馳浩の快刀乱筆

 産まれたねトキの赤ちゃん 

 動物愛護の一里塚に 

平成11年5月23日富山新聞掲載


 

 トキのひな誕生

 新潟県・佐渡トキ保護センターで飼育されている中国産の雌のトキ「洋洋(ヤンヤン)」が先月産んだ卵が21日午後、ふ化した。

 20日夕方にピッピング(卵の中でヒナがさえずること)や、はし打ち(くちばしで殻をつつくこと)が観察され、人工ふ化による国内初のヒナの誕生が待たれていたのだ。

 テレビではセンターの所長や地元村長が記者会見までして大よろこび。

 愛らしい姿を見せたヒナが今後成長して行く様子にも、おそらく国民の関心の目は注がれることだろう。ワイドショーもかっこうのネタ。

 しかし。

 この快挙を喜んでばかりはいられないのが日本のペット事情。

 かわいい、かわいいと飼い始めた子猫や子犬が、飼い主の事情によってどれだけ捨てられているか皆さんご存知だろうか。

 そしてそんな捨てられたペットが保健所に引きとられて殺処分されたり実験動物として扱われている現実をご存知?

 飼い主の責任が問われるペットの問題と、日本を代表する特別天然記念物で絶滅の危機に直面しているトキを同列に扱うなって?

 いや、私はそうは思わない。

 人間が愛情をもって大切に取り扱うべき動物の代表として今回のトキのヒナのふ化の問題は認識されるべきだ。

 私たちは自分に都合の良い時だけ「動物って可愛いネいいこいいこしてあげようね」という手放しの愛をささげていないだろうか? 都合が悪くなった時、飼い主としての責任を簡単に放棄したりしていないだろうか。その軽率な行動によって「いのちの軽視」の風潮を助長していないだろうか?

 いのちある生き物にランク付けなどそもそもない。あるのは人間の都合だけ。それによって取り扱われる動物たちの悲しい末路があることを忘れてはならない。問題提起の一句を。

 

 

トキのヒナ 動物愛護の 一里塚
 

エッセイスト・小矢部市出身

 
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