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「まん丸お目々のむこうがわ」

 園長  釜土達雄

  Aぐみさんのお部屋の横のベランダにはいくつものプランターが置いてあって、先日Aぐみさんと野菜苗を植えました。
 なす・ピーマン・ミニトマト・大きなトマト・えだまめの五種類です。今毎日、Aぐみさんのお当番さんが水やりをしてくれています。
 幼稚園の園庭にもプランターがいくつも置いてあって、先日BぐみさんがAぐみさんと同じように野菜苗を植えてくれました。同じくなす・ピーマン・ミニトマト・大きなトマト・えだまめの五種類。こちらの方はお当番がいなくて、先生の声かけによってAぐみさんも、Bぐみさんも、Cぐみさんも、お手伝いの水やりをしてくれることになっています。もちろん、自分たちが植えたものだと思っているBぐみさんが一番熱心です。

 ところがこれらのプランターのあるところには、最初から植物が植えてあったり、毎年生えてくるものが植えてあったりするプランターもあるのです。
 園庭のプランターには、ニラとパセリ、そしてイチゴのプランターが置いてあります。そしてAぐみさんの横のベランダにもイチゴのプランターが置いてあります。





 イチゴが花をつけ、小さなイチゴが実りつつありました。そんな中での『野菜植え』でした。去年の『いちご狩り遠足』のことが話題になる中での『野菜植え』だったのです。


 去る五月二四日に、CぐみさんとDぐみさんは『いちご狩り遠足』に出かけてきました。好天に恵まれた、ホノボノとした温かい日でした。
 ところがそれに対してAぐみさんとBぐみさんが出かけた二〇日は、天候がすぐれない日でした。その中での決行でした。この日を逃したら、次に経験して欲しい経験が出来なくなる。そう考えてのちょっと無理した強行でした。幸い雨は降らなかったので、ホッとはしましたが、はらはらドキドキだったのです。

 幼稚園では、子供達に経験して欲しいことがいっぱいあります。ひとつ自然や環境に関わるものだけでもたくさんあります。特にAぐみさんやBぐみさんはもりだくさんです。

 四月には『カエルのたまご』の「デロデロ」を触ってみました。
 その後はオタマジャクシの成長を観察しています。今後ろ足が出始めたオタマジャクシがあり、まもなく前足が出ることでしょう。みんなでエサをやって育ててきたオタマジャクシです。お庭に放してやるつもりですが、この全部がカエルになってお庭で生活をし始めたら・・・そんな不安はありますが、何はともあれそういうつもりです。




カブトムシの幼虫をたくさん持ってきてくださった方がありました。幼稚園の玄関で飼育しています。
 普段腐葉土の中に入ったまんまで、目にすることは出来ません。けれども、幼稚園にやってきたときには、時間を設けてAぐみさんとBぐみさんは手に乗せてみました。毎年の恒例ですから、去年乗せたことのあるAぐみさんは自慢げに手に乗せていました。「産毛が生えている」って言っていたお友だちもいました。細かなところまで観察できましたね。










 去年から飼っていたキアゲハのさなぎが、いきなりチョウになったのには驚きましたね。見つけた蘭子先生も一緒に発見した子供達も大いに喜びました。ホールでご紹介して、はがきに印刷して、卒業した去年のAぐみさんにご報告したのです。「みんなで観察していたさなぎがチョウになりました!」喜んでくれた去年のAぐみさんも、いっぱいいましたね。

 去年からといえば、カマキリのたまごのかたまりが三個、飼育ケースに入っています。楽しみにしている子供達が何人もいます。
 スズムシのたまごが眠っている飼育ケースが三箱あります。
 これらは今後のお楽しみ。

 チョウといえば、皆さんのご協力をいただいてアオムシがたくさんやってきました。
 「あおむしが、
   ぁ、さなぎになって、
     ぁ、ちょうちょになる」
 あの得たいのしれない振り付けと共に、子供達が叫んでいるこのセリフ。「ぁ、」のところがミソなのですが、アオムシをたくさんいただいた日に、アオムシと共に幼稚園のホールの時間に紹介したのです。

 そうそう、CぐみさんとDぐみさんがいちご狩り遠足に出かけているその日、AぐみさんとBぐみさんにはタケノコを紹介しました。
 園長先生の身長よりもの大きなタケノコと、本当に手のひらにはいるほどの小さなタケノコ。そして、大きさも太さも、とっても美味しそうなタケノコ・・・。
 その丁度良いタケノコのお洋服を少しずつ脱いでもらったら・・・。全部で「三八枚」もありました。「こんなに着ていて、暑くないかしら?」そんな声が、いちご狩り遠足からかえってきたわたしの元に、聞こえてきたのでした。

 

C・Dぐみさんの『いちご狩り遠足』も終わって、プランターの水まきを手伝ってくれていたBぐみさん。何人もが大声で玄関の先生のところに報告してくれました。
 「イチゴがなってる!」
 「もう赤くなってる!」

まん丸お目々で口々に、興奮して、大喜びで報告してくれました。
 「お友だちにも、教えに行こう!」
 「うん、行こう!」
 その声は弾んでいます。

 幼稚園教育は、『子守り』とはかなり違います。「安全を確保し、悲しい思いをさせないで、遊ばせておく子守り」。そのことはとても大事なことなのですが、それを遙かに超えた子供達の体験・経験の中に、子供達の小学校に向かう大きな成長の基礎があります。
 幼稚園教育は、『お勉強』ともかなり違います。「ひらがなを覚えたり、漢字を覚えたりするお勉強」も大切ですが、その漢字の意味やひらがなでつづられた言葉の意味を体験・経験することの方が、より大事なのです。


 『ひらがなで「ともだち」と
   書けても読めても
  漢字で「友達」と
   書けても読めても
  英語で友達が「friend」だと
   知ってて、発音できて、つづれても
  お友達がいなかったら、
   何になる!』

 幼稚園は、「当たり前のこと」を、「当たり前のこととして伝える」ことが使命です。「常識」を「常識」として伝えることが役割です。
 その当たり前で常識的なことを、大きな喜びと感動を持って味わって欲しい。

 「先生、イチゴがなってる!」
 「もう赤くなってる!」
 あの言葉の中に、どれほどの驚きと感動と発見が込められていることでしょう。
 スーパーで売っているイチゴが畑にあって、みんなと一緒にいちご狩り遠足に行って、食べてみて、スーパーのイチゴと同じ味がして、あの畑になっているイチゴと同じイチゴが、幼稚園でも出来ていた・・・。


 あの驚きと感動と発見のまん丸お目々が、わたしたちの喜びなのです。


 
(2004年5月21日 七尾幼稚園園だより巻頭言)

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