよ。」

 
なぜと問われるときに、理由を答えられるのがカリキュラム。なぜと問われるときに、その理由を答えられる環境構成でなければならないのです。


 みんなが生きているこの世界は不思議に満ちています。楽しい事がいっぱいあります。その事を幼稚園時代にしっかり味わってもらえるように、七尾幼稚園のカリキュラムを組み立てています。

 幼稚園の毎日でたくさんの事を経験していく中で、この世界のすばらしさ、不思議さ、おもしろさを、子供達がいっぱい感じてほしいとおもいます。


(2005年5月26日 七尾幼稚園園だより巻頭言)

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