クマの大量出没に関する質問主意書

下記の質問主意書を提出する。
平成二十三年一月二十七日

提 出 者                  馳   浩

衆議院議長  横 路 孝 弘 殿

 

 昨年はクマの大量出没が全国的にも大きな問題となった。

 私の地元の石川県でも、例年以上のクマによる人的被害、目撃情報が寄せられ平成十八年以来のクマ出没「警戒情報」を発令した。住宅街までクマが出没したケースが多かったのが今回の特徴である。

 昨夏の猛暑の影響で、クマがエサとしている、どんぐり類が不作だったことが大量出没の主な要因だとされている。それに加えて、農村過疎化や生活形態の変化、戦後の国土政策等、様々な社会構造の変化も複合的に影響していることが専門家から指摘されている。

 子どもやお年寄りの安全を確保し、安心して生活できる環境づくりのためにも、人間とクマ、そして自然と共生した社会を築くことが求められる。自然への配慮やクマの生態系を正しく理解した対策を行い、人間と野生動物との共存共栄のあり方を考える必要性が問われている。

 従って、次の事項について質問する。 

一 昨年の全国のクマによる人的被害状況、農林業への被害状況、目撃数、捕獲数、殺処分数について、把握する数字を示されたい。 

二 政府は、昨年のクマの大量出没の原因についてどのように考えているか、見解を問う。
   関連して、その対策として現在、実効性が高いと考えられているものについて示されたい。 

三 クマの捕獲、殺処分が行われている一方で、クマの絶滅が危惧されている。ツキノワグマは九州では絶滅し、四国でも絶滅寸前と言われ、深刻な状況である。クマは森の生態系が健全かどうかの目安であり、植物の種をフンとして出すことで森林更新の役割も果たしていると言われている。生物多様性や自然の生態系を守るためにも、クマとの共存は大きな課題である。その様な状況で、クマの正確な生息数を把握することは必要不可欠である。クマの出没が多いからといって、クマの総数が増えている訳ではなく、減少傾向だと聞くが、現在のクマの生息数について政府の把握する数字を示されたい。

四 三に関連して、捕獲したクマを山に帰そうとしても、様々な事情でそれが容易でない例が多く報告されている。経費の問題や山の所有者に許可が取れない、再び人里に戻ってくることなどが原因である。また動物園や牧場も野生のクマの受け入れは難しいと言われている。
 絶滅が危惧されているクマの保護に関して政府の見解を示されたい。

五 クマを捕獲する狩猟者の減少と高齢化が問題視されている。狩猟者の減少により、クマが人里に下りてくることを怖がらなくなったことも大量出没の原因として考えられているが、政府の見解は如何。

六 森林政策について、戦後進めてきた広葉樹を伐採し、材木になるスギ・ヒノキ等の針葉樹を大量に植林する政策によって、クマを始めとする野生動物がエサとすみかを失ったことが、人里にそれを求めて出没する理由の一つとして考えられている。さらに林業の衰退により森が荒廃し、さらなるクマのエサ不足に拍車がかかったと言われている。
 また、スギの人工林が放置されることで、木々が密集し、光が当たらないことで、地面に草が生えず、森の土がむき出しになり、山崩れや土砂災害を引き起こすなど水源地の保水力の低下が懸念される。これは都市住民の生命や財産にも直結してくる問題である。
 戦後の拡大造林政策を、政府はどう評価し、また今後どのような対策を講じていくのか示されたい。

七 農村の過疎化によって、以前は人の手によって管理されてきた里山が放置されたことで、クマが茂みに身を隠してエサが豊富な人里へと移動をしやすくなったことが指摘されている。
 クマの行動範囲が拡大したことで、人間との不幸な出会いを引き起こす原因となっていると考えられているが、過疎化とクマの生息範囲の拡大との関連性について政府の見解は如何。

 以上質問する。 



衆議院議員馳浩君提出
クマの大量出没に関する質問
に対し、下記答弁書を送付する

内閣衆質177第018号
平成23年 2月 4日

内閣総理大臣                  菅 直人

衆議院議長  横 路 孝 弘 殿

 

 衆議院議員馳浩君提出 クマの大量出没に関する質問 に対する答弁書

一について

 都道府県からの報告によれば、平成22年1月から同年12月までの聞におけるクマ類による人身被害件数は145件、被害の防止のために捕獲等されたクマ類の頭数は3952頭、このうち殺処分されたクマ類の頭数は3493頭となっている。 また、同年4月から同年12月までの間におけるクマ類の目撃等の件数は、延べ約18000件となっている。 なお、同年1月から同年3月までの間におけるクマ類の目撃等の件数については、承知していない。
 また、農林業における被害状況については、暦年ではなく年度ごとの状況について調査を行っており、平成22年度の被害状況については、現在調査中である。

 

二及び五について

 政府としては、クマ類の大量出没については、森林等の生息環境の変化、過疎化等による中山間地域の社会環境の変化、堅果類の凶作、狩猟者の減少等が影響していると考えている。
 また、クマ類の出没対策については、行政機関、集落及び個人の各主体において、個体群の保護管理、人里における被害防除及び生息地の管理を並行して進めることが効果的であると考えている。

 

三について

 クマ類の全国的な生息数については把握していないが、その生息分布については、自然環境保全法(昭和47年法律第85号)第4条に基づき実施される自然環境保全基礎調査によれば、昭和53年から平成15年までの25年間に、約1.2倍に拡大していることが明らかとなっている。

 

四について

 クマ類については、一部の個体群で絶滅が危倶されている一方で、人里に出没し被害を引き起こすおそれがあることから、それぞれの地域の実情に応じた保護管理を進めていくことが重要である。 こうした観点から、鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(平成14年法律第88号)第7条に基づき都道府県知事が定める特定鳥獣保護管理計画等に基づき、各都道府県において、地域の実情に応じたクマ類の保護管理が実施されているものと認識している。

 

六について

 戦後、荒廃した国土の復興、建築用材の需要増大等に対応するため、スギを始めとする針葉樹を中心とした人工林の造成を積極的に進めてきた成果として、現在、これらの人工林が本格的に利用可能となる段階を迎えていると認識している。
 今後は、このような成果を踏まえ、これらの人工林について、資源の循環利用、生物多様性の保全等森林の多面的機能が十全に発揮されるよう、間伐等を始めとする森林施業を適切に推進するとともに、針広混交林化、広葉樹林化等多様な森林整備を進めていくこととしている。

 

七について

 中山間地域の過疎化等により、人の手が加わらなくなった里山や耕作放棄地が増加していることが、クマ類の生息範囲が拡大している要因の一つであると考えている。  


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