海賊対策に関する質問主意書

下記の質問主意書を提出する。
平成二十三年五月二日

提 出 者                  馳   浩

衆議院議長  横 路 孝 弘 殿

 

 海賊による被害が深刻な状況を迎えている。 ソマリア周辺海域では、日本を含めた、関係各国の軍艦が警備にあたっており、海賊対策に一定の効果は見受けられるが、収束する気配は見られない。海賊の出没範囲の拡大や、重火器の使用、乗っ取りと言った海賊行為がより過激化していることも大きな問題とされる。 護衛にあたる関係各国が連携を深め、警護活動の強化と効率化による徹底した海賊対策の必要性が迫られている。

従って、次の事項について質問する。

一 海賊とはどのような存在で、如何なる脅威を及ぼすと考えられるか政府の見解を示されたい。

二 近年、日本関係船舶における海賊の被害件数は減少傾向にあったが、昨年は十五件(前年比十件増)と急増した。海賊被害が上昇に転じたことについて、原因をどのように分析しているか見解を示されたい。

三 二に関連して、昨年の海賊行為による日本関係船舶の被害状況について、船体の被害や窃盗事案等を勘案し、被害額はどの程度算出しているか、把握する数字を示されたい。

四 昨年十月、日之出郵船が運航する貨物船「IZUMI」(パナマ船籍)がケニア・モンバサ沖で海賊に襲撃され、船舶を乗っ取られる事件が発生した。 その後、本年、二月二十五日に海賊から解放されたことが、EUの海賊対処部隊により明らかにされた。「IZUMI」が解放された経緯と乗組員のフィリピン人二十名の安否について明らかにされたい。

五 四に関連して、解放にあたり身代金の有無は如何。 また、身代金を要求された事実があった場合、その支払いに応じたのか、政府の把握する事実関係を示されたい。

六 現在の所、日本人が海賊に誘拐された事案は報告されていないが、今後、万が一、そのようなケースが発生した場合、如何なる対応を行い、救出することを想定しているか、政府の見解を示されたい。

七 ソマリア周辺海域における海上自衛隊護衛艦による護衛活動やP3C哨戒機の派遣に関する現状の評価について、政府の認識を示されたい。

八 傭兵を乗船させ商船を武装化する他国船舶もあるが、政府はこの武装要員乗船による自衛手段について、どのような見解か伺う。

九 海賊に襲撃された際、乗組員が緊急に逃げ込むことが出来る「船内避難場所」の設置が効果的な対策とされるが、日本関係船舶では設置に消極的との指摘がある。 日本関係船舶における「船内避難場所」の設置状況と、その効果に関する政府の認識を示されたい。

十 護衛に当たる各国艦艇の数が限られている中で、昨今、海賊の行動範囲が拡大したことにより、監視の目が手薄になっていることが問題視されている。 海賊対策が難局を迎えている状況で、根本的に海賊行為そのものを一掃させるにはどのような対策が効果的と認識しているか見解を示されたい。

十一 海賊の大部分が生息していると考えられるソマリアの政情安定化や、貧困に対する支援、また組織化されていると言われる海賊ビジネスのネットワーク遮断等も必要な取り組みと考えられるが、政府の見解は如何。

 以上質問する。 



衆議院議員馳浩君提出
海賊対策に関する質問
に対し、下記答弁書を送付する

内閣衆質177第160号
平成23年 5月13日

内閣総理大臣                  菅 直人

衆議院議長  横 路 孝 弘 殿

 

 衆議院議員馳浩君提出 海賊対策に関する質問 に対する答弁書

一について

 一般に海賊とは、海洋法に関する国際連合条約(平成8年条約第6号)第101条に規定する海賊行為を行う者、すなわち、私有の船舶等の乗組員等であって、公海における他の船舶等又はこれらの内にある人若しくは財産に対し、私的目的のために行う全ての不法な暴力行為、抑留又は略奪行為などを行う者であると承知しており、海上における公共の安全と秩序の維持に対して重大な脅威を及ぼすものであると考える。

 

二及び三について

 平成22年に日本関係船舶(日本籍船及び我が国の船舶運航事業者が運航する外国籍船をいう。以下閉じ。)が、海賊及び海上武装強盗の被害を受けた件数は15件であるが、このうち、ソマリア沖・アデン湾、インド洋及びケニア沖で重火器により襲撃された件数は6件となっており、平成21年の1件から増加している。これは、ソマリアを拠点とする海賊の活動が広域化、活発化したことにより、日本関係船舶の被害も増加したものであると考えるが、具体的な被害額については把握していない。

 

四及び五について

 お尋ねの「IZUMI」号については、同船舶の運航会社より、平成23年2月25日に解放されたとの情報を、同日中に入手した。乗組員の安否については、乗組員全員の命に別状はないものと承知しているが、本件事案の経緯等の詳細については、同社の意向等もあり、お答えを差し控えたい。また、身代金の有無等については承知していない。

 

六について

 お尋ねのような事案も含め、海賊事案が発生した場合にどのような対応を行うかは、被害船舶の船籍、運航会社が我が国の船舶運航事業者であるか否か、乗組員の国籍、海賊の武装の程度、乗組員の状況等を踏まえ、その都度個別具体的に判断すべきものであると考えている。いずれにしても、日本国民の生命・身体の保護及び日本関係船舶の安全な運航の確保の観点から、事案に即し、関係国・関係機関等とも協力しつつ、適切に対処していく所存である。

 

七について

 自衛隊は、これまで、ソマリア沖・アデン湾に護衛艦二隻を派遣し、延べ1,800隻以上の民間船舶を安全に護衛するとともに、P−三C哨(しょう)戒機二機により、同海域で警戒監視活動を実施し、海賊に対して立入検査・武器の押収等を行う諸外国の艦艇に対する情報提供を通じ、海賊行為の抑止に貢献してきでいるところであり、これらの活動は国内外から高く評価されていると認識している。

 

八について

 ソマリア沖及びアラビア海を航行する際の海賊による被害を防止・最小化するための行動について国際海運集会所(International Chamber of Shipping)等が取りまとめたBest Management Practice 3(以下「BMP3」という。)においては、民間警備員を使用するか否かは船舶運航事業者の判断によるが、御指摘の「武装要員」の使用は勧められないとされている。BMP3については国際海事機関も推奨しており、政府としても、BMP3に沿って、日本関係船舶に対する指導を行っているところである。

 

九について

 社団法人日本船主協会に確認したところ、現在、日本関係船舶のうち、通信設備等を備えた専用の「船内避難場所」を設置している船舶は三隻とのことである。
 なお、専用の「船内避難場所」の設置については、船舶建造の設計段階から検討する必要があり、現在、相当数の船舶所有者が設置を検討しているとのことである。
 専用の「船内避難場所」については、避難場所の選択肢の一つとしてBMP3に示されているものであり、その設置は、近くに軍艦等がいる場合には、乗組員の生命・身体の保護に一定の効果をあげているものと認識しているが、「船内避難場所」の設置を含む自衛のための具体的な方法については、一義的には船舶所有者や船舶運航事業者の判断により決定されるべきものであると考えている。

 

十及び十一について

 ソマリア沖等における海賊問題の根本的な解決のためには、自衛隊や諸外国による海賊対策の実施や周辺国の海上取締能力の向上、不安定なソマリア情勢の安定化や人道支援等の多層的な取組が必要かつ効果的であると考えている。


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