馳浩の快刀乱筆

 柔道の「道」を探求せよ

 引退なんておこがましい 

平成12年4月30日富山新聞掲載


 

 柔道の古賀稔彦選手が4月25日、熊本市内のホテルで正式に引退を表明した。

 スポーツ選手にあるまじき態度表明であり、おこがましい! と私は言いたい。

 そもそもスポーツに引退などあるのか? ましてや柔道は、日本の「国技」と言ってもよく、「道」という概念がつきまとう。競技性ばかりを追求してはいない。柔道の稽古を通じて、人生を生きる道を探求するという役割があるということを、古賀選手やマスコミ諸氏は忘れているのではないだろうか。

 スポーツとは人生を通じて楽しむことのできる娯楽であり、日本においては身体文化の一つでもあり、競技性などはそのほんの一部でしかないのである。平成の三四郎とまで言われる古賀選手ならば、私が指摘するまでもなく、柔道とのかかわりが人生の大部分を占めているということを否定できないはず。

 だからこそ、古賀選手ほ引退表明の記者会見などしてはならないのである。

 柔道を愛しているのならば、これからもあらゆる形でかかわっていけるのではないか?

 審判として、試合をさばくこともあるだろう。役員として、側面から柔道の強化普及を支えることもできるだろう。監督やコーチとして後進を指導、育成したり、世界のトップレベルの選手を輩出していくこともできるだろう。あるいは、日々の稽古にいそしんで、自らの健康を維持したり、精神力の向上に資することもあろう。また、高齢者限定の大会や、マスターズの大会に出場することもあろう。さらに、観客席から声援を送ることもあろう。

 これらのいずれもが、柔道とのかかわりであり、スポーツを愛する人間の示すべき態度である。ましてや、世界選手権やオリンピックの金メダリストが示すべき「格闘技者」としてのあるべき姿だ。一線の競技会からは、静かにフェードアウトしていけばよいだけなのだ。金メダルだけが人生ではない「道」を探求する姿勢を示すことが大切だ。古賀よ、引退なんかじゃないぞ!

 

この道を ただひたすらに 歩くのみ
 

エッセイスト・小矢部市出身

 
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