食道の組織異常
食道の組織異常:バレット食道と食道癌
38才の男子です。先日,胃の調子が悪く胃カメラの検査をしました。
検査時(10日前)に医師から「かなり広く胃炎(びらん)がある。潰瘍はない。何か抗生物質か悪いものでも食べたのではないか」といわれました。 私はもともと胃潰瘍,十二指腸潰瘍を何度かわずらっており,ここ数年ずっと胃薬(タガメット,イサロン)を服用しています。
ところが,昨日,病院から呼び出され,そのときとった組織の検査結果を聞かされました。担当医からは「胃の方は胃炎になっているが組織検査は問題なかった。但し,食道の組織に異常が見られたので再検査してほしい。」といわれました。
気が弱いと思われるかもしれませんが,この瞬間,目の目が真っ暗になりました。「ガンではないか,」という疑念を抱き,体の力が抜けてしまいました。昨晩はあまり眠れず,食欲も失い,こうしてe-mailを書いている次第です。再検査は来週の月曜日で,多分検査結果はその10日後くらいになると思います。今,心配し過ぎてもしょうがないことは十分わかっているつもりですし,実際,検査結果を見ていない方にこのようなことを書くのは失礼であることも十分承知しているつもりですが,他に相談できる方がいないので,失礼を承知でe-mailを書かせていただきました。恐縮ですが何かアドバイス頂ければ助かります。今は不安ばかりで頭がいっぱいで,脱力感から何もする気がおこりません。このような状況にどう対応したら良いのか教えていただければ助かります。
人間、先のことが分からない、情報不足になった場合のストレスはたいへん大きなものです。もう少し、詳細な説明が、医師からあってもよかったのではないかと思っております。
さて、最初にカメラを受けた時に食道についての説明がなかった。しかし、組織検査を行ったといたしますと、検査医は、小さな赤いところがあったとか、ごく軽度の盛り上がりがあった等の理由で、「念のため」に組織を取ったものと思います。もし大きなしこりや、潰瘍や、食道炎による強い発赤があった場合、何らかの薬や、食餌療法の指導があるはずです。そういう意味では、何かあったとしても、ごく小さな病変であると思います。
組織検査は、専門の病理医が顕微鏡を眺めて行う、いわば「人間が行う」ファジーな検査です。悪性の診断は、細胞の配列がおかしくないか?(専門的には構造異型といいます)、細胞そのものがおかしくないか?(細胞異型)という判断基準で診断することになります。後者の細胞の変化の場合、良・悪性はほぼ確実に断定されますが、前者の構造の変化の場合、炎症が治った後の変化や粘膜の再生のため、判断がつきにくい場合も考えられます。このような時、病理医は、「要再検」という判断を下す場合がしばしばあります。あなたの場合、お若く、しかも潰瘍を繰り返されているということからすると、胃酸が高く、食道にも炎症やただれが発生し、粘膜構造の変化を来たしてもおかしくないものと思います。
また、ご心配の食道がんでありますが、他の部位に発生するのがんに比べて、中高年に多く(50歳以上)、あなたの年齢の方での発生は極めて稀であります。
躊躇することなく、再検査を受けられることが、肝要ですし、もし万が一の場合でも、最初の検査で、はっきりしない程度のものでしたら、ごく早期の病変であると思います。現在の医療技術からいたしますと、大きな手術無しで、内視鏡的に取りきることが可能であると思います。
患者様が、病院に来られる第一の理由は、病気を早いうちに見つけて、早いうちに治し、健康な生活を営む。ということだと思います。進行した病気を見つけるのは、簡単なことです。ここで、「受診した病院で、見逃されることなく、徹底的に白黒をつけてくれる」と思えば、こんなに、幸運なことはないのではないでしょうか。
そして、早いうちの治療で、何に増しても大切な「将来の健康」を勝ち取っていただきたいと思います。
詳しい説明をいただきありがとうございます。
まるで九死に一生を得た気持ちです。先生の説明を読み,やっと気持ちが落ち着きこれと同時に,食欲も戻り,体にも力がよみがえってきました。(自分でも信じられないくらいです。)心を落ち着けて再検査に望みたいと思います。
それにしても,自分の病状につき,医師の方からこれほど詳しい説明をしていただけたのは初めてであり,改めて医者のありがたさを身にしみて感じております。
組織検査の結果,悪性ではないが,通常,食道にはない細胞が増殖している,との話しがありました。(検査報告にもno cancerと書いてあるのを見せてもらい安心しましたが...)細胞異形とか何か難しい言葉で説明されたのですが(よくおぼえていません),要は,増えなければ問題ないので,半年後にもう一度検査すること,との指示がありました。 特に薬の処方もありませんでした。自然に直るともいわれました。 以前から胃炎でタガメット,イサロンを服用しているので,これはいつも通り,処方してもらいました。食事その他普通の生活をして全く問題ない,との説明も受けました。
度重なるご相談で恐縮ですが,どうも病状が良く理解できません。今回の検査結果をどう受け止め,(もし何等かの改善方法があるのであれば)どのような点に注意したらよいのか,何かsuggestionを頂ければ助かります。少ない情報でこのようなご依頼をするのは恐縮ですが,宜しくお願い申し上げます。
難しい質問です。「組織検査の結果,悪性ではないが,通常,食道にはない細胞が増殖している」とのことをヒントにしますと、
まず、最も可能性の強いものとしては、Barrett(バレット)食道という概念があります。これは、本来食道の粘膜は、皮膚や口の中と同じ、扁平(へんぺい)上皮というものに覆われているのですが、胃腸と同じ、円柱上皮というものに置き換わっている状態をいいます。先天性説と後天性説がありますが、最近の知見では、後天性に発生するようで、原因として、以前にお応えしましたように、強い胃酸が、食道に逆流することで、炎症を繰り返し、粘膜の細胞が変性するためののようです。Barrett食道が、なぜ、問題になるかというと、これに、腺がん(胃がんと同じ物)が発生する頻度が、2〜3%程度と普通の人の胃がんや食道癌の発生率に比べて、高いということであります。もし、これが存在する場合、半年に一回程度の内視鏡検査で、経過観察の要があるというのが、一般的であります。
タガメットなどで、胃酸を抑え、また、たばこ、刺激物(香辛料など)、ストレスを避けるということも、胃酸を抑え、食道炎を治していく治療法になると思います。
2〜3%のがん発生率をどう見るかということになります。もし、Barrett食道があるのならば、その状態を受け入れ、最悪の場合でも、早期に発見し、治療してもらうということが原則であると思います。
その外に「食道にはない細胞が増殖」する状態としては、良性の腫瘍があると思われますが、その場合は、もう少し具体的なお話があってしかるべきかと思います。
以上、あくまでも一般論で、詳細は、かかりつけの先生に納得のいく説明を求められてもよろしいかとも思います。