中日・東京・北陸中日新聞 同時掲載 平成20年7月4日
 【打算?ハト派複権?】
 自民有志 素早い対応なぜ
外国人子弟への差別問題

 

 「通学に学割が利かない」といった外国人子弟への差別問題に、自民党有志が素早い動きを見せている。 人権問題は野党や日弁連の”専売特許”だったはずだが、なぜ? 外国人抜きに日本経済は成り立たないという「打算」なのか、それとも、国粋主義に染まりかけた自民党内でハト派が息を吹き返しつつある「証左」なのかー。 自民がハト派政党に変身する前兆なら、野党もうかうかしていられない。 議員たちの本心を探った。(市川隆太)

 

 「文部科学省は、定住外国人の子どもが、小学校を卒業していなくても、中学に入学できるよう、条件を緩和する方針を固めた。 日本に長期滞在する外国人増加に伴い、外国人学校からの日本の中学への入学を希望したり、経済的理由で小学校に行けなかった子どもが義務教育を受けられるようにする。」 先月末、こんなニュースが本紙などで大きく報じられた。

 

自公54人が『議員の会』

 それより半月前の先月11日、『外国人学校及び外国人子弟の教育を支援する議員の会』という国会議員グループが、文科省方針の下書きかと見紛う「中間とりまとめ・提言」をつくっていた。

 「小学校の受け入れ態勢を整備するとともに、積極的な入学支援を教育委員会のバイリンガルの就学相談員が行ないつつ、中学校への進学が円滑に進むよう弾力的運用を心がけるべきである」(提言)

 「議員の会」は河村建夫元文科省(自民)が会長、教員出身の山下栄一参院議員(公明)が幹事長を務める与党ばかり54人の議員グループだ。 自民党からは谷垣禎一政調会長、森山真弓元法相、小坂憲次元文科相らが顧問に名を連ねている。

 

進学や学割など配慮 提言
野党のお株 奪った働き

 先月16日といえば、ブラジル人学校「セントロ・エドカシオナル・カナリーニョ」(」(埼玉県鴻巣市)の吉村ジュリエタ校長が、JR東日本本社(東京都渋谷区)を訪ね、「生徒に学割定期を認めて」と要望した日。 実は、この点も「提言」に、しっかり書かれていた。 「本国政府が認める在日外国人学校については、仮に無認可校であっても通学定期割引を適用するよう、事業者も含めた関係機関への働き掛けを強化すべきである」

 この日、JRは政府主導なら学割も可能かも、との考えを仄めかしたが、「提言」は、それを見透かしたかのごとく、政府にくぎを刺している。

 まるで日弁連や野党のお株を奪ったような提言。 素早い動き。 長年、野党と付き合ってきた人権派学者も目を見張る。 「やっぱり、与党は動きがいいなあ」

 外国人労働者なしには立ちゆかない自動車産業などを抱えるという、議員たちの選挙区事情もあるにはある。 「経済界向けのポーズ」という意地悪な見方だって可能だ。 ただ、外国人嫌いの自民党支持者も多い中、ここまで踏み込むのは容易でない。 自民党に何が起きているのか?

 

外国人学校及び外国人子弟の教育を支援する議員の会 中間とりまとめ・提言

▽外国人児童生徒の教育に関する基本方針の策定等 (学習指導要領に「外国人児童生徒への配慮」盛り込み)

▽外国人学校支援(各種学校認可緩和、寄附金税制優遇、学割定期適用)

▽公立学校における外国人児童生徒への教育充実(中学進学の弾力的運用、学校内日本語指導の整備、多文化共生教育)

▽日本語教育の充実(日本語指導者養成)

▽その他(外国人子弟教育の支援基金、在留更新等におけるインセンティブ)

 

 

「民族教育、当然のこと」
「おまけ扱いは失礼」
「議員の会」事務局長 馳浩衆院議員

 なぜ自民党が、と問う記者に、あきれて顔で答えるのは「議員の会」事務局長の馳浩衆院議員(元文科副大臣)だ。 「民族教育や母語による教育を認めるのは(国連条約で定められた)当たり前のことでしょ。 現に、それをチベットに認めていないということで、中国を批判している。 当たり前のことをしなければ、俺たちも中国を批判できないよ」

産業界依存 背景あるが

 産業界の外国人依存という背景も認めたうえで、馳氏は続ける。 「日本に来て、恋愛もすれば、結婚もするでしょう。 子どもたちの教育を準備してこそ、彼らも安心して働けるといううものじゃないですか。 安い労働力さえあればいいのか。 それでは、人として、なっていないんじゃないのか」

受け入れ校 拠点、公立に

 南米系などの在日子弟13万人中、約4万人が、公立学校にも外国人学校にもフリースクールにも通っていない現状に、馳氏は、外国人学校を各種学校認可、または、”準各種学校扱い”で支援する一方、公立学校にも外国人子弟受け入れ拠点校をつくれと唱える。 「母語で学ぶ日本語で学ぶかは、子どもと保護者の選択で」。 外国人教育が「同化教育」になってはいけない、との思いが垣間見える。

 教師経験者の馳氏は北朝鮮の拉致事件を激しく非難することで知られるが、在日朝鮮人の学校にも足を運ぶ。 「北朝鮮の責任は問われるべきだ。 その中で、民族教育を正々堂々と」

 埼玉県議会に超党派で発足した「日本・ブラジル友好議員連盟」会長を務める竹並万吉議員(自民)も「ああいう人に、元気な子どもを育ててほしい」と、吉村ジュリエタ校長にエールを送る。

 県議94人中、65人が議連メンバー。 県に各種学校の認可条件を緩和させるなど、実績を上げている。

 「介護サービス、医療などは人手不足。 高校の空き教室で(外国人向けの)介護教室をやれないか」 「中国に進出した業者も人件費高騰で日本に戻りたがっている」。 竹並氏の口からは”日本の都合”も飛び出るが「今の世で、私が言っていることは、またまだ少数派。 『できやしない』 『やってもらっちゃ困る』とか言われる」とも。 アジアに詫び続けるのは不自然と考える竹並氏だが、こうも言う。 「一番遠い国、ブラジルと仲良くできれば、次々と間を埋めて、近い国とも仲良くなれるはず。 法隆寺だって、渡来人のおかげでできたわけだし」

 しかし、外国人の人権問題は「票」にならない。 それどころか、国粋主義的な有権者や大物政治家の虎の尾まで踏みかねない。 実際、圧力が皆無とはいえそうにないい。 なのに、恐れより清々しさが漂うのはなぜだろう。

 「そういう時は、まさに”対話と圧力”だね」。 冗談めかしてから、馳氏は表情を引き締めた。

 「政府が、民族教育を認める当たり前の姿勢をとるのが本当の先進国。 国粋主義的なことは恥ずかしい。 外国人を、おまけみたいに扱うのは失礼じゃないか」


馳浩 in Mediaメニューへ戻る



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