馳浩の快刀乱筆

 都立城東高校の快挙 

 夢を取り戻せ 

平成11年8月1日富山新聞掲載


 

 私はもう38歳になった。長寿社会においてはまだ、かもしれないが。仕事に励み、女房や一人娘の姿を目にするたび、ひしひしと家庭人としての責任を感じている。

 そんな分別盛りの私にも夢を抱き、その実現のためにエネルギーを注いだ青春時代があった。オリンピック出場がその夢であり、その実現のためにありとあらゆる努力をし、汗を流した。しかし、時を経てその情熱を見失いつつある昨今である。それが日常というものであろう。夢ははかない。でも夢は夢。

 夏の高校野球選手権大会において、一つの夢を見させてもらった。東京大会予選を都立城東高校が勝ち抜き、代表権を得たことだ。

 生徒たちの優勝コメントに、私は胸が熱くなった。「都立だから優勝は無理だと思っていた。でも意地でも勝ちたかった」という短い言葉。「都立だから」と言うのは、私学に対する反抗の一言でもある。すいせん入学などで優秀な選手をスカウトし、金にあかせた施設で強化に専念できる私学の強豪校に対しての意地を感じた。選手一人一人のそうしたモチベーションの高さが、予選大会優勝に導いた原動力になったのではないだろうか。

 優勝した選手が誇らしげに地元江東区の母校に戻った時、商店街のあちこちから喜びにあふれた笑顔による祝福が見られた。

 まさしく、選手たちの夢と地元関係者の夢が現実のものとなった一瞬である。それをテレビ画面を通じて見ていた私も、なぜか一緒になって喜んでしまった。「夢を実現する」という心情を共有することかできた。久しく忘れていた感情が湧き上がってきた。と同時にまだまだ夢を追い求める気持ちを持ち続けなければならないのではないかと思い知らされた。

 私たちの日常生活には出来そうで出来ないこと、何とかして成しとげたいことが多々ある。小さな夢からでもいい。何かを追い求める気持ちを持ち続け、それを生きがいの一つとして行きたい。夢を呼び戻してくれた都立城東高校野球部ナインに感謝して一句捧げる。 

 

甲子園 追い求めてや 夢の中
 

エッセイスト・小矢部市出身

 
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