「政界」 2001 5.1 掲載
永田町発 【若手議員が語る】
政策の先送り体質が
自民党の支持を失わせている

 

自民党から国民が離れていく理由 

 −自民党は、国民から支持されなくなってきていると思います。その理由として、派閥の利害だけで国政が運営されていること。それに、年功序列が確立されてなかなか若い世代の声が反映されていない点が挙げられます。このような現状を打破するためには何が必要でしょうか。

馳 小選挙区制度の下、未だに中選挙区の流れに基づく派閥政治が行なわれていることです。たとえば、比例区の候補者選定でも業界団体の代表を優先的に出馬させる方式をとっています。国政選挙の面倒を派閥が全面的にみるなど、特定の人物しか政治に参加できない状況を続けていることが支持離れを加速させていると思います。

 −そうですね。二大政党制を目指して、小選挙区制を導入したにもかかわらず、未だに旧体制の状態が続いていますからね。

馳 自民党ばかりでなく、他の政党でも同じことがいえます。政党の離合集散ばかりやっていて、全くまとまりがない。そのために野党には政策を処理する能力が欠けています。

 −自民党を、抜本的に改革しなければいけないと思っていますよね。

馳 もちろんです。政策の先送り体質をやめることが第一にやらなければならないことです。

 −大多数の国民はこのまま安心して暮らしていけるのか、老後は保証されているのかなど、未来に向けての不安がかなりある。その不安が政治への不信につながっていると思います。

馳 たとえば、基礎年金の財源をどうするのかという議論がありました。
 しかし、私も含めて若手議員の間からは、税金から財源を捻出すればいいと主張しましたが、党内では相手にされませんでした。それに有事法制も先送りになりました。何も決まらず先送りという状況が今の自民党の姿です。先送り政治をなくすことが、自民党の信頼回復と国民の政治不信がなくなることだと思います。

 −なるほど。自民党は重要な政策をなかなか決定しない政党ですからね。

馳 国政選挙を戦ってみると、有権者が、いろんな改革を先送りしていることに不満を募らせていることが肌身でわかります。そして、将来の老後の不安があるから消費にも影響しているのではないでしょうか。派閥論理の政治ではなく個々の政策について青写真を国民に提示していかなければ、国民から信頼は得られない。

 −公共事業についても抜本的な改革が必要ですね。

馳 「小さな政府」がいいというのは、国民の間でもわかってきていることです。公共事業も下から上がってくるのをバラ撒くのではなくて、削減しながら、必要な公共事業とそうでない公共事業を区別しながら予算を組まなくてはならない。

 −タレ流しの公共事業では、景気の刺激にはならないわけですからね。

馳 今、地方議会では、大手ゼネコンに受注させないようにしているところも出てきた。地方から公共事業の在り方を変えていっているわけです。地元の企業にとって競争が激しくなると思いますが、チャンスが与えられることはいいことだと思います。

 

地元・金沢で若者と熱く語り合う

 −馳さんは地元の金沢市で『ほろ酔いトークバトル』と称して、語り合う会を開催していますね。若い人が参加していると聞きますが、何か得るものはありますか。

馳 ほとんど20代の若者ばかり参加してもらっています。地元の金沢ばかりでなく、東京など遠方からの参加者も多いのです。
 この前の会で出た話は、無利子国債を発行し、買った人にはその分相続税を相殺すれば一石二鳥だとか、課税最低限を引き下げていいのではないかなどの提案がありました。

 −若い人は政治について無関心を装っているようだが、こうしたらいいという政策的な部分で関心があるのですね。

馳 それに教育問題でも小学校や中学校を少人数学級にして学区制度を廃止すべきという意見もありました。さらには、道徳教育を日教組にやらせてみては、といった驚くようなアイデアが飛び出しました

 −地元の雇用についても、何か提案はありましたか。

馳 地元の公共事業を地元ではない企業が受注して、地元の企業には仕事が回ってこなかったり、仕事がきても大手の企業にピンハネされている。
 この現状をなくして、地元の工事は地元の企業が行なってチャンスを与える。そうすれば地元の雇用も潤うのではないかといった意見がありましたね。

 −地元の企業が地元の仕事をするという意味で、PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)を活用しなければならない。

馳 地元の企業も地元のために貢献する能力は十分にあります。そのためにもPFIを積極的に取り入れるべきだと考えています。それに、今の補助金・交付税を一括にして、(基準は国会が考えて)使うときには都道府県や市町村がアイデアを出していけばいいのではないでしょうか。

 −その会合では、地域活性化のために何が必要なのかを常に考えているのですね。

馳 ええ、ほろ酔いトークバトルの議論の中心は、大抵税金の話ですね。それだけ、払っている側は使われ方をよくみているんですよ。

 −しかし、若い人たちが馳さんの会に出席して、「自民党よ頑張れ」という声は聞きませんか。

馳 それはないね(笑)。

 

森総理の問題点

 −初めて選挙に出たのが、95年の参院選ですね。森喜朗首相の地元であり、森首相からの直接の出馬要請だったとお聞きしていますが、森首相とはどんなお方なのでしょうか。

馳 当時は自民党幹事長でしたけど、大変細やかな気配りの方でした。首相になっても気配りは変わりませんね。

 −周囲に気配りをし過ぎるからリーダーシップがないと思われるのでしょうか。

馳 そうですね。日本国の最高権力者というポジションにいるわけですから、ドッシリと構えていればいいのに、自ら根回しをやってしまうところが誤解を生んだりするのでしょう。

 −森政権は橋本派の全面的なバックアップがあって成り立っていた。青木幹雄参院幹事長や野中広務前幹事長らが両脇で支えていた。森派の中でプレーン的な人はいたのですか。

馳 福田康夫官房長官、安倍晋三、上野公成両官房副長官らのご苦労は大変なものだったと思います。しかし、中川秀直前官房長官が閣外に去ったのが政権にとって痛手だったと思います。

 −中川前官房長官は、森首相のすべてを知り尽くしていた人ですからね。

馳 中川前官房長官が側にいたから、森首相も政権を担当する意欲を持たれたのではないでしょうか。

 −森首相の専門分野といえば何でしょうか。

馳 もちろん教育が専門でしょう。教育基本法の改正はやりたかったでしょうね。

 −それは側で見ていてよくわかりましたか。

馳 はい。しかし、志半ばで・・・。残念ですね。私も高校の教員をやっていましたから、教育問題は専門ですが、教育論は誰にでもできることなのです。しかし、それを法律にして予算を付けるには大変なエネルギーが必要となるのです。
 森首相は代議士に初当選してから、海部俊樹元首相や西岡武夫元文相とともに教育問題に取り組んできた中心人物でしたから、教育基本法の改正だけはやりたかったでしょう。

 −森首相は政策は持っていたけど、リーダーシップの欠如が大きな問題だったのではないですか。

馳 森首相は党務が長かったために裏方の仕事ばかりでした。やはり、蔵相(現・財務相)と外相をやっていれば変わった局面になっていたと思います。幹事長や政調会長として財政と外交に携わっていたといえばその通りですが、調整役ですから。それに総裁選を経験していなかったのがよくなかった点ですね。

 −自分で政権の座を勝ち取っていれば思う存分にリーダーシップを発揮できた?

馳 そうです。自らの力で勝ち取っていれば人事や政策で指導力は発揮できた。しかし、小渕恵三前首相が病に倒れられて緊急避難として政権に就いた。小渕政権の政策と人事も引き継ぐという形を取らざるを得なかった。

 −馳さんとして、残念なことでしたね。

馳 緊急避難としても、総裁選はやっておくべきだった

 

馳流の教育改革

 −最近の国会を見ていると野党で、1年生議員が代表質問に登壇したりしています。彼らが永田町的な言葉を用いないで、普通の言葉を使って質問をしているのを聞くと国会も変わりつつあるのかな、と思うのですがその点いかがですか。

馳 確かに本会議の代表質問で民主党の1年生代議士が出てきて質問していましたけど、私からみると、あまりにも幼稚すぎたかなと思いました。ただ、予算委員会では一問一答方式ですから、財政、税制、社会保障について話すのはいいのではないでしょうか。テレビも中継していますからね

 −財政、税制は専用用語が多いですから、わかりやすく語る、話をするという意味では、予算委員会の方が適していると思います。

馳 責任ある言葉で、わかりやすく政策や政治を語るのは政治家の義務なのですから。

 −宮澤喜一財務相の最近の発言で、「日本の経済も破綻に近いですから」と言っていました。あまりにも無責任すぎる発言です。

馳 財政の責任者が、他人事のような発言をしてはいけない。日本の構造は官僚が政治家に選択肢を与えて、政治家が判断して政策を決定していくのが本筋なのです。だから、国会の在り方も見直していかなくてはならないと思いますね。

 −今のままでは官僚主導の政策遂行になってしまう。

馳 議員立法を増やしていく必要があると思います。私が初めて議員立法を提出したのは、国会法の改正です。官僚機構も一本化していないから政策によっては省庁間で対立が発生することになる。もっと政治家が決断できるシステムを構築しなければなりません。それに国会議員の仕事として、新しいビジネスチャンスを作るために政策誘導をすることも必要です。

 −専門的に司法制度改革にも取り組んでいますね。

馳 司法制度改革は、日本の経済構造改革をバックアップするために必要なことです。たとえばロースクールを卒業した8割の方は、司法試験に合格するようになり、司法に携わる検事や裁判官になる人を増やしていく効果があるのです。

 −日本も米国と同様に訴訟の国になる可能性があるわけですからね。

馳 ビジネス特許や知的財産、バイオなどの新しい技術を日本の財産として、グローバルスタンダードにしていく過程で、インターネット上での訴訟が増えてくるはずです。そのような事項に対処できる環境づくりをしなくてはならない。

 −最近は「環境仕事人」として活躍されていますが、ズバリ馳浩の専門といえばといえば教育ですが、今の教育に何が必要だと思います。

馳 子供たちの熱い情熱を聴きだす人と聴く環境が必要ではないでしょうか。また、教科書を的確にわかりやすく伝えるテクニックを教員は身につけなければならない。つまり、知識の伝達は文化の伝達なのです。
 次に人間性を豊かにするためには、子供の個性を引き出す必要がある。

 −そうなると少人数学級も必要ですね。

馳 そうです。40人よりは20人の方ができる限りひとりひとり対話教育ができる。それに教育の現場を閉鎖的にしてはいけない。

 −教育とは知識と人間性を豊かにすることですからね。

馳 私は今年4回、「総合的な学習」の授業で小学校6年生に教えに行きました。そこで教えることは、夢を語る、将来の職業について語る、地域の環境問題について語る、そして国会議員の仕事について語る。この4項目を教えました。

 −どうでしたか。

馳 国会議員の仕事について子供たちは興味があるようで、多くの質問がでました。また、自分たちが住んでいる地域環境についても積極的な意見が出ましたよ。

 −教員も一度、社会人として世の中に出て、いろんな体験をする必要がありますね。

馳 子供たちはいろんなことに興味があるのです。そのためには人生経験が豊富な人が教壇に立つことも必要です。一番の教材は、人間です。

 −どうもありがとうございました。


馳浩 in Mediaメニューへ戻る



メールをどうぞ


ホームページへ