馳浩の快刀乱筆

 歴史・文化の見直しを

 大河ドラマがやってくる 

平成12年4月23日富山新聞掲載


 

 突然の朗報が入ってきた。NHKの大河ドラマに『利家とまつ』が決まったのである。利家とは、言わずと知れた前田利家公であり、まつとは、利家の妻である。石川県はもう何年も前から、大河ドラマの誘致に向けて運動をしてきた。県議会では誘致の決議までしているのである。

 しかし、前田利家公の生きた戦国時代は、織田信長や豊臣秀吉さらには徳川家康等と重なり、利家を主人公とした大河ドラマの制作は難しいと言われ続けてきた。事実、最近は利家ではなく、三代目の前田利常公で誘致しようと運動を転換していたくらいだ。

 そこに、まつ夫人の内助の功が働いた。まつ夫人をモデルにしたNHKのドラマが好視聴率だったことも手伝って、一気にまつ夫人が主役の座に着いた。まつ夫人と言えば、秀吉の正妻・ねねとも尾張時代から親しく、また関ヶ原の合戦では、前田家存続のために江戸に人質にとられた身である。四百年後の今日、石川県は再び、まつ夫人に助けられた思いである。

 それほど、石川県の観光は冷え込んでいる。NHKの大河ドラマがもたらす経済効果の大きさは、過去の事実が証明している。これを契機に、石川県のみならず北陸全体にもたらす経済効果に期待したい。と同時に、温故知新ではないが、ここに住む我々もまた、歴史・文化の見直しを図っていくチャンスである。言葉を換えれば、北陸という地域のアイデンティティの見直し作業をしなければならない。

 自分は一体どこで生まれ、どういう歴史・文化の中で自己を形成してきたのか、そして何を後世に伝えていくべきか、何を発展させていくべきか、これが問われているのである。この見直しを通じて、我々は全国に、いや世界に、北陸の文化を発信していかなければならない。この目に見えない『内なる作業』がなければ、大河ドラマ効果も一時のバブルに終わる。まつ夫人の内助の功もこれでは浮かばれない。

 

春をまつ 大河に託す 温故知新
 

エッセイスト・小矢部市出身

 
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