神経内視鏡手術

脳内革命 神経内視鏡手術

脳神経外科 科長 東 壮太郎


内視鏡 内視鏡という言葉を今までに聞いたことがある方は多いと思います。『お腹が痛くなっ て病院へ行ったところ、内視鏡を口から飲んで胃の検査をした。その結果、早期胃癌と診 断された。』というような話しに出てくる、あの内視鏡です。内視鏡は直径が数ミリの管 の中に、光が通るファイバーが入っていて、それを体の中に入れることによって中の様子 を覗くことが出来ます。そればかりではなく、管の中にもっと細い管が光ファイバーと並行して何本か入っていて、この細い管から液体を注入したり、吸引したりできます。さらにこの細い管から鉗子や止血用のプローベを挿入して、検査用に病変部の一部をかじり取ったり、出血を止めたりもします。
この内視鏡を使って脳の手術をしようという時代が既に始まっています。前々回のホッ トタイムに胃腸科の鎌田先生が、内視鏡を使った腹部外科手術(胆嚢摘出術など)を紹介してあります。読んだ方もいらっしゃると思います。同様に脳外科でも、脳腫瘍や脳卒中の手術に内視鏡を使っています。神経内視鏡手術と言います。具体的にどのようなものかを詳しく説明しましょう。
まず、内視鏡には2種類あります。硬性内視鏡と軟性内視鏡です。硬性内視鏡は、まっ すぐな金属性の管があり、その中に光ファイバーと何本かの細い管(チャンネルと言いま す)が入っています。一方、軟性内視鏡は、一番外側の管が軟らかいビニールのような素 材でできているので、無理なく曲がる点が硬性内視鏡との違いです。しかもその先端を手 元から遠隔操作して自由に曲げられ、目的を的確に捉えることができます。管の中は硬性 内視鏡と同じ様な構造になっています。どちらの内視鏡を使うかは、目的によって使い分 けします。
これらの内視鏡を使う神経内視鏡手術には2つの使い方があります。1つは、一般的な 開頭手術の支援装置として内視鏡を使うやり方です。手術支援内視鏡手術です。脳外科手 術のほとんどは、直径数センチから10センチ程度の範囲で頭蓋骨を切って開頭し、脳を露 出します。その後、脳を圧排してできる1、2センチの狭いすき間から手術顕微鏡で脳の 深部を覗いて目的を捉え、手術します。その際に、陰になって目的とする構造がよく見え ないことがあります。つまり手術顕微鏡の死角です。こんな時に内視鏡の先端を目的物の 近くまで持って行き、死角部の目的物をテレビモニターに映しだしながら手術を行います。この方法によって、より確実で安全な手術が可能になります。
もう1つの使い方は、純粋に内視鏡のみを使って手術をする方法です。具体的には、頭 蓋骨に直径1センチ位の小さな穴を開けて、そこから内視鏡を挿入して、その先端を目的 の近くまで進めます。テレビモニターに映し出された目的物を観察しながら、内視鏡のチ ャンネルから鉗子などを挿入して脳腫瘍摘出などの手術を行います。従来の開頭手術と比 べると、小さな穿頭で済み、手術時間も短縮され、患者さんの負担は比べ物にならない位 に軽くて済みます。 
脳腫瘍 最近私たちが経験した神経内視鏡手術の実際を紹介しましょう。純粋に内視鏡のみで手術を行った症例です。患者さんは、松果体腫瘍のために閉側性水頭症を来した方です。松 果体(しょうかたい)というのは脳のまさに中心部にあり、ここに直径15ミリ程度の腫 瘍ができていました。この腫瘍が、すぐそばにある中脳水道という通路を圧迫して、脳脊 髄液の流通を遮断したために、その上流にある脳室に脳脊髄液が貯留し脳室が拡大してい ました。このような状態を、閉側性水頭症といいます。この水頭症が原因で、患者さんに は頭痛、歩行障害、尿失禁、痴呆などの症状が認められました。ところで、脳腫瘍と一口 にいっても、良性腫瘍から悪性腫瘍まで、千差万別です。そこで、その腫瘍の一部を採取 して、正確な診断をする必要があります。これを生検といいます。従来でしたら、大がかりで長時間の開頭術が必要で、患者さんの負担はかなり大きいものでした。しかし、内視鏡手術では、小さな穿頭でしかも短時間で生検が可能になりました。さらに、水頭症に対する治療も同時に行える利点があります。実際、手術後にこの患者さんは、腫瘍の性質が正確に診断され、更に、水頭症が改善し、症状は軽快しました。つまり、患者さんにとっては、より安全で負担の少ない治療法が可能となった訳です。しかし、どんな場所にある腫瘍に対しても、内視鏡手術が可能な訳ではありません。現段階では、主に脳室の中に限局したり、あるいは顔を出した腫瘍に対して用いられます。また、腫瘍の一部を採取する生検は可能ですが、腫瘍を完全に取り除くまでには至っていません。今後は技術的に進歩して、内視鏡手術だけで腫瘍を全摘出することも可能となるでしょう。

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