防衛省が出した事務次官通達に関する質問主意書

下記の質問主意書を提出する。
平成二十二年十一月二十五日

提 出 者                  馳   浩

衆議院議長  横 路 孝 弘 殿

 

 航空自衛隊入間基地で今月三日に開かれた恒例の航空祭で、地元の民間団体「入間航友会」の会長が行った挨拶が波紋を呼んでいる。すなわちこの挨拶を機に出された防衛省の事務次官通達「隊員の政治的中立性の確保について」が、憲法が保障する人権の中でも優越的地位にある「表現の自由」を侵害するおそれがあると連日マスコミも報道し国民一般の広く注目するところとなっている。

 以上を踏まえて、次の事項について質問する。

 

一 当該通達は、「入間航友会」会長の発言が、自衛隊員の政治的行為の制限を定める自衛隊法違反の誤解を招く「極めて不適切な発言」と言及しているが、当該会長のどの発言部分が自衛隊法違反の誤解を招く発言であったのか。

二 隊員も含めて公務員の政治的発言は規制されるが、民間人にまで拡大することは、あまりに危険な発想ではないか。危ない発言をしそうだという理由で、これまで参加していた行事に招かないのは、「表現の自由」に反するのではないか。

三 関連して、今月十八日の参議院予算委員会で仙谷官房長官は「民間人であろうとも自衛隊施設の中では、表現の自由は制限される」と発言しているが、そもそも「表現の自由」が数ある人権規定の中で優越的地位を有するのは、その表現内容が特に政治的内容に関わる場合、それが封殺されれば民主的政治過程自体が機能不全を起こすから、どの人権よりも優先的に保障しなければならないとされているからである。そうであるならば、今回問題となっている表現内容は、明らかに政治的発言であり、「表現の自由」でも最も尊重されるべき内容であるから、これを制限する行為は慎重にも慎重を期して行われなければならない。しかし当該通達は、慎重な政府内での議論もなく、隊員の政治的中立性に名を借りて、わが国の民主主義自体を否定する暴挙であり、明らかに憲法違反であると考えるが政府の見解如何。

四 同じく仙谷官房長官は「自衛隊員を一定の政治的方向性に向けさせようとする発言は遠慮してほしい」と発言しているが、この発言こそが、隊員の政治的中立性を損なうものとして考えている理由なのか、言い換えれば、自衛隊施設内での民間人の「表現の自由」までを制限できる理由と考えているのか政府の見解如何。もしそうではなかったり、他に理由があるのならば、その理由を教えてほしい。

五 同じく北澤防衛相は「言論を統制するものではなく、自衛隊の政治的中立性の確保の重要性について理解と配慮を求めた」と発言されているが、自衛隊施設内で行われている恒例行事において、恒例的に出席して挨拶をされている方の出席を、当該通達で出席をさせないことが、結果的にその方の言論を統制することになっている事実を政府はどう考えるのか政府の認識如何。

六 隊員の政治的中立性を確保する上で、逆に広く国民がどのような政治的意見を有しているかを知ることは、むしろ有用ではないのか。特に隊員は他の公務員と異なり、一般国民との接触は少ないわけであり、なおのことだと考える。また、時の政権に批判的な発言に隊員を触れさせないこと自体、時の政権に迎合させたり、迎合を強制する結果になり、むしろ時の政権の政治思想・政策からも中立的であるべき、本来の政治的中立性に反することになるのではないか政府の見解如何。

七 当該通達は民間人を対象としているが、国会議員・地方議会議員・知事等の首長に対しては何故その対象とならないのか。その理由も示してほしい。私見によれば、政治的発言の自由は、議員・首長等と国民一般と差別すべき理由はなく、差別すれば憲法の「平等原則」に反すると考える。

 以上質問する。 



衆議院議員馳浩君提出
防衛省が出した事務次官通達に関する質問
に対し、下記答弁書を送付する

内閣衆質176第199号
平成22年12月3日

内閣総理大臣                  菅 直人

衆議院議長  横 路 孝 弘 殿

 

 衆議院議員馳浩君提出 防衛省が出した事務次官通達に関する質問 に対する答弁書

一について

 自衛隊法(昭和29年法律第165号。以下「法」という。)第61条並びに自衛隊法施行令(昭和29年政令第79号)第86条及び第87条は、隊員(法第2条第5項に規定する隊員をいう。以下同じ)の政治的行為の制限について定めており、例えば、隊員は、特定の内閣に反対するなどの政治的目的のために国の庁舎等を利用させてはならないとされている。 平成22年11月3日に航空自衛隊入間基地内において行われた行事において、部外の団体の長が挨拶し、一刻も早く菅政権を打倒して自民党政権にしなければならない旨の発言を行った。 防衛省としては、このような発言が当該行事に参集した多数の人々の前で行われたことは、当該行事の会場となった施設を管理する立場にある隊員が政治的目的をもって当該発言者にそのような発言をさせるために施設の利用を容認したとの誤解を招くおそれのある事態であったと考えている。

二から七までについて

 御指摘の事務次官通達「隊員の政治的中立性の確保について」(以下「本通達」という。)は、防衛省・自衛隊の施設を管理する部隊又は機関の長等に対し、当該隊員が法第61条第1項の規定により禁止されている政治的行為を行ったとの誤解を招くことのないよう、当該隊員自らが留意すべきことを示したものであって、一般の国民の行為を規制しようとするものではなく、また、通達という性質上、一般の国民の行為を規制する効力を有しないことは当然である。 さらに、本通達で示された隊員の対応については、あくまで本通達の趣旨・目的の範囲内で行い、いやしくも一般の国民の行為を規制しようとするものとの疑念を生じさせることがないようにすることとしており、本通達が、憲法で保障された表現の自由等との関係で問題となるものではないと考えている。 なお、本通達は、御指摘のように「時の政権に批判的な発言に隊員を触れさせない」ことを目的にするものでもない。


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