ライフスタイル・カルチャーを楽しむ 新・自分発見マガジン 季刊誌
Voluntar (ぼらんた〜る) 2008-April vol.26


子どもの心に寄り添う、傾聴ボランティア
【チャイルドラインがそばにいる】 

 子どもの声に耳を傾けるチャイルドライン。 お説教せず、電話でただ声を聴く。 それだけの活動が、今や全国で60以上の団体によって実施されている。
 この広がりに国はどう応えるのか。 「チャイルドライン支援議員連盟」 幹事長の馳浩さんにチャイルドライン 「傾聴ボランティア」 の存在がなぜ今必要なのか、お話をお伺いしました。

 

弱者支援の源泉は、レスラーのエネルギーと教師の経験 

 俺はもともと格闘家として、健康な体に育ててもらって、オリンピックに行ったりプロレスラーをさせてもらってね、障害者の方や子どもたちから憧れを持って見られるんだ。 俺の体を触りに来るんですよ。 筋肉を触って、ありがたいありがたいって(笑)。

 そういう意味で、俺は何かエネルギーを身につけているのかもしれない。 だからこそ、人々に恩返しができる仕事がしたかった。 昔はリングの上で頑張ったり、教員として頑張ることが一つの貢献でしたが、今は国会議員として、国会議員だからこそできることをしたいと思っています。

 俺が力を入れている弱者支援は、もともと共産党や社民党の皆さんが一生懸命にやってこられた問題です。 難病問題や学童保育支援、虐待の被害者支援、児童相談所の機能強化とか。 そうした問題に全エネルギーをかけて取り組む人は、自民党内にあまりいなかったかな(笑)。

 今の自民党衆議院議員で、高校の教壇に立った経験のある 「教員あがり」 は俺だけですよ。 大学の先生あがりはいるけれど。 俺は短い期間でしたが母校である星稜高校と、進学塾で3年間、大学で7年間授業をして、いろいろな教育現場を見てきました。 与党が光を当ててこなかった弱者支援に対して、教育の現場で培った経験を活かしたい。 そういう思いで政治家を志したわけです。

 超党派の議員による 「チャイルドライン支援議員連盟」 は、一言で言えばチャイルドライン支援センターをバックアップする連盟です。 皆さんもよく分かっておられると思いますが、NPOやNGOが活動していくには資金が必要です。 そのためには、誰かの仲介や口利きが必要になってくる。 いくら思い入れのあるボランティアの方々がいても、資金がなければ団体は成立しません。

 日本でのチャイルドラインは、もともと社民党の保坂展人先生、自民党では河村建夫先生、小杉隆先生がイギリスを視察して、98年頃にスタートしました。 文部科学省にかけ合って、3年間の事業としてキックオフした。 心ある方々によって、全国に組織もできました。 しかし、維持運営は大変です。

 与党としても認定NPO団体への税制優遇を進めていますが、チャイルドライン支援議員連盟は、企業に出向いて頭を下げて、実際に資金援助をお願いしています。 そういう活動だって、俺たち政治家がやってもいいんじゃないの?ということです。

 やはり政治家は、人脈と口利きが仕事じゃないですか。 いい意味でね(笑)。 話をつなぐ。 人と人をつなぐ。 ネットワーク作りが仕事ですから。 最近では企業などに議員連盟のメンバーでお伺いして、資金援助をお願いしてきました。

 今ちょうど河村建夫先生が来られましたね。 河村先生は以前からチャイルドラインをバックアップされていますから、少し話をしていただきましょう。

 

チャイルドライン発祥国に学んだ、子どもを思う姿勢

 馳・・・河村先生はチャイルドラインを日本に根付かせるために尽力してこられた方です。 俺は先生の弟子として、チャイルドライン支援を任されています。

 河村・・・日本でのチャイルドラインは、世田谷で98年に始まりました。 私がチャイルドラインを知ったのは、保坂展人先生に聞いたのが最初だったかな。 詳しく調べてみると、チャイルドラインはイギリスが本格的にやっていて、民間でありながら国が電話代などを支援している状況にある。 よし、まず本家本元に行くべきだと思って、イギリスへ視察に行きました。

 チャイルドラインに限らず、イギリスは非常に子どもに対する思いがある国です。 親に対しても厳しい規制があります。 例えば、子どもを家に置いて親が出かけるのは許されないとか。 厳しいと言えば厳しいけれど、それだけ子どもへの愛情が深いわけです。

 本を読ませる運動にしても、ブックスタート(赤ちゃんとその保護者に絵本や子育て情報を提供する運動)の発祥もイギリスです。 見習うべきところは大いに見習わなければならないと思います。

 チャイルドラインは保坂先生が一生懸命にやってこられて、最近になって本当に全国に広がってきました。 しかし電話代はまだ安くなっていないでしょう。 課題もまだ残っています。

 

 馳・・・去年からNTTさんやKDDIさんも協力してくれて、今年も何とかゴールデンウィークにフリーダイヤルでキャンペーンができそうです。 そのことはチャイルドライン支援議員連盟のメンバーである後藤田先生に話をつないでいただきました。

 河村・・・それはよかった。 今は実質的に馳先生がチャイルドラインをやっていますからね。 私はここで失礼させていただきますが、馳先生、今後もよろしく頼みますよ。

 馳・・・河村先生が文部科学大臣をされた時に、初めてチャイルドラインの有効性が議会で取り上げられました。 俺は先輩方が作ってくださったチャイルドラインの道を引き継いで、拡充するためにやっています。

 

そばにいるだけで、子どもは心強くなる 

 チャイルドラインには、孤独やいじめといった生々しい子どもの状況があります。 社会全体の合わせ鏡が、子どもの置かれた状況であると言って差し支えないでしょう。 であるならば、子どもを社会全体で育てていくシステムを整えるべきです。 その原点が、町内会活動であり、公民館活動だと思います。

 社会全体、つまり住民自治と行政のミックスで、子どもを支援していく。 町内会活動は、最も信頼の置ける住民自治の形です。 小学校単位にある公民館活動も、さらに信頼が置ける。 公民館活動の中には社会福祉協議会が入ってきますから、行政も関与できます。 民生委員さんや児童委員さんが配置されていますからね。

 ですが、家族に目を向けると、町会活動に背を向けていたりするケースもあるわけです。 家族と町内活動をつなぐ役目はどんどん作っていく。 子どもにとって大事なことは、いつも見られていることです。 声が身近にあるということが大事です。 携帯電話は便利ですが、肉声を通した付き合いができる場所を提供しなくてはいけない。

 確かに現代は、父親も母親も、子どもも孤立している。 これは事実です。 いくら家族でも、朝起きてから夜寝るまで、ずっとうまくはいきませんよ。 うまくいかないことが前提だけれど、どこかで、子どもを支えてあげられないかを考えた方がいい。

 例えば大人の男性なら 「ちょっと一杯飲んで帰るか」 とか、女性なら 「エステでも行こうかしら」 とか、息抜きがあります。 子どもには、自分のわがままを聞いてもらえる場所が必要です。 わがままが通用するかどうかは別の問題でね。 今の子どもたちにはわがままを言える場所すらないんですよ。

 俺には小学四年生の娘がいます。 子育てで大事にしていることは、一緒に寝ることですね。 親子三人で川の字になって。 子どもが安心するんですよ。 親子で一緒に寝ていると、今日の給食はどうだったとか、明日何をするのとか、コミュニケーションなんて当たり前にありますよ。

 他には、朝起きたら必ず温かいものを食べさせてから学校に送り出す。 夜は、いくら小栗旬のドラマが見たいといっても、10時前に寝かせる(笑)。 寝るときには安心した環境で寝かせて、朝起きた時にもお父さんお母さんがいる。 それが一番大切なことじゃないかな。

 やはり、親の仲が悪いと子どもに影響しますよ。 お父さんとお母さんの仲が良ければ、子どもも安心して何でも話せるんじゃないでしょうか。 そういう家庭が少ないから、チャイルドラインに電話をかけてくる子どもが多いのかもしれないね。

 

いじめは犯罪になる前に食い止めなければならない 

 いじめは、犯罪と表裏一体の問題です。 文部科学省も言っていますが、いじめはどの子にも起こりうる。 犯罪に発展することもあります。 そうなったら警察や裁判所の問題です。 その一歩手前で救い上げる。この問題は、児童福祉法の一部改正に盛り込まれました。

 いじめが犯罪やPTSD(心的外傷後ストレス障害)などの精神疾患につながる前に受け止めることも、チャイルドラインの役割の一つです。 今後は、犯罪に関わることがあった時に、捜査機関や行政機関と連携できる存在として、チャイルドラインが重要になってくるのではないかな。

 逆にいじめる側には、スポーツや芸術活動が大切だと思います。 ストレスによる攻撃性が人に向かって、いじめにつながる構図があるならば、スポーツや芸術がストレスを発散する機会になるでしょう。

 また仮に、いじめる側の子に精神障害や発達障害があるなら、そうした子への対応もしなくてはなりません。 担任の先生が早い段階で気づくべきですが、全て任せっぱなしでもいけない。 現在、都道府県の8割から9割に医療・教育・福祉・児童関係で構成されている 「要保護児童地域連絡協議会」 があります。 そこで救い上げて、気づいたことを一つずつ解決していく。 いじめに対するキーワードは、やはり学校と行政の連携ですね。

 この問題に関連して、俺が今力を入れているのが、学校の事件事故問題です。闇に葬り去られることが多い問題に対して、専門的な調査をする第三者機関 「学校事件事故調査委員会」 が必要だと思っています。

 例えば、鉄道航空事故が起こると 「鉄道航空事故調査委員会」 が事故原因を追求しますよね。 いきなり警察が入るより、まず専門的な検証があって、再発防止への提言をする。 検証の過程で犯罪があったとすれば、そこで警察が介入するわけです。

 俺は学校で起こった事故にも、こうした第三者機関があっていいと思います。残念なことに、学校にはいじめによる自殺、部活動のシゴキによる死亡事故があります。 そうした理不尽な事故が起こった場合、すぐに裁判ではトラブルの元です。 「学校事件事故調査委員会」 を設立するために、今提言をまとめているところです。

 

ロビー活動と「気合だ!」 チャイルドラインへのメッセージ 

 チャイルドラインをもっと発展させるには、ロビー活動を積極的にやることです。 電話がツールとはいえ、地域との密着は欠かせません。 ロビー活動というのは、町会議員さんや市会議員さん、県会議員さんなんかを訪問して、資金の支援や企業の紹介をお願いすることです。

 俺たち議員にとってロビー活動は大切です。 票を集めて当選させてもらっているんだからね。 代弁者として議会で発言したり、紹介してもらった人に会いに行ったり。  人に会うのって大変なんですよ。 アポイントを取ったりね。 それを繰り返すのがロビー活動。 やればやるほど、相手に対して効果的な提案ができるようになります。

 ロビー活動の成果は、やはり地域の団体によって異なるでしょう。 組織の活動内容や深みは、リーダーのキャラクターによるところが大きい。 図々しくて慎ましやかな人じゃないと、うまくいきません(笑)。 どんな人とも普通に話ができる図々しさ、支援を受けるという謙虚さ。 押しは強すぎたら嫌がられるし、弱すぎたら頼りなく見えるし。 難しいことですが、ロビー活動を続けて鍛えていってほしい。

 全国でチャイルドライン活動をされている方には、 「気合だ!」 ということを伝えておきます。 というのは、チャイルドラインのボランティアには女性が多い。 認定NPO法人の資格を得るために必要な資産公開を、夫が嫌がってできないというケースがあるわけです。

 ご存知のように、認定NPO法人には税制優遇があります。 活動も社会的にも認知されて、とても名誉なことです。 しかしその条件が、女性が、主導権を握るNPO活動、ボランティア活動の壁になっているんですよ。 俺が 「気合だ!」 と言いたいのはそこです。

 認定NPO法人の資格を取れずにいるチャイルドラインの人たちには、自分たちの活動の目的は何なのか、もう一度考えてみてほしい。 税制優遇とは、国からの活動支援なんです。 問題はあると思いますが、団体の中で議論を詰めて、何とかハードルをクリアしていってほしい。 気合入れて頑張れ!

 女性の多いチャイルドラインが活躍するには、まだまだ社会的な壁があります。 そこでくじけるのか、気合で乗り切るのか。 伊吹幹事長もその点をよく分かっておられて、チャイルドラインの団体が認定NPO法人を取れるように、内部で調整して下さっています。 行政と話をする時にはいつでも支援しますよと。 俺も全く同感です。 

総合的に見て、チャイルドラインは 子どもにとってべストの存在だと思う


■Vol.26 (2008.04-春)

特集 : チャイルドラインがそばにいる

子どもの声に耳を傾けるチャイルドライン。 お説教せず、電話でただ声を聴く。 それだけの活動が、今や全国で60以上の団体によって実施されている。 この広がりに国はどう応えるのか。 「チャイルドライン支援議員連盟」 幹事長の馳浩さんにチャイルドライン 「傾聴ボランティア」 の存在がなぜ今必要なのか、お話をお伺いしました。


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