法科大学院改革に関する質問主意書

下記の質問主意書を提出する。
平成二十四年二月十三日

提 出 者                  馳   浩

衆議院議長  横 路 孝 弘 殿

 法科大学院修了者を対象にした昨年の新司法試験の合格者数が二〇六三人となり、合格率は二三.五四%で新試験が始まってから五年連続の減少となった。

 政府の司法制度改革審議会が二〇〇一年に法曹人口の大幅増員を打ち出し、二〇一〇年を目途に合格者数を三〇〇〇人まで増やすことを閣議決定してからその目標には一度も到達していない。また、当初は法科大学院修了者の七〜八割が合格することを想定していたが、合格率は低迷し、その影響もあり法科大学院の入学者数も減少している。加えて近年の法曹人口の増加による弁護士の就職難についても社会問題となっている。

 司法制度改革は様々な分野から優秀で多様な人材を法曹界に取り入れ、国民に対し身近な司法を実現させることを理念として様々な改革を行ってきたが、当初の理念と現実がかけ離れており、法科大学院の有り方や法曹人口の適正化など制度そのものの見直しが求められている。

 以上を踏まえ次の事項について質問する。

 

一 昨年、総務省により全国の法科大学院を抽出した実地調査を行う方針が示されていたが、その取り組み状況と、調査結果について示されたい。 

二 法曹養成制度の中で、新司法試験を所管する法務省と、法科大学院を所管する文部科学省の縦割りが弊害となり、制度改革の妨げになっているとも言われる中、政府の認識を伺う。 

三 司法制度改革の目玉であった新司法試験の合格者数三〇〇〇人が達成できていないどころか年々減少している現状について、法科大学院の乱立や低迷、指導内容、受講者の質の低下等が主な理由として挙げられているが、政府は合格者が減少している原因についてどのように分析し、どのような対策が必要と認識しているか示されたい。 

四 昨年の新司法試験では、全法科大学院七四校のうち、合格率が全体の平均を上回ったのは一八校だけとなり、合格率の高い法科大学院と低迷する法科大学院の格差が一層目立つようになった。
 文部科学省も乱立気味の法科大学院に対し、実績の乏しい大学院への補助金を減額し、再編を促す方針を示したことにより、新規学生募集の停止や統合する大学院も出てきた。政府としては今後も大学院の統廃合による淘汰を促していくことが、望ましいとお考えか、見解を伺う。 

五 四に関連して、合格率の低い大学院では、社会人向けの働きながら通える夜間コースや、法学部出身者以外の人材を積極的に受け入れるなど、多様な人材を送り出すための取り組みとして、受け入れを行っている現実も存在する。
 数字だけを見て補助金の廃止を決めるのは不公平でないかといった意見も出ているが政府の認識は如何。 

六 法学部出身者向けの既修者コースの合格率が三五.四%に対し、それ以外の未修者コースは一六.二%と倍以上の開きがあり、社会人や他業種からの挑戦が厳しい状況にある。多様な人材を司法に取り入れることを目標とした司法制度改革の理念との矛盾について、政府はどのように受け止めているか見解を示されたい。 

七 法曹改革により、従来の詰込み型教育から、実務的な教育内容に改められたが、司法試験対策に特化したような指導が認められていないため大学院だけでは不十分で予備校に頼る生徒も増えていると聞く。
 新司法試験合格者数の低迷を踏まえ、大学院での教育内容しかり、新司法試験の出題方式について、政府はどのように認識しているか見解を示されたい。 

八 法曹人口の大幅拡大に伴い、弁護士人口がここ十年で一万人以上増加している中、弁護士の就職難が社会問題化している。従来であれば法律事務所に入所し、そこで知識や経験を蓄え、弁護士として一人前になっていくところ、就職難により法律事務所に採用されず、即独立するケースやアルバイトで生計を立てる等、様々な面で不安定な状況下にある弁護士が増えていると承知している。弁護士の就職難について、政府はどのように認識し、対策が必要だと考えているか示されたい。 

 以上質問する。



衆議院議員馳浩君提出
法科大学院改革に関する質問
に対し、下記答弁書を送付する

内閣衆質180第69号
平成24年 2月21日

内閣総理大臣                  野田 佳彦

衆議院議長  横 路 孝 弘 殿

 

 衆議院議員馳浩君提出 法科大学院改革に関する質問 に対する答弁書

一について

 御指摘の法科大学院の実地調査については、総務省において、平成23年1月から実施している「法曹人口の拡大及び法曹養成制度の改革に関する政策評価」 の一環として、全国74の法科大学院のうち38の法科大学院を抽出して教育の質の向上に係る取組等について調査を実施したものであり、現在、その結果を取りまとめているところである。
 この調査結果等を踏まえて、当該政策評価の結果について、できる限り早期に取りまとめてまいりたい。

 

二について

 法務省と文部科学省(以下「両省」という。)では、法科大学院の教育と司法試験等との連携等に関する法律(平成14年法律第百三十九号。以下「連携法」という。)第二条の法曹養成の基本理念にのっとり、法曹の養成が両省等の連携の下に行われることを確保するため、協議会を設置するなど必要な施策を講じてきたところである。また、法曹の養成に関する制度の在り方については、両省において、平成22年に「法曹養成制度に関する検討ワーキングチーム」を設置して、法曹養成制度の問題点等の検証等を行い、その結果等を踏まえ、平成23年5月からは、内閣官房、総務省、法務省、財務省、文部科学省及び経済産業省の共催による 「法曹の養成に関するフォーラム」 において、必要な検討を行っているところであり、「縦割りが弊害となり、制度改革の妨げになっている」という御指摘は当たらないものと認識している。

 

三について

 新司法試験の合格者数は、平成18年が1009人、平成19年が千1851人、平成20年が2065人、平成21年が2043人、平成22年が2074人、平成23年が2063人であるところ、合格者は、司法試験委員会において、法曹となるべき能力の有無を判定するという観点から適切に決定されたものと認識しているが、合格者数がこのように推移している原因については、現時点で判断することは困難である。
 いずれにしても、法科大学院教育及び司法試験を含む法曹の養成に関する制度の在り方については、二についてで述べた「法曹の養成に関するフォーラム」 において、必要な検討を行っているところである。

 

四及び五について

 法科大学院については、入学者における多様性の確保に配慮しつつ、入学者の質の確保や教育の質の向上等が求められているのであり、文部科学省においては、質の高い入学者の確保や修了者の司法試験の合格状況に課題がある法科大学院に対しては、引き続き、主体的な組織の見直しを促す必要があると考えている。

 

六について

 専門職大学院設置基準(平成15年文部科学省令第十六号)第二十五条第一項に規定する法学既修者以外の者(以下「法学未修者」という。) の司法試験の合格率は、法学既修者に比べて相当程度低い状況にあって、その状況の改善が必要であると認識しており、文部科学省においては、平成21年4月17日に中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会において取りまとめられた「法科大学院教育の質の向上のための改善方策について(報告)」において、法学未修者については、一年次における履修科目の登録の上限の標準を超えて、憲法等の基本的科目を履修できるようにすることが必要であると提言されたことを踏まえ、法科大学院を置く大学に対して通知を発出し、その旨の周知を図るとともに各法科大学院における教育の質の向上に係る取組を促すなど、法学未修者の教育の充実に向けた措置を実施し、多様な人材の確保に努めているところである。

 

七について

 お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、司法試験法(昭和24年法律第百四十号)第一条第一項は、司法試験について、裁判官、検察官又は弁護士となろうとする者に必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定することを目的とするものと規定し、連携法第二条は、法科大学院において、入学者の適性の適確な評価及び多様性の確保に配慮した公平な入学者選抜を行い、少人数による密度の高い授業により、将来の法曹としての実務に必要な学識及びその応用能力並びに法律に関する実務の基礎的素養をかん養するための理論的かつ実践的な教育を体系的に実施し、その上で厳格な成績評価及び修了の認定を行い、司法試験において、このような法科大学院における教育との有機的連携の下に、裁判官等となろうとする者に必要な学識及びその応用能力を有するかどうかの判定を行うものと規定しており、司法試験は、司法試験委員会において、これらの規定を踏まえて適切に実施されているものと認識している。また、法科大学院における教育についても、同条の規定を踏まえて適切に実施されるべきものと認識しており、四及び五についてで述べたとおり、課題を抱えている法科大学院については、その状況の改善を図る必要があるものと考えている。

 

八について

 司法修習終了直後に弁護士として登録されなかった者の割合は、近年、増加傾向にあり、司法修習終了者の法律事務所への就職が困難となってきているものと思われる。もっとも、そのような者も、数か月以内には、相当程度が弁護士として登録されるに至っていることに加え、法律事務所以外に就職する者も以前より増加していることなどから、現段階において、司法修習終了者の就職状況について評価を加えることは困難である。いずれにしても、これらの状況については、引き続き注視していく必要があるものと認識しており、二についてで述べた 「法曹の養成に関するフォーラム」 においても、司法修習終了者の就職を含めた法曹の活動領域の在り方について、必要な検討を行っているところである。


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