馳浩の快刀乱筆

 アイラブミーな女の子 

 解散劇に見る高等戦略 

平成11年10月10日富山新聞掲載


 

 超人気アイドルグループ「SPEED」が来年3月に解散することを10月5日発表。

 私は彼女たちの所属事務所の戦略に感心した。

 平成8年に「BODY&SOUL」でデビュー。最生少の島袋寛子ちゃんはまだ12歳だった。いたいけな少女が無垢(むく)な笑顔で歌い(叫び?)踊る(はねる?)姿に世紀末ニッポンを象徴するマスコミもあった。けれど見た目や大人の見くびりを超越した想橡以上に成熟した国世代の共感を呼び、彼女たちはブレイクした。売り上げにおいても人気においても10代前半の4人の女の子が業界の頂点を極め、社会的現象まで巻き起こしてしまった。

 ところが売れるスピードも速ければ、冷めるのも速い芸能界で、昨年来彼女たちはバラ売りされてきた。歌に、ドラマに、映画に、CMに。「個々の実力をつけるために」と言えば聞こえはいいが、どうしてもデビュー時の「SPEED」のイメージから成長しすぎて新鮮味の失せたグループをどう納まり良く解散させるか、の前段階としか映らなかった。そして、女性アイドルグループの項点を「モーニング娘。」に完全に明け渡したところで解散。商品価値を見込んでの解散に間違いないが、所属事務所はそれを「思春期の女の子の自立」というテーマで昇華させた。

 その戦略は高等だ。彼女たちと「アイラブミー」な青春をすごしてきたファンにも同時に自立を促すような展開だ。「夢を追い駆け」ているスター達も「友達が欲しい」「勉強したい」「自分を見つめ直したい」「将来を考えたい」と思っているという現実を同世代の女の子たちに突き付けたのである。

 彼女たちは総額700億円を売り上げ、個々の月収は4〜500万円だという。浮世離れした非日常的な世界に1番疑問を感じていたのも、おそらく彼女たちだろう。解散すれば否応なく等身大の自分自身と向き合い、またそこで葛藤(かっとう)もあるだろう。まだ人生の先は長い。激励の一句を。 

 

天高し そのスピードを ゆるめても
 

エッセイスト・小矢部市出身

 
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