衆議院 法務委員会 会議録

第174回国会 第8号 

平成22年4月20日(火曜日)

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 【馳浩 質疑部分 抜粋
午後四時一分開議

○滝委員長

 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質疑を続行いたします。 馳浩君。

 

○馳委員

 長い本会議の後、お疲れさまでございます。
 私は、一時間ほど与えていただきましたので、三つのテーマについて質問をさせていただきます。 これまでの質問等と重なる点もありますが、よろしくお願いいたします。
 まず、公訴時効制度の趣旨との関係からお伺いをいたします。
 公訴時効を設けている理由として、一般に三つの理由がありますが、それについてまずお答えください。

 

○千葉国務大臣

 公訴時効制度の趣旨という御質問でございます。 三つというお話、既に御指摘をいただきました。
 公訴時効制度の趣旨といたしましては、一般に次の三つの点が挙げられております。 これは、一つには、時の経過によって証拠が散逸すること、二つには、被害者を含む社会一般の処罰感情が希薄化すること、そして三つ目に、犯罪後、犯人が処罰されることなく一定の期間が経過した場合には、そのような事実状態を尊重すべきということ、この三点が公訴時効を設けている理由だと、この間、解釈をされております。

 

○馳委員

 そこで、今回の法改正で、死刑がある刑法犯、特別法犯については時効が廃止されるわけですから、この限りにおいて事実状態の尊重という理由はなくなったと理解してよろしいでしょうか。

 

○千葉国務大臣

 公訴時効の趣旨というのは、先ほど三点申し上げました。 これは、処罰の必要性と法的安定性の調和を図るということに基づいているものでございます。 この法的安定を図る必要性の要素の一つとして事実状態の尊重ということが挙げられているわけでございます。
 犯罪が重大であればあるほど、その処罰を確保する必要は大きくなるということが言えると思います。 そういう意味で、比較考量の結果としては、社会の法的安定を図る要請としての事実状態の尊重という趣旨は、比較すると弱くなってくるということは言えようかというふうに思いますけれども、この三点の公訴時効の趣旨そのものは決して、全く否定されるというものではないというふうに思っております。
 時の経過によっても、犯人が処罰を免れ続けているという事実状態を尊重して社会の法的安定を図るという要請が、先ほど申し上げましたように、犯人を処罰して社会秩序の維持、回復を図るという要請に比較して、比較、弱くなる、こういうことだというふうに解されております。

 

○馳委員

 そもそも論として、時効期間中、逃げている人に謝罪の気持ちはなく、また、野放し状態とは、逆に社会の安定性を害すると思われます。 事実状態の尊重という理由は公訴時効制度の趣旨から排除すべきではないのかと思いますが、いかがでしょうか。

 

○千葉国務大臣

 これも少し重なる答弁になろうかというふうに思いますけれども、公訴時効制度の趣旨、これは、基本は処罰の必要性と法的安定性の調和ということになります。それで、その三点の問題が指摘をされているわけでございます。
 犯罪後、犯人が処罰されることなく一定の期間が経過した場合、そのような事実状態を尊重すべきということの要素は、まず、時の経過によって証拠が散逸をしていくということがどうしても多くなります。 それから、被害者を含む社会一般の処罰感情が希薄化していくということ、これが法的安定を図る必要性の要素として挙げられているものでございます。
 このような公訴時効制度の趣旨については、一般的には合理性を有するというふうに解されておりまして、事実状態の尊重という要素が、確かに、公訴時効の趣旨を考えるに当たって、例えば重い犯罪になりますとそれがいささか希薄化していくということもありますし、それから、今回の公訴時効の見直しの対象とされていないような軽微な犯罪、こういう場合には、この事実状態の尊重、法的安定をそれによって図るということは、やはり現在でも十分に公訴時効の要素となるものだ。
 そういう意味では、全く撤廃をしてしまう、こういうことを外してしまうということには、やはり相当慎重な検討が必要なのではないかというふうに考えております。

 

○馳委員

 しつこく質問を続けます。
 一般犯罪や微罪について、事実状態の尊重を図るということにしても、公訴時効ではなく不起訴や刑の執行猶予、あるいは懲役ではなく罰金刑にするなどして配慮すればよいのではありませんか。 そうであれば、事実状態の尊重という理由は公訴時効制度存続の理由にしてはならないと思いますが、再度見解をお伺いしたいと思います。

 

○千葉国務大臣

 例えば、検察官の事件処理あるいは裁判所による量刑、こういうことにおいて、犯罪発生後一定期間訴追されなかった事件、その間における被疑者、被告人の生活状況等、そういうことを考慮して、御指摘のように執行猶予にするとかあるいは罰金刑を選択するというようなことは、個々当然あるものだというふうに思います。
 しかし、公訴時効というのは、個別の事件の事情を考慮して取り扱う、そういう制度ではございませんで、ある一定の基準をやはり設けて、そして事実状態の尊重という趣旨を生かしていくということでありますので、個別の事件の処理においては、御指摘のようなさまざまな配慮がなされるということはございますが、公訴時効という制度そのものは、やはり個別の配慮とは別に、一定の法的な基準を設けて法的な安定を図る、そして処罰をきちっとしていく、この両面を実質的に担保していく制度だというふうに考えております。

 

○馳委員

 法制審議会では、今私が指摘したようなこういう議論はなされておりませんでしたでしょうか。

 

○千葉国務大臣

 法制審議会の刑事法部会においては、そもそも、事実状態の尊重が公訴時効制度の存在理由になっているかどうか自体疑問である、あるいは、窃盗罪を犯して逃亡したような者の事実状態の尊重と、殺人罪を犯して逃亡した者の事実状態の尊重とでは大分条件が違うのじゃないか、こういう意見が示されたということは承知をいたしております。
 しかしながら、事実状態の尊重を公訴時効制度の趣旨から除外すべきであるとの意見が大勢を占めたということではなかったと承知をいたしております。
 他方、御指摘のように、公訴時効を廃止しない罪について、事実状態の尊重を図る観点からは、公訴時効ではなく不起訴や刑の執行猶予、あるいは懲役ではなく罰金刑にするなどの配慮をすればよいのではないかとの意見は特段示されていないというふうに承知をしております。

 

○馳委員

 次に、処罰感情の希薄化という理由についてお伺いをいたします。
 ここで言う処罰感情の主体とはだれでしょうか。

 

○千葉国務大臣

 先ほど御答弁申し上げましたように、処罰感情の希薄化ということが公訴時効制度の一つの要素となっております。 この必要要素としてなっている処罰感情の主体というのは、基本的には、被害者を含む社会一般のものだというふうに指しているものと理解をいたしております。

 

○馳委員

 今回の改正について、被害者団体や国民の声を最も重視しての改正と聞いております。 被害者団体の要望はしっかり届いておりますが、社会一般、すなわち国民の声はどうなっているのか、どのような調査や立法事実をもとに国民の声を判断したのか、お伺いをいたします。

 

○千葉国務大臣

 私どもで把握しているところでは、公訴時効のあり方については、例えば、内閣府の世論調査、あるいは国民の皆さんからの意見募集の結果、また、報道機関などでも世論調査などをなさっておられます。 また、被害者団体からのヒアリング、また、法務省に対してさまざまなところからちょうだいをする要望や陳情の内容、こういうものによって、さまざまな方々の、国民の皆さんの声というものを私どもも受けとめさせていただいているところでございます。
 こういうことの中で、人の生命を奪った殺人などの犯罪については、時間の経過によって一律に犯人が処罰されなくなってしまうのは不当ではないか、より長い期間にわたって刑事責任を追及することができるようにすべきである、こういう意識、これが国民の間で広く共有されているものではないかというふうに認識をさせていただいたところでございます。

 

○馳委員

 委員の皆さんのところに配られていると思いますが、衆議院調査局法務調査室の資料を私も拝見して質問を進めさせていただきますが、基本的法制度に関する内閣府世論調査の概要というのがありまして、ページ数でいえば資料の80ページから大体87ページについて、私もちょっと見たんですが、これに基づいて質問いたします。
 この内閣府の世論調査について、殺人など最も重い犯罪の公訴時効期間について、全回答者の約55%が短いと答え、その55%のうち約49%が公訴時効の廃止を提案しております。 算数で計算すると、全体の約28%しか重大犯罪の公訴時効廃止には賛成していない、こういう指摘もできます。
 こういう事実をもって国民の声と言えるんだろうかと思いますが、いかがでしょうか。

 

○千葉国務大臣

 今、算数というお話がございました。
 少しその詳細を御報告させていただきますと、平成21年11月26日から12月6日までの間、内閣府でこの世論調査が実施されました。
 調査の中で、公訴時効制度に関する国民の意識という項目が挙げられておりまして、まず一つは、殺人など死刑が科されることがある最も刑の重い犯罪の公訴時効期間が25年とされていることについて質問が立てられております。 その結果、「短すぎる」または「どちらかといえば短すぎる」と回答した方が54.9%、「これくらいでよい」「長すぎる」または「どちらかといえば長すぎる」という回答をした方が32.5%でございます。 公訴時効制度を知っている、そういう方について集計結果を見ると、「短すぎる」または「どちらかといえば短すぎる」と回答した方が合計で59.3%ということになります。

 それから、時効期間の長短に関する世論調査の評価でございますけれども、現行法上、凶悪重大犯罪の公訴時効期間について短いと疑問視する意見がやはり多数を占めているのではないかと思われます。
 この世論調査なんですけれども、凶悪重大犯罪の公訴時効の見直し策について質問したときに、さっきの公訴時効期間の質問に対して「短すぎる」または「どちらかといえば短すぎる」と答えた方のうち、「死刑が科されることがある最も刑の重い犯罪の公訴時効制度を廃止する」を選択した方が49.3%、「事情にかかわらず、時効になるまでの期間を25年よりも長くする」を選択した方が22.1%、「一定の事情がある場合には、時効になるまでの期間を25年よりも長くできるようにする」を選択した方が25.9%ということになります。

 現行法上、重大犯罪の公訴時効期間について短いと疑問視する意見の中では、見直し策として、公訴時効そのものを廃止する意見が広い支持を集めているものと考えております。
 ただ、この世論調査の結果からも、この世論調査だけではかれるものではありませんけれども、国民のかなり多くの方が、凶悪重大犯罪について、少なくとも事案の真相を明らかにして、刑事責任を追及する機会を広く確保する方向で見直しを求めているということが言えるのではないかと思います。
 なお、質問の仕方ですけれども、回答者に対して、公訴時効の見直し策として、「廃止」「延長」「個別取扱い」、どれか一つを選択するというやり方でございますので、そういう中で延長や個別的取り扱いを選択しているという方が、では、廃止に反対であるのかというと、必ずしもそこまでは明確には言えないのではないか。 どれかを選ぶというやり方ですので、そういう意味で、先ほど算数ということで掛け算をしていただいたんですけれども、必ずしもそういう数字になるのかどうか、ちょっとこの設問の仕方とあわせて、ぜひ御理解をいただければというふうに思っております。

 

○馳委員

 大臣、私の次の質問まで今お答えになったんですよ。 私は、どう質問を展開していいか今ちょっと迷っていたところであるんですが。
 まあ、ざっくばらんに私も言いますが、こういうのは設問の仕方ということで、それと、やはり法務省として社会の様子、感情を踏まえてどのように改正していくかという、これは難しい話だと思うんですよ。 私も厳密に、こういう設問の仕方で改正するのはけしからぬと言うつもりはありません。 だけれども、何か廃止の方向に誘導しようとするような法務省の資料の読み方ができるので、これは私の読み方かもしれませんが、こういう書き方はいかがかな。

 私たち政治家も、いろいろなマスコミ等からのアンケートが来て、何か設問が設定されているのが意図的であったりして、選ぶのに困ったりするときもありますが、この法務省がお示ししている資料をもとに今回の法改正に至ったという論拠はないのではないかと私は言おうとしたのであって、ただ、今、大臣がすべて私の心中をお察しして答弁されてしまいましたので、もうこの点について私はこれ以上追及しようとは思いません。

 次へ行きます。
 そこで、個人的には、重大犯罪の公訴時効の廃止について私は賛成です。 しかし、法改正する以上はその裏づけとなる立法事実が不可欠であるということは、もうこれは釈迦に説法であります。 今回の改正において、特に社会一般の処罰感情の変化というものについてはもうちょっとしっかり把握すべきではなかったのかと思います。
 ちなみに、法制審議会ではこの点について、法務省としてはどういう資料を提供して、また、私のような指摘はなかったんでしょうか。 一応お伺いしておきます。

 

○千葉国務大臣

 法制審議会に提供された資料としては、資料というか、まず法制審議会では、被害者団体からのヒアリングが行われたほか、内閣府においての先ほどの公訴時効制度に対する世論調査の結果、これも資料として出されている。 それから、法務省において二回にわたって実施した国民の皆さんからの意見募集、この結果も資料として配付をされていたということを承知いたしております。
 なお、世論調査の結果については、法務省の作成した調査結果の分析ペーパーだけではなくて、内閣府が作成した調査結果をまとめた書面も資料として配付されているというふうに承知をしております。 また、意見募集の結果につきましては、その重要なポイント、概要のみならず、割と詳細な、具体的な、どういう意見だったかという書面も配付されていたというふうに承知をいたしております。
 そして、法制審議会におきましては、公訴時効見直しの必要性についてさまざまな角度から議論がなされて、その中で、国民の意識についてもやはり議論がなされたというふうに承知をしております。
 凶悪重大犯罪について、時間の経過によって犯人が処罰されなくなるのはおかしいのではないかなどという意識が、被害者の遺族の方々を含めた国民の間で広く共有されるようになっていることから、公訴時効制度見直しの必要があるとする意見が多く示された、そういう国民の意識だということが法制審議会の委員の中でも多く認識をされていたというふうに承知をいたしております。

 

○馳委員

 丁寧に御答弁いただいてありがとうございます。
 私は、公訴時効制度、今回、殺人とか死刑を対象にして廃止、また延長、見直ししていくのは、これは別に私はいちゃもんをつけているわけではなくて、随時というか、こういう議論を常にしながら見直しをしていく姿勢は必要だと思います。
 私も、大臣御存じのように、例の児童虐待防止法とか高齢者虐待防止法の見直しを、実はもう三年ごとに担当しておって、わかります。 想像を絶する事件というのは次から次へと起こってくる。 と同時に、その背景には、やはり社会関係の希薄化とか、知らない間に国民感情が徐々に徐々に、一言で言えば荒廃していく、家族のつながりとか規範意識が低下していくと指摘せざるを得ない状況というのはありますので、私は、今回、被害者感情に十分配慮してくださったなという部分と、それを取り巻く社会情勢というものを踏まえた適切な判断であったろうな、こういうふうに言わせていただきます。

 それで、では細かいことで、次のテーマ、公訴時効見直しの対象犯罪の範囲、また死刑存廃についてお伺いしたいと思います。
 今回、公訴時効が廃止されたのは、人の命を奪った犯罪で、かつ死刑がある犯罪のみであります。 これはなぜでしょうか。 無期懲役、禁錮に当たる犯罪も廃止の対象とすべきだったのではないでしょうか。 こういう指摘もあったと思いますが、いかがでしょうか。

 

○千葉国務大臣

 この公訴時効を廃止する犯罪の範囲を定めるに当たって、刑事責任の追及に期限を設けず、事案の真相をできる限り明らかにすることが強く要請されるほどの当罰性を備えた、そのような犯罪について公訴時効を廃止すべきではないか、こういう基本的な考え方に立ち、そのような犯罪としては、やはり人を死亡させた犯罪、特にそのうちでも悪質で最も刑の重い、故意に人を殺害した殺人罪等を中心とした死刑に当たる罪に限るのが相当ではないか、基本的にはこういう判断をさせていただいたということでございます。

 

○馳委員

 鳩山内閣には、死刑廃止を明確に肯定する亀井大臣がいらっしゃいます。 また、千葉大臣も慎重姿勢と伺っております。 むしろ大臣は本音は廃止論者だと私は見ているが、どうでしょうか。
 今回の法改正は、死刑の存続を大前提にしての改正であります。 そこで、千葉大臣は、今回の法改正によって、死刑存続を賛成したと明言できるのでしょうか。 ちょっと意地悪な質問かもしれませんが。 これはやはり、何となく、私も大臣のこれまでの姿勢を見ておりまして、この法案を提出して成立をお願いしますという以上は、死刑制度については存続は当然と思っておりますが、それでよろしいでしょうか。

 

○千葉国務大臣

 まず、今回の法整備につきましては、現行の刑罰体系を前提として行っているということでございます。
 そのときに、どういう刑の軽重とか、どういう種類の犯罪について公訴時効を廃止するかという一つの基準として、死刑という刑罰、それだけ重い評価がされているそういう犯罪について公訴時効を廃止する、こういう一つの基準として、死刑という刑罰に当たるものを選択させていただいたということでございます。
 ですから、そういう意味では、死刑の存置、あるいは存置論、廃止論、これと今回の改正というのが直接かかわるものではないというふうに私は理解をいたしております。
 そういう意味では、全く、死刑制度をこれによって存置するとか廃止するとか、この法律によってそれを決めるわけではございませんで、私自身は、死刑制度がこの日本の法制度の中できちっと定められている、こういうことを承知しております。 それに基づいて職務も与えられているということで、それを念頭に置いて私も職務を遂行するということでございます。

 

○馳委員

 ちょっと死刑の問題に触れましたので、今回のこの改正案を提出するに当たって、亀井大臣、いわゆる閣内において、死刑廃止論者もいるという中で、死刑制度を前提としてもちろん出されたわけでありますから、死刑制度廃止論者である亀井さんは、今回の法案について特に御意見はお述べにならなかったのでしょうか。

 

○千葉国務大臣

 多分、わかりませんけれども、先ほど申し上げましたように、今回の法改正が、死刑の存廃に関する、これを何か議論をする、あるいはそれを定めるというようなことではございません、直接関係するものではございませんので、こういう改正だということを亀井大臣も多分御承知されているものだというふうに思っております。
 これは、当然のことながら、提案をさせていただくに当たっては閣議決定をさせていただいているわけでございますので、特段それに対して異論があったとかいうことはなく、閣内一致してこの案を決定させていただいて御提案をさせていただいたということでございます。

 

○馳委員

 先ほど私が申し上げた内閣府の調査においては、死刑存廃の調査も行われております。 まず、その結果について報告をいただきたいと思います。 あわせて、その調査結果に対する大臣の所見をお伺いいたします。

 

○千葉国務大臣

 内閣府の世論調査でございますけれども、死刑制度に対する国民の意識等を調査されておられます。 その結果、死刑制度の存廃に関する質問の回答結果ですが、「場合によっては死刑もやむを得ない」という選択肢は85.6%、それから、「どんな場合でも死刑は廃止すべきである」、これが5.7%、「わからない・一概に言えない」というのが8.6%でございます。
 これは設問にもよろうかというふうに思いますけれども、多くの国民の皆さんが、基本的には、死刑制度というものの存続について、やむを得ないといいますか、存続は是とするというような認識、意識でおられるというふうに受けとめております。

 

○馳委員

 死刑制度について、「場合によっては死刑もやむを得ない」85.6%という、これも、世論調査の結果は、ここは重いですね。
 ところで、千葉大臣は死刑執行について大変慎重であると伺っておりますが、大臣に就任されてもう何カ月でしたっけ。(千葉国務大臣「七カ月」と呼ぶ)七カ月でありますが、この間、死刑執行命令書というんですか、同意書というんですか、サインされたでしょうか。

 

○千葉国務大臣

 サインをしたかしないか、あるいはするかどうかということについて、一般的に、お答えをするということは差し控えたいというふうに思っております。
 ただ、先ほどから申し上げておりますように、死刑制度、これは今、日本の刑法、刑事訴訟法、刑事手続の中で定められているものでございますし、今お話があったように、国民的にも、やむを得ない、そういう認識が大方だということを私も承知をして任務に当たっているということでございますので、それを踏まえて対処をしていくものだと考えております。
 ただ、死刑というのが、質的にほかの刑罰とは異なるほどの、やはり人の命を国の責任において奪うという大変重い刑罰でございます。 そういう意味では、これは当然大変間違いがあってはなりませんし、さまざまな角度から慎重に判断をする必要があるということも常々指摘をされていることでございます。
 これもあわせまして、職務をしっかりと、きちっと的確に私も遂行させていただきたいと考えております。

 

○馳委員

 法務大臣就任後七カ月を経過して、あなたは死刑執行にサインはしていないと私は断言してよろしいですか。

 

○千葉国務大臣

 これは、しているかしていないか、あるいはするかしないかということは、私から申し上げるべきものではない、今の段階で申し上げるものではないというふうに考えております。

 

○馳委員

 死刑執行について極めて慎重姿勢を持っていると、私はあなたのことを指摘してよろしいですか。

 

○千葉国務大臣

 先ほどから申し上げておりますように、基本的に、制度があり、そしてまた、私の職務の一つとしてこれをきちっと精査をして、そして、サインをするといいましょうか、執行についての責任をきちっととるということは当然でございます。
 ただ、先ほど言ったように、これが質的にほかの刑罰とは異なるような大変重い刑罰でございます。 そういう意味で、やはり慎重に、誤りのないようにこれはきちっと精査をし、検討をしていかなければならない、こう考えているところでございますので、制度そしてその重さ、そういう意味では慎重に私も対処しなければならないと考えております。

 

○馳委員

 これはやはり、一参議院議員であった時代と、法務大臣という職責の重さからしてそういう答弁になるのは仕方ないのかなと思いながら、かつてのこういうふうな千葉法務大臣の国会における発言がありますので、ちょっと紹介しますね。

 平成18年5月17日、参議院本会議において、こういうふうにあなたはおっしゃっておられます。 「ところで、杉浦法務大臣は、法務大臣に就任した昨年10月31日、初閣議後の記者会見で、死刑執行命令書にサインしないと表明されました。 しかし、その一時間後には、個人としての心情を吐露したもので、法務大臣の職務執行について述べたものではなかったとの文書を発表し、事実上、発言を撤回されました。 死刑制度に疑問をお持ちであれば、死刑制度廃止に向けた姿勢を貫くべきではなかったのでしょうか。」こういう突っ込みを入れておられるんですね。 当然、このときは野党であり、また一議員として、素直に本会議において述べられたものと私は思っています。

 私は、もともとあなたは死刑制度については慎重な姿勢の方であろうと思っています。 そこで、実際に、今回、大臣となられて執行したかどうかということを、私ちょっと意地が悪かったかもしれませんが、あえて聞いてみたんですね。
 そこで、実は私が本当に聞きたかったのは、この世論調査においても、死刑制度についての問いはありましたが、実は死刑執行についての世論調査というのはないんですよ。 むしろここのあたりも私はやはり聞いてみる必要があるのではないかなと、千葉さんが大臣だからあえてこういう質問をしたいと思って、今、伏線を張ってきたんですよ。
 死刑制度がある、ない、これは今、法務大臣としておっしゃったとおりです。 私もそれでいいと思いますが、死刑執行するかどうか、このことについての世論となると、私はまた事情が違ってくるんじゃないかなと思うんですね。 そのことも含めて、死刑執行についての世論調査もあるべきだなと私は思うんですよ。 大臣、どう思われますか。

 

○千葉国務大臣

 これまでも死刑制度ということについてのさまざまな世論調査というのは続けられてきたものだというふうに思いますが、今御指摘のような死刑執行という、こういう形での世論調査というのは、考えてみますと、なかったのではないかなというふうに思います。
 そういう意味では、どういう御意見を持っておられるかということ、委員が御指摘のような、そういうことをより国民の皆さんに御意見をちょうだいするということも一つの考え方かなというふうに、御提起として受けとめさせていただきたいというふうに思います。

 

○馳委員

 これは質問通告していなかったので、十分な答弁じゃなくても私は結構ですから、ここは政治家同士の議論として。
 では、終身刑を設けたらどうかという議論が必ず出てきますよね。大臣は終身刑ということを、私は検討に値すると思っているんですよ、大臣としてはどうお考えですか。

 

○千葉国務大臣

 終身刑の議論があることは私も承知をしております。 これは、一つはやはり、日本の無期刑というのが、十年を経過した後、かなり仮釈放という形で釈放される。そうなりますと、この仮釈放がある無期刑と死刑と、こういうものの間が非常に何か距離がある。 そういう意味では、刑を選択するに当たって、十年程度のもの、それと片方では死刑、こういう間にもっといろいろな選択できる刑罰があってもいいのではないか、こういう御議論があるというふうに私は承知をしております。 一つの傾聴すべき議論だというふうに思っております。
 ただ、終身刑ということについては、また今度は逆に、むしろ拘置の施設から出られないということによって非常に精神的な圧迫になる、そういうことによって人格的な破壊のようなものが起こるのではないか、こういう指摘もあり、そういう意味では、大変極めてむしろ残虐な刑罰になるのではないか、また逆にこういう指摘もあるところでございまして、ぜひこれはまたいろいろな観点で議論をしてみなければいけないことではないかというふうに思います。

 

○馳委員

 これは、重大犯罪、凶悪犯罪の抑止力として、私は、検討するということも社会に与える影響はあると思って、検討したらいかがですかとあえて言ったんですね。
 何でかといったら、私はこの間もちょっと質問しましたが、裁判員制度が始まって一年、裁判員の方々、参加した人は大体おおむね参加して本当によかったという評価があるんですけれども、そんな中で死刑を、凶悪犯罪に当たって、裁判員として参加をし、一生懸命勉強し、検察官、弁護士等の意見も聞いて、さて死刑というところにぶち当たったときに、やはり必ず皆さん方、心の中に非常に、私がこんな判断を下していいんだろうかというものを持っておられるんですね。 私は、そういう評価の新聞記事などを拝見いたしました。
 そうなってくると、そうはいっても、社会全体の犯罪の抑止力という観点からも、終身刑のあり方についても私はもう検討する時期じゃないのかなというふうに思って、あえて大臣に聞いてみたんです。 何かコメントがありましたらどうぞ。

 

○千葉国務大臣

 今御指摘がございました、裁判員制度のもとで、やはり選択ができる刑罰が、ある意味では非常に限られている。 そういうときに、本当に重大な、大変重い犯罪に対して、どういう刑を選択するかというのは多分大変悩ましい問題であろうというふうに思います。
 そういう意味で、裁判員制度ということも念頭に置きつつ、終身刑、あるいは、あとどういうものがあるかというのは私も知恵が余りありませんけれども、こういうこともあわせて、刑罰ということについてより一層議論を深めていくということは大切なことだというふうに思います。

 

○馳委員

 次の質問に移ります。
 被害者死亡のひき逃げ犯について、現実、どのような罪となっているのか、お聞きをします。
 今回の公訴時効の期間延長の対象である遺棄致死罪や危険運転致死罪として処罰される例は少ないのではないのでしょうか。 少ないとするならば、その理由もお教えください。

 

○千葉国務大臣

 一般的に、被害者が死亡する形態でのひき逃げ犯については、刑法の自動車運転過失致死罪、それから道路交通法の救護義務違反の罪が成立し得るのではないかというふうに考えられます。
 また、負傷者を一たん車に乗せて保護しようとした、しかし、そういうことで保護をする責任があると認められるような場合に、それをきちっと最後までやらずして、その生存に必要な保護をせずに被害者を置いてきぼりにした、死亡させたというようなときには、保護責任者遺棄致死罪、これも成立し得るのではないかというふうに思います。
 それから、今度はアルコールの影響、こういうもので正常な運転が困難な状態で自動車を走行させ、そして被害者を死亡させたような場合には、先ほどの自動車運転過失致死罪ではなくて危険運転致死罪、これが設けられておりますので、これが成立し得ることになるのではないかというふうに思います。

 そういう意味では、被害者死亡のひき逃げ犯については保護責任者遺棄致死罪や危険運転致死罪を適用するということになろうかというふうに思いますけれども、そのような例について、統計的には把握がされておりません。
 したがって、ひき逃げ犯について逃げ得を許してはならないというのは当然でございますし、検察においても警察と連携してそれをきちっと適正な科刑をするようにしていかなければなりませんけれども、残念ながら、ちょっとそういう範疇をまとめた把握というのはされておりませんので、どのような事態になっているか、少ないのではないかという、必ずしもそうも言えないのかなというふうに思いますが、ただ、適切に対処をしていかなければいけない、ひき逃げを許すようなことがあってはならないということは当然だと思います。

 

○馳委員

 ひき逃げ犯、まず事故があったときに被害者救護を怠る、それから警察の通報義務も怠る、そして現場から離脱をする。 故意か過失かを問わず、事故があった後にそういう行為をしてひき逃げ犯としてしまった場合には、まさしく犯罪を二度犯すような、被害者、被害者の家族からすれば、まさしく本当に悪質な行為と言わざるを得ない。 したがって、本当に悪質なひき逃げ犯ほど逃げ得を許す結果になってしまっていると思います。 これでは到底求められる公平性を担保できないと思います。
 したがって、ひき逃げ犯の公訴時効については、死刑や懲役などの法定刑のみの基準で公訴時効の期間延長を決める手法を捨てて期間延長をするか、もう一つ、犯罪の構成要件という実体法を改正すべきと考えますが、大臣としてはどういう方向性で考えておられるのでしょうか。 あわせて、そもそも論として、ひき逃げ犯の実態について、何とかしなければとの認識がありますが、より立件しやすくなるような工夫をしていないんでしょうか。
 大臣も、実態調査がないというのは、確かに私もあれっと思ったんですね。 こういったひき逃げ犯の事案については、できれば全国の統計をし、分析をし、そしてより悪質なひき逃げ犯についてどう対処すべきかということを、すべきだと思うんですけれども、大臣、いかがでしょうか。

 

○千葉国務大臣

 なかなかひき逃げ犯の態様もさまざまであろうというふうに思いますので、実態調査というのはどういう形で行うか、あるいはどういう集計の仕方をするかということ、難しいところはあろうと思いますけれども、いずれにしても、ひき逃げ犯を許す、取り逃がすというようなことをできるだけ避けなければならないということは、もう当然のことだというふうに思っております。
 公訴時効に絡めて考えますと、今回の公訴時効の廃止あるいは延長、これは、人を死亡させたという犯罪、こういうことに着目をして、そこを一つの基準にして公訴時効の廃止や延長という今回の見直しをさせていただいておりますので、道路交通法上の救護義務違反というのは、救護義務違反行為の結果として人を死亡させた場合について処罰をする、こういう構成ではありませんものですから、なかなか公訴時効の今回の改正にはのることができないということだというふうに思っております。

 ただ、交通事犯については、例えば死亡した場合に、今度の法律案でも危険運転致死罪の公訴時効は十年から二十年、それから自動車運転過失致死罪の公訴時効期間は現行の五年から十年に延長するという形にしておりますので、ある意味で、少しずつではありますけれども、できるだけ厳正に対処をするという方向にはあろうかというふうに思っております。
 なかなか公訴時効という、そこで切り分けるというのはちょっと難しいところがあろうかと思います。

 

○馳委員

 私は、この後、実は強姦致死の話も聞こうとしたんですが、やめます。 つまり、個別の犯罪等々を考えると、いや、こんな犯罪も、あんな犯罪も公訴時効廃止の対象にならないのはおかしいんじゃないかという議論を始めたら切りがないんです。 したがって、今回の法改正は、やはり私は一つのステップにするべきだなというふうに思っています。
 また、社会情勢の変化によって、やはり信じられないような犯罪というのは起こってきますね。 先ほども申し上げましたが、泥縄ではもちろんいけないのではありますが、やはり常に見直しについては真摯に取り組む。 そして法制審議会にも、期間がありますから、期間を持って諮問しますよというんじゃなくて、やはり常に注意を払っておくということは私は必要な姿勢ではないのかな。 これは大臣だけじゃなく副大臣にも政務官にも、今回の法改正ですべて終わりではない、今後ともやはり、死亡させた事案、死刑に相当する事案というのではなくて、個別の事案も含めて検討が必要だという認識は持っていくべきではないのかなと思うんですね。
 では、これは、先ほどから大臣にばかり聞いていますから、加藤副大臣、いかがでしょうか。

 

○加藤副大臣

 御指摘の件は、恐らく公訴時効制度の問題に限らず、刑法の法定刑のあり方などについても御意見おありのことと思います。 そこは私も、この立場ということではなく一人の人間として考えると、もう少しここはこうした方がいいんじゃないかと思う場面もなくはございませんし、恐らく馳先生も同じようにお感じの部分があるんだろうと思います。
 その意味では、今回は公訴時効の制度を見直すということで法改正の御提案をさせていただいておりますけれども、それもまた将来に向けて何か検討すべきことがあれば常に検証していかなければならないと思いますし、加えて、刑法そのものについてもさまざま、世間一般でも御議論のあるところでありますから、それは真摯に私どもも常に御意見を承って、研究は続けていかなければならないというふうに思ってございます。 そこはまた、先生からもぜひ御指摘をいただきたいとお願い申し上げる次第であります。

 

○馳委員

 ありがとうございました。
 きょうは別に採決というわけではありませんので、今後また、議論を踏まえて、私もいろいろ指摘をさせていただきたいと思います。
 私の質問はこれで終わります。 ありがとうございました。 

  ※詳しくは衆議院 会議録議事情報 会議の一覧 をご覧ください。
(常任委員会 → 法務委員会 → 4月20日 第8号 )

 



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