「スポーツ報知」 平成11年5月4日掲載
新ニッポン人 石川県編

 現代でも加賀百万石という言葉が生き続けていて、漆器、焼き物、染色などの伝統文化が栄え、海の幸山の幸に恵まれた豊かな国が石川県だ。とはいえ、豊かなるがために、ハングリー精神が薄く、閉鎖的という県人気質も浮かび上がってきて・・・。


『第4回県民性講座』

検証 本当にハングリー精神は薄いのか

講師 星稜高校野球部監督   山下先生
  石川県選出 参議院議員 馳浩先生

海、山の幸が豊富

 関西のおふろ屋さんのほとんどが、石川県の出身といわれる。早朝から深夜までの長時間労働に耐えられるのは、粘り強く、勤勉な気質の持ち主でないと務まらないからだろう。

 11月中旬から3月中旬まで雪に閉じ込められ、空は厚い灰色の雲に覆われる。冬だけではない。「弁当は忘れても傘は忘れるな」といわれる高温多湿な特有の風土が、消極的で自ら進んでやろうとせず、他人から言われて初めて行動に移る性格に結びつく。

 「おとなしく、まじめにコツコツとやる努力家が多いが、授業ではたとえ答えが分かっていても自分手を挙げようとはせず、教師にさされて初めて答える」と語るのは、門前町生まれで星稜高校で32年間教壇に立ち、野球部監督としてチームを春夏合計24回も甲子園に導いた山下智茂副校長(53)。

 「県全体としては貧しくない土地なので、ガツガツしないというか、ハングリー精神は弱い」と、小学校3年から金沢市に住み、ロス五輪の代表(レスリング)でもあった馳浩参院議員(37)は分析する。

 スポーツ熱は高いとはいえないが、例外は相撲。能登地方を中心にした神事相撲は数百年も続いており、卯辰山の相撲場で開かれる高校相撲金沢大会は熱狂的な応援団と、大観衆が詰めかけ、初夏の風物詩としてテレビなどでも毎年紹介される。その相撲王国の延長線上に輪島、舛田山、栃乃洋、出島らがいる。

 小松市立女子高のハンドボール、星稜高の硬式野球など、特別熱心な指導者がいる競技だけは強いが、これも数えるほど。

 例外といえば、「星稜高からプロ野球に進んだ選手は、石川県人気質からいえば例外的存在でしょう」と山下さん。負けず嫌いで、闘争心おう盛な選手の代表は小松辰雄(現評論家)だという。

 77年、ベスト4に進出したのをはじめ、甲子園に3季連続出場。あの快速球が「僕らでもやれるんじゃないか」と少年たちに夢を与えた。小松の出現から少年野球が盛んになり、石川だけではなく北信越チームの甲子園での活躍につながった。石川の高校野球の最大の貢献者と評価する。

 松井秀喜(巨人)は、石川県人らしい努力型でありながら、闘志も十分。「あれだけのスターに育った現在でも決してテングにならず、謙虚さを備えている。人間としての器の大きさを感じさせる。シーズンオフに帰郷した際、後輩の前であいさつさせるのですが、彼は一言一言の重みが違いますから、選手は本当に感動しています」と打ち明ける。

 徳田秋声、泉鏡花、室生犀星(ともに金沢生まれの作家)や西田幾多郎(哲学者)、鈴木大拙(宗教家)らを生んだ石川県。

 精神的に内にこもる気質は、必然的に文化活動に向けられる。現代でも”加賀百万石”という言葉が生きている土地。江戸時代の前田家が江戸や京都から多くの文化人や職人を招いたことで、文化が生活の中に浸透している。「ごく普通の青果業者や主婦が三味線や踊り、謡などを披露する。それも、かなりレベルが高い」と馳さん。

 「コツケ」という料理がある。白身の魚にタラコをまぶし、しょうゆをつけて食べる。優雅でおいしい料理だ。石川県では、同じ魚料理でも味付けなどに工夫を凝らす。それだけ料理文化もすすんでいる証拠だろう。

 公民館活動など、地域住民の連携が強いのも、石川県の特徴。だが、連携の強さは、閉鎖性に直結している。「世間体を気にする。会った時の外面はいいが、陰でコソコソと他人の悪口を言うのは好き。かといって面と向かっては論評しない」とも分析する。

 63年以降、県知事は県外出身者であることも面白い事実だ。その理由は「地域が固まって利害関係がシビアなだけに、地元でリーダーシップのある人は嫌われる」(馳さん)からだ。

 大企業がなく、中小企業や伝統的な手工業がほとんどの土地柄。自分たちが何かをするのではなく、上が何かをやってくれると自分たちが潤うという消極的な姿勢となる。当然、革新は好まれず、保守王国といえる。

 だが、その政治面も「国家全体や国際関係という面では弱く、国の将来を考えるという傑出した人物が出づらい」(馳さん)のも事実のようだ


”例外”松井「内に秘めるタイプ多いかも」

 巨人・松井秀喜外野手(根上町、24)

 「これは僕の個人的な見解ですけど、石川県の人は穏やかで、引っ込み思案で、欲がない、のが特徴という気がします。気候の影響もあると思いますよ。夏以外はほとんど空がどんよりとしていますから。冬はほとんど太陽が出ないし・・・。だから、あまり派手なことを好まないんです。どちらかというと、内に秘めるタイプが多いのではないでしょうか。言っときますが、これはあくまでも個人的な意見ですから」

 


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