生活保護と不正受給の問題に関する質問主意書

下記の質問主意書を提出する。
平成二十三年六月三日

提 出 者                  馳   浩

衆議院議長  横 路 孝 弘 殿

 二〇〇九年度の生活保護の支給総額が三兆円を超えた。長引く不況により現役世代の失業者が生活保護に流入したこと、また高齢者の生活保護世帯が増加したことにより、受給者の拡大に歯止めがかからない状況だ。

 生活保護費の増加は、国、地方の財政を圧迫し、特に生活保護費の二五%を負担する地方財政は厳しい状況にある。保護費適正化に向けた、現役世代の就労支援強化による自立促進が課題とされる。

 また、不当に生活保護を受け取る不正受給に関する報告も増加が続き、貧困ビジネスが横行している現状に、適切な対策を講じる必要に迫られる。

保護費支給のあり方、雇用環境の整備、収入格差、財政負担等について全体的な制度の点検が必要であり、本当の意味での弱者救済と国民の最低限度の生活を保障し、自立と共生が両立する社会の形成が必要である。

従って、次の事項について質問する。

一 生活保護受給者の増加に関する政府の認識は如何。また、その原因と影響についてどのように分析しているか見解を示されたい。

二 生活保護費の約半分を占めると言われる受給者への医療扶助について、本年四月から本格運用された電子レセプトの活用により、受給者の医療費請求の点検の強化、薬の不正入手の防止、ジェネリック医薬品の積極的な利用促進を図ることで、医療扶助の適正化が図れると期待する声も聞かれるが、その効果について政府の見解は如何。

三 現役世代の受給者への就労支援により、実際に就職することが出来たのは全国の総数で何人になるか示されたい。また、その中から、生活保護を抜け出ることが出来た人数について把握する数値を示されたい。

四 受給者の自立支援と社会復帰のためには木目の細かいサポートが必要とされる。八月にまとめるとされる国と地方による制度の見直しに向けた協議でも、就労支援強化が重要なポイントと考えられているが、政府の考える具体案について示されたい。

五 四に関連して、就労支援強化を行っても、肝心の働く場がなければ、生活保護から抜け出すことは困難である。また、非正規等の不安定な職場であれば、生活保護に逆戻りするケースも考えられる。車の両輪のように、就労支援強化と雇用環境の整備、確保が課題と考えるが、政府の見解を示されたい。

六 生活保護費不正受給の件数と総額、その主な手口について政府の把握するところを示されたい。

七 生活保護費不正受給の対策、取締りについて、現在どのような取組みが実践され、効果を上げているとされるか示されたい。関連して、今後、貧困ビジネスへの対策についてどのような取組みが必要と考えられるか、政府の見解を示されたい。

八 不正受給はケースワーカーが綿密に対応すれば、減少できるとの指摘もあり、ケースワーカー不足が課題とされているが、現在の社会福祉法に基づく標準配置数で対応できるとお考えか、政府の見解を示されたい。

九 憲法第二十五条に規定される「生存権」で、国が「最低限度の生活」を保障することが定められているが、この「最低限度の生活」について具体的にどの程度の生活レベルと認識しているか見解を示されたい。

十 年金受給や最低賃金での労働よりも、生活保護を受けた方が、金銭面、保障面で、より厚い待遇を受けられることから、モラルハザードや勤労意欲低下の要因になっていると指摘されてきた。この不整合な仕組みに対する政府の見解を示されたい。

十一 生活保護における国と地方の財政負担のあり方について、現在の七五%対二五%の割合から、地方の厳しい財政事情を勘案し、負担割合を改正することも必要とお考えか、見解を伺う。

十二 我が国は他国と比較すると、生活保護の捕捉率が極端に低いことが指摘されている。この要因について政府の見解を伺う。また、この捕捉率から実際に生活保護が必要とされる世帯に、充分に支援が行き届いていないとされる現状に対し、どのように認識しているか示されたい。

 以上質問する。 



衆議院議員馳浩君提出
生活保護と不正受給の問題に関する質問
に対し、下記答弁書を送付する

内閣衆質177第227号
平成23年 6月14日

内閣総理大臣                  菅 直人

衆議院議長  横 路 孝 弘 殿

 

 衆議院議員馳浩君提出 生活保護と不正受給の問題に関する質問 に対する答弁書

一及び四について

 生活保護受給者については、平成8年度以降、一貫して増加しているが、その主な要因としては、厳しい経済状況、雇用情勢の中で世帯主が失業した世帯の増加、稼働能力の乏しい高齢者が世帯主である世帯の増加が挙げられる。

 生活保護受給者の増加により、生活保護受給者の個々の状況に応じて自立・就労支援、不正受給対策等を適切に実施することが困難となるなどの影響が出るおそれがあると考えている。このため、生活保護受給者に対する自立・就労支護、不正受給対策等の実施体制の強化を図る必要があると考えており、今後、「生活保護制度に関する国と地方の協議」において、生活保護受給者に対する自立・就労支援の強化、不正受給対策等の実施体制の在り方について検討を行い、その結果を踏まえ、必要な措置を講じてまいりたい。

 

二について

 御指摘の診療報酬明細書(以下「レセプト」という。) の電子化については、平成23年4月から運用を開始したばかりであり、今後、その具体的効果を把握してまいりたい。

 

三について

 お尋ねの人数については把握していない。なお、厚生労働省の調査によると、公共職業安定所や福祉事務所等による就労支援策を通じて就職し、又は所得が増加した生活保護受給者の数は、平成21年度において4万5353人であり、このうち生活保護を廃止した者の数は、8,897人である。

 

五について

 生活保護受給者の自立のためには、生活保護受給者に対する就労支援の強化とともに雇用環境の整備・確保が重要であると認識しており、引き続き、職業訓練の実施、個別求人開拓、非正規雇用者の正規雇用への円滑な移行支援等の施策を一体的に推進してまいりたい。

 

六について

 「平成21年度生活保護法施行事務監査の実施結果報告」によると、生活保護の不正受給の件数は1万9726件、その金額は102億1470万4000円である。また、その主な内容は、稼働収入の無申告又は過小申告及び各種年金等の無申告である。

 

七について

 厚生労働省としては、地方自治体に対し、生活保護受給者の収入の状況を客観的に把握するため、年一回、税務担当官署の協力を得て生活保護受給者に対する課税の状況を調査するよう要請しているところであり、平成21年度においては、こうした調査により、不正受給件数全体の約9割に当たる1万7621件の不正受給が発見されている。また、医療扶助については、地方自治体に対し、電子化されたレセプトの活用等により、不正行為の早期発見等を行うよう要請しているところである。

 いわゆる貧困ビジネスについては、地方自治体に対し、無料低額宿泊所等の入所者に対する訪問調査や生活保護受給者本人に対する生活保護費の直接交付等により、生活保護受給者に対する適切な支援の確保を図るよう要請しているところである。

 

八について

 厚生労働省としては、各地方自治体においては、社会福祉法(昭和26年法律第45号)第16条に規定する数を標準として、生活保護に係る事務の実施に支障が生じないようケースワーカーの定数を定めるべきと考える。

 

九について

 生活保護法(昭和25年法律第144号)第1条においては、「この法律は、日本国憲法第25条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする」と規定しているが、同条に規定する最低限度の生活の水準については、一般国民の消費実態との均衡等を考慮しつつ、同法第8条の規定に基づき、保護基準を定めているところである。

 

十について

 公的年金制度は、国民全体が連帯し、世代間で支え合うととによって、高齢期等における稼得能力の喪失・減退を補填するものであり、現役時代における保険料の納付実績に応じた年金額を、原則として、個人の所得や資産の状況にかかわらず高齢期に給付する社会保険方式を採用している。一方生活保護制度は、年金を含め利用し得る収入、資産等を活用してもなお最低限度の生活を維持することができない者に対して、当該者の状況に応じた最低生活費を保障するものであり、両制度を単純に比較することは適当ではない。

 また、労使の代表を含む最低賃金審議会における議論を踏まえ、毎年、地域別最低賃金額から税や社会保険料を控除した後の金額(以下「控除後の最低賃金額」という。)と、生活保護における若年単身世帯の生活扶助基準の都道府県内人口加重平均に住宅扶助の実績値を加えたもの(以下「生活保護水準」という。)との比較を行い、控除後の最低賃金額が生活保護水準を下回る都道府県については、生活保護水準と控除後の最低賃金額との差額を解消するまでの年数を設け、計画的に解消を図っているところである。

 なお、生活保護基準額については、納税者である国民の納得を得られるものとなるよう、現在、専門の部会において多角的な検証を進めているところである。

 

十一について

 政府としては、現時点においては、生活保護費に関する国と地方の費用負担の割合を変更することが必要であるとは考えていない。

 

十二について

 我が国と他国の生活保護の捕捉率については、我が国と他国とでは公的扶助制度の内容が異なることから、単純にこれを比較することは適当でないと考えている。いずれにせよ、今後とも、生活保護が必要とされる世帯に対し、適切に生活保護が行われるよう努めてまいりたい。


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