自殺対策に関する質問主意書

下記の質問主意書を提出する。
平成二十三年一月二十七日

提 出 者                  馳   浩

衆議院議長  横 路 孝 弘 殿

 

 警察庁によると、昨年一年間の全国の自殺者数が三万千五百六十人となり、前年に比べ減少したものの十三年連続の三万人超えとなった。

 自殺は我が国にとって重大な社会問題である。中高年の働き盛り世代の自殺率が増加していることや、若年層の死因の一位が自殺であること、また、他国と比較しても、先進諸国での自殺死亡率が高いことなど状況は極めて深刻である。

 自殺は健康問題や経済的問題、家庭問題等が主な要因と考えられ、近年における不況や失業、雇用環境の変化など、様々なリスクが複雑に関係している。また、うつ病などの精神疾患の発症による自殺者数の増加も大きな問題となっている。

 国民の命、健康を守るためには、適切な情報の共有化による、自殺の危険因子の除去が必要であり、国を挙げて自殺対策に取り組んでいく姿勢が求められている。

 従って、次の事項について質問する。 

一 昨年の自殺に関する傾向、そして主な原因、動機について把握される統計を示されたい。 

二 政府が設置した自殺対策タスクフォースでは、年間自殺者数を二万人台に減らすことを目標に設定していたが、最終的な自殺者数が三万人を超えたことについて見解を示されたい。また、取組みが足りなかった部分について、政府の見解を聞きたい。 

三 広告や冊子、パンフレット等による啓蒙活動について、果たしてどれほど自殺対策の効果があがっているのか。政府の見解を示されたい。 

四 景気及び失業率と自殺との相関関係について、政府の認識を示されたい。 

五 四の質問について、相関関係が認められるとすれば、まずは景気、経済の上昇が一番の自殺対策になるのではないか。少なくとも経済的な事情で自殺に追い込まれるケースについては効果があると考えられるが、見解を示されたい。 

六 失業、倒産、長時間勤務、多重債務等自殺のリスクについての対策として、雇用環境の改善や失敗しても再度チャレンジが出来る社会の構築などの社会制度の根本的見直しが必要であると考えられるが見解を示されたい。 

七 マスメディアの報道による自殺への影響について、認識は如何。また、自殺に対する報道はどうあるべきか、政府の認識を示されたい。 

八 うつ病と自殺の関連性が大きく問題視されているが、自殺者数のうち、うつ病が原因と思われる割合について示されたい。 

九 産後うつ病について、その原因と対応策について見解を示されたい。 

十 産後うつ病が原因で児童虐待などが引き起こされてしまうケースも報告されているが、その関連性について認識を示されたい。 

十一 うつ病患者が急増している中、国をあげて抜本的な対応策に取り組んで行くことが必要であるが、その姿勢と取組みについて政府の見解を示されたい。 

 以上質問する。  



衆議院議員馳浩君提出
自殺対策に関する質問
に対し、下記答弁書を送付する

内閣衆質177第022号
平成23年 2月 4日

内閣総理大臣                  菅 直人

衆議院議長  横 路 孝 弘 殿

 

 衆議院議員馳浩君提出 自殺対策に関する質問 に対する答弁書

一について

 警察庁の統計によれば、平成22年中における自殺者の総数(暫定値)は31,655人であるが、原因、動機等については集計中である。

 

二について

 「年内に集中的に実施する自殺対策の取組について」(平成22年9月7日自殺総合対策会議自殺対策タスクフォース決定)においては、「平成22年の年間自殺者数については、13年ぶりに3万人を下回ることを目指」すこととされている。 平成22年中における自殺者の総数は、一についてで述べたとおり、9年ぶりに3万2千人を下回ったところであるが、3万人を超えたことについては、政府として極めて深刻に受け止めている。
 自殺は多様かつ複合的な原因及び背景を有するものであり、お尋ねの「取組みが足りなかった部分」についてお答えすることは困難であるが、今後とも、自殺対策基本法(平成18年法律第85号)、自殺総合対策大綱」(平成19年6月8日閣議決定)等に基づき、自殺対策の総合的な推進に全力で取り組んでまいりたい。

 

三について

 自殺は多様かつ複合的な原因及び背景を有するものであることから、自殺対策の推進に係る啓発活動の効果について具体的にお答えすることは困難であるが、平成22年3月及び9月に啓発活動を始めとする取組を重点的に実施したところ、警察庁の統計によれば、翌月に当たる同年4月及び10月の月間自殺者数は、前年同月に比べ大きく減少していること等から、一定の効果があるものと考えている。 自殺対策の推進のため、今後とも効果的な啓発活動の実施に努めてまいりたい。

 

四から六までについて

 自殺は、社会的な要因も含む複数の要因が複雑に関係して引き起こされるものであるが、一般的に、経済・雇用情勢の悪化は、自殺者数の増加に影響を及ぼす要因の一つであると認識しており、御指摘のような社会的な要因が関係している自殺を予防するためには、雇用情勢などの経済情勢の改善や社会的な要因の背景にある制度・慣行そのものの見直しが重要であると認識している。

 

七について

 マスメディアによる自殺報道については、事実関係に併せて自殺の危険を示すサインやその対応方法等の情報を提供することにより、自殺予防を含めた自殺対策の推進に効果が期待される一方で、自殺手段の詳細な報道や短期集中的な報道は、他の自殺を誘発する危険性もあるため、政府としては、いわゆる国民の知る権利や報道の自由も勘案しつつ、適切な報道が行われることを期待しているところである。

 

八について

 警察庁の統計によれば、平成21年中における自殺者のうち「うつ病」が自殺の原因・動機として推定できるものは、約21パーセントとなっている。

 

九について

 産後鬱病については、出産に伴う身体の変化、育児の精神的負担等の原因があるものと承知しており、保健所等において妊産婦等からの相談に対応しているほか、都道府県及び政令指定都市において、内科医、産婦人科医等に対し、鬱病の症状を有する者への適切な対応を図るための研修会を開催しているところである。 また、市町村においては、新生児訪問、乳児健康診査等の機会に鬱病の症状を有する母親の把握に努め、適切な支援を行っているものと承知している。

 

十について

 産後鬱病と児童虐待等との関係については、必ずしも詳細には明らかになっていないものと認識しているが、社会保障審議会児童部会児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会においては、虐待による死亡が生じ得るリスク要因の一つとして、保護者等が強い抑鬱状態であることが指摘されており、平成22年7月に同専門委員会が取りまとめた「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第6次報告)」では、平成20年4月から平成21年3月までの児童虐待による死亡事例105例のうち、養育者の心理的・精神的問題として産後鬱病が見られたものは3例であったとしている。

 

十一について

 自殺の背景には鬱病への罹(り)患がある場合も多いと考えられることから、政府としても、鬱病患者に適切な医療等を提供することは重要であると認識しており、自殺対策基本法、「自殺総合対策大綱」等に基づき、平成22年9月に自殺総合対策会議に設置した自殺対策タスクフォースを中心に、鬱病対策も含めた必要な緊急対策の機動的な実施等を行っているところである。
 厚生労働省においては、鬱病患者が最初に受診することが多いかかりつけ医への研修を実施する都道府県及び政令指定都市に対し補助を行っているほか、鬱病に有効であるとされる認知行動療法について、平成22年度診療報酬改定で新たに診療報酬上の評価を創設するとともに、同年度より独立行政法人国立精神・神経医療研究センターにおいて認知行動療法に係る研修を開始している。 さらに、平成22年度第一次補正予算により、かかりつけ医と精神科医の連携体制を構築する事業や精神医療関係者に対する鬱病に関する研修を実施する都道府県に対し、地域自殺対策緊急強化基金の積増しのための交付金を交付することとしている。
 また、職場におけるメンタルヘルス対策については、「今後の職場における安全衛生対策について」(平成22年12月22日労働政策審議会建議)を踏まえ、今後、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号) の改正を含め、その強化について検討することとしている。


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