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本当のクリスマスの準備



園長 釜土達雄




  二〇〇二年もあと一ヶ月。年の瀬が近づいてきました。

 十二月と言えばクリスマス。
 最近では、気の早いお店は十一月の初め頃からクリスマスの飾り付けがあったりするので、ちょっと苦笑してしまいます。なぜかと言えば、キリスト教の暦(教会暦)では、クリスマスの準備の期間が決まっているからです。アドベントと呼ばれていて、日本語では待降節。クリスマスの礼拝を守る日曜日から数えて三週間前の日曜日からがアドベント。そして、その日からクリスマスツリーをかざったり、クランツを飾ったりするのです。クリスマスを迎える準備をする期間がアドベントです。
 七尾幼稚園でもクリスマスの準備として、アドベントが始まる前に、アドベントのための準備を始めます。
 ホールに飾る大きなアドベントカレンダーの準備をします。一〇年ぐらい前に、母の会の皆さんが手作りで作って下さったものです。
 ローソクをともすクランツの準備をします。幼稚園の先生方のみんなで作る手作りのクランツ。ホールのピアノの横に天井からつるすのです。
 アドベントに入ってしばらくするとクリスマスツリーが幼稚園の玄関とホールに運び込まれます。それに何日もかけてクリスマス飾りを付けていきます。天井からサンタクロースがつるされたり、窓ガラスに化粧が施されたり・・・一度に出来上がるのではなくて、子供達と一緒に毎日毎日少しずつ作り上げるクリスマス。ワクワクする楽しいクリスマスへの準備が、少しずつ少しずつ作り上げられていくのです。

 たしかに、クリスマス準備は目に見える形で進んでいくことになるでしょう。そしてそれは楽しいクリスマスに向かっていく大事な準備です。けれども、七尾幼稚園の本当のクリスマスの準備は、いつも園長であるわたしの一つの話から始まっていると言うのが本当です。目に見える形としてのクリスマス準備ではなくて、本当のクリスマス準備は、目に見えないところから始まっているのでした。

 今年も二十七日のホールの時間に、お話をしました。

 「もうすぐ十二月。十二月には何がありますか?」。そんなふうに話を始めると、「クリスマス!」。「クリスマス、楽しみだね」と続けると、急にワイワイがやがやとお話しが始まります。子供達の頭の中には、サンタさんやクリスマスプレゼント、クリスマスツリーやケーキなどなど、楽しいイメージがいっぱいになるようです。ワイワイとおしゃべりが続くのです。

 そんな楽しい雰囲気で盛り上っている最中に、次の質問をします。

「それでは、クリスマスは何の日だか知っていますか?」 

 毎年聞いているAぐみさんの中には、もう知っているよというお顔をする子もいます。CぐみさんやBぐみさんの中にはキョトンとしたお顔をする子もいます。それでも、「プレゼントをもらえる日!」「ケーキを食べる日!」と答えるお友達もいます。

「では問題です。クリスマスは何の日ですか?
 一、サンタさんの生まれた日
 二、折田先生の誕生日
 三、サンタさんが死んじゃった日
 四、イエス様のお誕生日 
 さあ、どれでしょう?」

一、サンタさんの生まれた日だと思う人?
二、折田先生の誕生日だと思う人?
三、サンタさんが死んじゃった日だと思う  人?
四、イエス様のお誕生日だと思う人?

 いろんな声があがり、いろんなところで手が上がるのですが、それらを無視してわたしが答えを言うのでした。

「クリスマスはイエス様のお誕生日です。」

 ここから話がちょっと変わります。
「みんなはお友達のお誕生日に行ったことがありますか?幼稚園でお友だちのお誕生をお祝いしたことがありますか?
 ではその時、お友達のお誕生日の時に、プレゼントを持っていきますか?それともプレゼントをもらいにいきますか?」

 「プレゼントをもっていく!」
 そうみんなが答えてくれた時に、「プレゼントをもらいにいく人はいますか?」続けます。すると
 「そんなのはヘン!」
 そう子供達は答えてくれるのです。
 「そうだよね。お友だちのお誕生をお祝いするのに、『プレゼントをくれ』なんて、ヘンだよね。プレゼントは持っていくんだよね。」

 その後でまたクリスマスの話題に戻ります。
 「みんなはクリスマスプレゼントは楽しみですか?」
 子供達はほしいオモチャの名前をいろいろお話してくれます。
 
 「クリスマスはイエス様のお誕生日です。じゃあ、プレゼントをもっていくのかな?もらいにいくのかな?」

 この会話を何度も何度も繰り返しします。
 本当に何度も繰り返すのです。何度も何度も繰り返すのです。するとだんだんと気付いてくる子が出てきます。

 子供達の頭の中では、クリスマスプレゼントはほしいけど、イエス様のお誕生日だから何かもっていかなきゃいけないし。お誕生日に何かもらうのはヘンかなと思うし・・・。いろんな事を考えます。
 わたしはこれがチャンスと思う時に、大きな声で、それこそ叫ぶように、ひと言言うことにしています。

「イエスさまのお誕生日に、プレゼントをもらいに行くのは、ヘン!」

 子供達は、信じられないくらいにシーンとなるのでした。

「今年は、クリスマスプレゼントはナシ!」
 その言葉を聞いた時の、子供達のビックリ眼は、困ったような、その通りだと納得したような、それは困るというような、不思議なビックリ眼となるのです。

 そう、この驚きこそ七尾幼稚園のクリスマス準備のスタートでなければならないのです。

 今年も、一人の子が「私、イエス様にプレゼントを持っていく」と言いました。

「じゃあ、何を持っていけばいいのかな?」
 子供達は自分がほしいオモチャや食べ物の名前を言います。
「イエス様は神さまの子だから何でも持っている。」
 そこでまた、子供達は困ってしまいます。
 どんなプレゼントの名前が出ても、「神さまの子どもだから持っている!」と言うのです。そりゃそうだ。その納得が、困った困ったの眼になってしまいます。

あんまり悩んでも困りますから、わたしが答えを教えることにいたします。

「あのね、イエス様がすごく喜んでくれるプレゼントがあるんだよ。それはね・・・。それは、みんなの良いお心なんだよ。イエス様はね、みんなのよいお心が大好きなんだ。だから、イエス様のお誕生日のプレゼントには、みんなには良いお心があるって、お知らせすることが大事なんだ。
 そして、そんなみんなのステキなプレゼントを見た神さまが、みんなにありがとうのお礼として、サンタさんを通して、クリスマスプレゼントをくださるに違いない。」

 そうお話するのです。
 釜土先生のお話はここでおしまい。
 けれどそのお話は、各クラスに行って献金箱を作るための導入となっていきます。

「みんなの、その良いお心を数えてみよう」。

 各クラスでは、そのよいお心を小さなコインに替えて一つひとつ数えていって、献金箱にいれていこうと話します。そしてクリスマスの日に、イエス様のバースディプレゼントにしようねってお話しするのでした。
 金額が大事なのではありません。良いお心を数えることが大事なのです。

今年もアドベントに入った十二月二日に、献金箱を持って帰ります。

 よいお心をおみせする相手は、イエスさま。私たちの事をすべて知っていて、誰も見ていなくても見ていてくださるイエスさま。
 人が見ているかどうかではなくて、誰も見ていなくても、神さまがイエスさまが喜んで下さるから、いつも良いお心で生きていこうとする心。そこがきっと大切に違いない。
 「自分を律する心」や「道徳心の基本」などと言うつもりはないけれど、ただ自分たちが楽しむために用いられる薄っぺらなクリスマスではない本当のクリスマスの心に、七尾幼稚園の子供達は出会って欲しい。そう思います。

 そう思う心こそ、私たち七尾幼稚園のクリスマス準備となっているのです。
  
(2002年11月29日 七尾幼稚園園だより巻頭言)



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