「乾燥ヒト脳硬膜」の移植によるクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)感染問題
最近英国ではCJDと類似する海綿状脳症を呈する狂牛病が増加している。また、人間において、従来のCJDと異なる若年発症のCJD(Variant−CJD)患者が発見されたことから、狂牛病との因果関係が議論されている。
FDAの警告から4年後の1991年に、首都圏の大学病院で硬膜移植手術を受けた60代の女性CJD患者のケースでは、カルテに明確な記録がないため、どんな硬膜が使われたか不明のままだ。
FDAの警告を受けて、メーカーでは、原因物質とみられるタンパク質「プリオン」を不活化させるために、アルカリ処理を導入。87年内には製品化されていたが、この患者に使われた硬膜が処理済みだったのか未処理のものだったのかは、調査にあたった厚生省の「CJD緊急調査研究班」では判断できなかった。このため、処理済みのものが必ずしも安全とも言い切れなくなり、結局、先月末、処理済みのものも含め、ヒト脳硬膜の緊急回収命令に踏み切った。
この女性患者の担当医師は、FDAの警告を、本紙の取材を受けて「初めて知った」といい、「どこのメーカーのどの製品が危ないかわかっていれば、(安全性を高めるために)アルカリ処理をした硬膜かどうか、きちんとチェックして使用したはず」と語り、医療現場では、硬膜に対する問題認識が薄かったことを強調した。
滋賀県でやはり警告後の89年に脳硬膜移植を受け、CJDを発症した女性のケースでも、当時の担当医は「処理法を変えたという通知は、業者側からは全くなかった」と話す。この病院で使用されたのは、未処理の脳硬膜。アルカリ処理が導入されてから8か月たった88年1月に卸業者から納品されたことがわかっている。
88年には脳硬膜移植によるとみられるCJD発症の初症例が学会雑誌に発表されており、この担当医は「要約を読んだ覚えがある」というが、「この段階では、一例報告されただけで、信ぴょう性は判断できなかった。脳硬膜移植との関連に注目するようになったのは、昨年6月に厚生省の研究班の中間発表が出てからのことだ」と、医師の責任を否定する。
しかし、4日出された「総合研究開発機構」の薬害再発防止の中間報告では、「副作用情報に疎い医療現場」の問題も指摘されている。
日本脳神経外科学会医療機器委員会の端和夫委員長(札幌医大教授)は「88年の症例報告については、専門医の中には気づいた人もいた。しかし、当時すでに処理法が変わったということで、もう大丈夫と思っていた」と振り返る。
同学会では、「手術をした側としても何かをすべきだ」と、昨年夏から独自調査に着手。今後、83年から87年に990の医療機関で行われた脳硬膜移植全例について、追跡調査を行うことにしている。