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COLUMN 馳 浩の『一冊決め』


【4】 『真の悪役』が日本を救う ポピュリズムは最後に民衆を苦しめる
著者: 江藤隆美 2003年5月28 日発行 ISBN:4-06-211883-1

 江藤隆美代議士、とってもプロレスが好きなのである。国会でお会いするたびに、

 「馳くん、プロレスは面白いなぁ。わしゃな、派閥の会長室のテレビにスカイパーフェクTV!入れたんじゃ。朝からアメリカのWWEの番組をつけて観とるぞ。レスラーは大したもんだよ、からだを張っとるからな」

 と、ごきげん。私の肩や腕の筋肉をぺしぺしと張ったりつかんで、「おぉすごい!!」と喜んでいたりして。この無邪気さと、プロレス好きに共通する正義感の発揮された一冊が、この本である。何せ自分のことを『真の悪役』と言いつつ、真の悪役こそ今の日本を救うと言ってのける明快さは、江藤先生ならでは。

 でも、「政治は情」とも言うものの、その政治家の情こそがバブル崩壊後の日本経済停滞の元凶になってるんじゃないの?と看破している国民の皆さまには、突っ込みどころだらけかもしれないが。

 本書には、9月の自民党総裁選の行方や、解散・総選挙のキーポイントが垣間見られる。惜しむらくは、江藤先生自身が総理候補として自他ともに認められていないところ。こういう傑物の存在こそが、自民党の懐の深さなのであるが。

政治における『ただの悪役』『真の悪役』とは?
“抵抗勢力”の長が小泉総理に送る質問状


【3】 国会議員を精神分析する「ヘンな人たち」が生き残る理由

 水島さんが当選したら、いつかは書いてくれるだろうな、と全国会議員が戦々恐々と待ち望んだ一冊。何しろ国会内の本屋さんに山積みされていたのが、瞬く間に売れてしまうほど。

 「いや−、よく売れてますネ」と水島さんにおべんちゃらを言ったら「馳サン、この本、私にこそ読ませたいと思ってるでしょ!!」とニヤッと笑って切り返してくるあたり、さすが精神科医。私の意図を見抜いた上で、さらにその上を行くんだから、かなわない。

 ドクター水島の分析する『政治家』なるモノは、“自己愛パーソナリティ”で貫かれている、らしい。嫉妬、自己愛、特権意識の兆候が表れてきたら、それはもう立派な「政治家」だとか。そして、自己愛に匹敵する自制心や協調の心、共感できる心が求められてこそ、と提言する。何よりも「自己愛性人格障害」の診断基準の9項目は、そのまま印刷して国会正門前に貼り出しておきたいくらいリアリティが高い。

 でも水島さん。ここまで学術的かつ臨床学的に分析しつくしちゃったら、民主党の中に居辛いんじゃない!? 同僚議員もバッサリ斬っちゃってるもんね。居辛くなったらいつでも私の所においで(という尊大さがまた水島さんの琴線を刺激するんだろうな−・・・・)。

精神科医にして国会議員の著書が、
『政治家=ヘンな人』とバッサリ分析。キーワードは『自己愛』


【2】 子供の虐待ドキュメンタリー『凍りついた瞳』 

 社民党の保坂展人議員にすすめられて読んだ。ともに青少年に関する特別委員会理事。今国会では「出会い系サイト被害防止法」を仕上げ、次なる課題は「児童虐待防止法」の見直し作業。その参考書として読ませていただいた。

 こういう社会性のあるマンガは「このテーマを描きたい」という衝動に駆られた作者の心次第なんだろうな、と感じた。法律の予備知識を持つ私でさえ、心臓がパクバクしながら一気に読了させられた。

 読みどころは、なぜ虐待してしまうのか、その深淵に迫っている部分。これを読み解かなければ家族の再構築はなされないわけで、対症療法だけでは必ず再発を呼び込んでしまうからだ。

 すべてのパパやママの心の中に宿っている虐待という種をいかに解消すべきか、そのために取り得る措置に何があるか、を本書はダイレクトに読者の良心に問いかける。子供を凍りついた瞳にさせないように、また、凍りついた瞳をいかに感情の起伏のある瞳にさせるかの答えを、本書に求めなければならない。

 法律改正の当事者である私たちに、現行法の見直すべき論点をも、わかりやすく提示してくれていることに感謝したい。

児童虐待問題の深淵まで描ききったドキュメンタリー・コミック
【1】 多様な『性』がわかる本  ISBN4-87498-291-3

 編者の虎井まさ衛さんには3年前から何度もお会いしている。いつも自民党本部で、陳情する人とされる人、の関係にあるが、ユーモアと理知とウイットに富んだ人だな、というのが私の印象。

 虎井さんたちが求めるのは、戸籍に記載する性別の変更が可能になるよう法制化してもらいたい、ということ。初めてこの話を聞いた厚生族議員のボスでさえ「そんなのおかしい。わしゃ反対。社会秩序を乱す」なんて敬遠していたのに、虎井さんに会って30分間話しただけで、すっかり目の前のかすみが取り払われたようす。彼の取り組みのおかげで、5月中旬から“与党性同一性障害プロジェクトチーム”が開催され『性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律案骨子案』が議論の叩き台にのせられたことを特筆しておきたい。

 本書を読めば、理解よりも容認、というレベルで多様な性がわかる。特にパートナーの存在が、“社会のマイノリティ”と自認する彼らにいかに生きる力を考えているかを実感できよう。また「ふつうって何?」と改めて自問自答できるはず。

 かつて女性に「ふつう、寝るときにブラジャーってつけないんじゃない?」と悪気もなくたずねたときに、「ふつうって誰?」と冷たく言い返され、言葉につまったことがある。

 まさしく本書は「ふつうって誰?」と読者の心の奥底をえぐってくれるはずだ。性別には、生物学のオスとメスの類別だけでは計り知れない“心の性”があるのだ。

『ふつうって誰?』。多様な性を容認すれば、再確認できることがある。

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