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馳浩の快刀乱筆
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1999年の世相を反映した流行語大賞の表彰式が12月1日、東京都内で行われた。大賞には、プッシュホンをもじった、誰にでも気さくに電話をかけることで知られる小渕恵三首相の「ブッチホン」と、プロ野球西武ライオンズ松坂大輔投手の「リベンジ」と、巨人の上原浩治投手の「雑草魂」の三語が選ばれた。流行語は時代を映す鏡。そう考えると今年のキーワードは『汗のにおい』と言えそうだ。
まず、小渕首相。国会議員であろうとタレントであろうと市井の一市民であろうと、心に思いついた人に手あたりしだいに電話をかけまくった。それも秘書官を間におかずに自分自身で。なんという腰の軽さ。でも、かけられた側に立ってみれば、こんな感激はない。だって、やせても枯れても総理大臣。いきなり電話口で「オブチです。」なんて言われて驚かないはずがない。そして、ファンにならないはずがない。さすが敵を作らない小渕流人心掌握術。根回し上手を永田町では「汗を流す」という。
松坂投手と上原投手は共にセパを代表するゴールデンルーキー。しかし新人のひ弱さはみじんも感じさせない。もちろんそれは成績に実証されているのだが、むしろ有言実行のたくましさに大衆は酔ったのだ。
松坂投手は、試合で打ち込まれて負けると必ず「リベンジ」と自分に言い聞かせるようにマスコミに発言。そしてその通りに実行。そこにはリベンジ=仕返し、復讐(ふくしゅう)というドロドロした感情はなく、スポーツの世界特有の勝負哲学を感じさせる。
上原投手は巨人=エリート集団という固定観念をくつがえす粘り強さとけんきょさを「雑草魂」という一言に集約させた。清原選手などベテランがだらしなかっただけに、巨人ファンに勇気を与えた。流した汗はうそをつかない、というあたりまえの姿。額に汗をして働く人々にも希望を与えた。
まさしく、時代のキーワードは『汗』。
エッセイスト・小矢部市出身
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