馳浩の快刀乱筆

 被害者に配慮を欠く

 バスジャックとテレビ映像 

平成12年5月7日富山新聞掲載


 

 バスジャック事件には驚くやら、腹が立つやら、呆れるやら、なさけないやら、いろんな感情がごちゃまぜになった。そんな複雑な気持ちの中、どうしても言いたいことが2つある。マスコミに対してだ。

 まず、人質が取られて、その家族がワラにもすがる思いでテレビ映像をくいいるように見つめているにもかかわらず、NHK以外の民放は、夕方7時から一斉に自社の番組を流し始めた。な、何なんだこれは!と思った。人命がかかっているにもかかわらず、バラエティ番組を流していいのか。安っぽいタレントがろくな芸もないにもかかわらず、品のない笑いをふりまくような、軽くてうすっぺらな番組を流していていいのか。おそらくスポンサーや、民放としての経営上の問題が絡んでくるのだろうが、こんな一大事の時に、責任あるテレビ各局が一斉にバスジャックを横においてあんな番組を流し始めるなんて、どうかしているとしか思えない・・・。

 2つ目は、マスコミの過剰報道だ。バスに報道陣が近づきすぎ。犯人が尋常ではない精神状態の時に、あんなにカメラの放列で取り囲んでは異常さをあおるようなもの。そして事件が解決した後のワイドショーの報道姿勢はあまりにもモラルを逸している。

 犯人にずっと刃物を突き付けられていた小1の女の子の学校に出かけて教室内を映したり、女の子の実家の映像を流したり、近所の人にカメラを向けたり、まるで悲劇のヒロインを作り上げようとするかのような演出や、司会者のお涙ちょうだいの感想や、リポーターたちの傍若無人なインタビューは、見ていてあまりにも不快な気分にさせられた。

 どうして被害者のプライバシーや、人権にもひっかかるような私的なことまで当人の了解もなしに報道しようとするのだろうか? そんなにスクープ映像が欲しいのか?

 そんな映像を手を叩いて喜ぶ国民ばかりだとプロデューサーは思っているのか?

 

マスコミは 権威気取りで 胸を張り
 

エッセイスト・小矢部市出身

 
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