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サンタクロースが
 偽物だと判ったときに

園長 釜土達雄




  先日、母の会の役員の皆さんとお話しする時がありました。その時に、何気なくクリスマスの話題になり、クリスマスプレゼントとサンタクロースのことに話が進んでいったのでした。

「クリスマスプレゼントどうしてる?」 
「困ることがいっぱいよね」
「煙突がないのにサンタクロースが来るの?って言われて困ったわ」
「困るのよ、プレゼント買った後に、『やっぱりこれにする』って変えられても・・・」
 などなど、考えてみればクリスマスプレゼントの悩みはつきません。
 しかもその最大の悩みは、いないはずのサンタクロースを、とりあえずはいることにして、全てが組み立てられていると言うこと。

 サンタクロースにお礼のお菓子を用意して寝ちゃった我が子。お菓子を食べちゃった方がよいのかどうか?夫婦で悩んじゃったり・・・。ところがその次の年には、お菓子だけでなくて、お礼のプレゼントまで置いてあって・・・やっぱり困った話。
 「サンタさんに欲しいプレゼントを、手紙に書いてね。お母さんがサンタさんに渡してあげる」って言ったら、ちゃんと手紙を書いてくれて欲しいプレゼントが判ったのは良かったのだけど、「必ずお返事ください」って書いてあって・・・。
 いないはずのサンタさんを「いることにしている」ものだから、小学生になった我が子に、いつどんなふうに伝えようか・・・。みんな悩んでいるのです。
 そして、こんなことなら最初から「サンタクロースなんていない!」と言うことにしておけばよかったなどと、良心の呵責にさいなまれると言うことも良くある話なのです。


 そんな時にわたしは北陸学院短期大学英語科で、長い間教授をしておられたバージニア・ディターという先生から聞いた素敵な話を思い出します。今から七年前にもこの園だよりの巻頭言で記したのですが、その時に記した素敵なお話しを少々手直しをして今回も記したいと思います。

 それは、あるお母さんが、自分の子どもに涙を浮かべてサンタクロースは偽物だと訴えられたというお話です。

 クリスマスも間近い日の午後、小学校から帰ってきた少女が、お母さんのいる台所に飛び込んできていきなり大声で叫んだのでした。
「サンタクロースなんていない!
 サンタクロースなんて偽物だ!
 あれはお父さんのお芝居だ!
 わたしが寝てしまったときに、こっそりプレゼントをおいていくだけなんだ。
 本当はウソなんだ!」

 突然の大騒ぎ。少女の方は興奮していたのですが、お母さんは冷静に答えたのでした。

 「どうしてそう思ったの?」

 「今日みんなに、『今年のクリスマスプレゼント、サンタさんに頼んだ?』って聞いたらみんなが一斉に言ったの。『そんなことまだ信じてるの?バカじゃない!』って。『サンタクロースなんて作り話。そんなこと信じてるのは、あなただけ』だって・・・。
 わたしがお部屋にプレゼントを置いていくサンタさんを見たことがあるって言っても、『それはお父さんの変装』だって。
 お母さん、うそついていたんでしょ。お父さんもうそ付いていたんでしょ。みんなでうそついて、私をだましていたんでしょ。サンタクロースなんていないんでしょ!
 みんなうそつきばっかり!」

 いつか必ずどの子にも、そんな時代がやってくる。そしてこんなふうに訴えられて、絶句してしまうお母さん・お父さんがいます。また、こんな日がこないことを、ひたすら願っている家族がいるのです。
 その子がいったいいくつの時だったのか?私はディーター先生に確かめていないのですが、たしか小学校の三年生、あるいは四年生のころだったとおっしゃっていたような気がします。けれどもそれはそんなに大事なことではありません。小学校一年生でも、六年生の時であっても、いつか必ず本当のことを知らなければならない時が、必ず来るのです。その時どうするか。そこが大事です。

 ディーター先生の話すこのお母さんは、決してビックリしませんでした。とっても嬉しそうで、ニコニコしていました。かなり体重が重くなった我が子を抱き上げて、テーブルの前の椅子に座らせ、自分はその反対側に座り、その子の手を握りました。

 その時、サンタクロースが偽物だと知ったその子は、お母さんが言っていたことやお父さんが言っていた全部のことがウソだと思っていました。誰も信じられなくなっていて、ショックを受け、ワナワナと震えるほどに怒っていたのです。お母さんなんか信じられないと思って、お母さんをにらみつけていたのです。
 けれどもそのお母さんは全く対照的に、本当に嬉しそうで、ニコニコして話し始めたというのです。

 「おめでとう。あなたが大きくなってお母さんは本当に嬉しい。あなたは、サンタクロースの本当がすっかり判ったほどに大きくなったのだから、お母さんは本当に嬉しいのです。だから、ちょっと待っていなさい。」

 そう言って、おもむろに立ち上がり、夫婦の寝室に入っていったのでした。
 そして少し大きめの箱を大事そうに抱えて帰ってきました。
 その箱の中には、きちんと洗濯されて、たたんでしまわれていたサンタクロ−スの衣装が入っていた。それは間違いなく、この少女のためにこの夫婦が用意していたサンタクロースの衣装でした。

 「確かにこれが今までお父さんが使っていたサンタクロースの衣装です。あなたの枕元にサンタクロースのクリスマスプレゼントを置く時に使っていた衣装ですよ。あなたの言うとおり、あなたの所にプレゼントを持ってきたサンタクロースは偽物です。お母さんが欲しいプレゼントをあなたから聞いて、お父さんが買ってきて、二四日の夜に、お父さんがこの衣装を着てあなたの枕元に置いてきたプレゼントです。
 今まであなたは、サンタさんからプレゼントをもらって喜んでいました。それを見ておお父さんも喜んでいました。お母さんも、喜ぶあなたを見て嬉しいと思っていました。
 けれどもあなたももう大きくなりました。サンタクロースが偽物だと判るほどに大きくなったのです。

 サンタクロースが偽物だと判った今、もうプレゼントをもらってばかりではいけません。お友達や回りの人々にも目を向けて、これからはお父さんやお母さんと一緒に、プレゼントをさしあげる側になるのです。
 もちろん品物ばかりではいけません。優しい心も、深い愛情も、プレゼントできるようでなければいけませんよ。
 サンタクロースが偽物だと判ったのだから、これから毎日、あなたがサンタクロースになるのです。
 ですから、今年のサンタクロースからのプレゼントはありません。今年のクリスマスプレゼントは、このサンタクロースの衣装です。そして来年からは、サンタクロースからのプレゼントではなくて、お父さんとお母さんから、あなたにクリスマスプレゼントをしますからね。」

 そう言われて、その子のその年のクリスマスプレゼントはそのサンタクロースの衣装だったというのです。そしてそのサンタクロースの衣装は、少女の一生の宝物になったというのでした。


 なつかしそうに語られるディーター先生。申すまでもなくこの涙ながらに訴えた子は幼い頃のディーター先生でした。
 そして少女時代のディターの訴えに驚かなかったのは、ディーター先生のおかあさんでした。かけがえのないディーター先生の母の思い出ですが、それ以上に、わたしにとっても深く考えさせられる言葉でした。
  
(2002年12月20日 七尾幼稚園園だより巻頭言)



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