馳浩の快刀乱筆

 悪役のヒーロー 

 千代大海に感じる魅力 

平成11年1月31日富山新聞掲載


 

 入門して6年目。初土俵から38場所目のスピード出世。昭和50年代生まれで最初の大関。そう、千代大海の輝かしきプロフィール。

 しかし彼は、二世力士や大学出身幕下付け出しのエリート力士とは一線を画す。その素顔の魅力とエピソードは待ち望んでいたヒーロー像を持つ。カリスマ性もある。何よりも悪役のにおいをプンプンまき散らしてくれるところに、大衆が支持する理由がある。

 幼いころに実父を亡くし、母親の手で育てられた。地元大分市の中学時代は柔道で全国3位、空手で九州3位。それよりも、ワルをしでかして警察のやっかいになること数知れず。家裁にも何度も行った。母親の懇願により16歳で九重部屋に入門。それもリーゼント頭にソリ込みまで入れて。典型的なツッパリヤンキーバリバリだ。

 ところが、生来の負けん気と根性と基礎体力が九重親方の指導で開花したのである。

 私は、親から人気や素質を受け継いだ二世力士には、魅力を感じない。ハングリー精神を見つけられないし、自分を投影できない。大学出身力士のように出来あがっているのもつまらない。強くなるまで応援し続けようという気が湧かない。

 そこで、千代大海の時代である。華美装飾は受けつけない。素(す)の人間味、汗くささが彼にはある。相撲のセオリーをなぎ倒すような迫力がある。若乃花は確かにうまくて切れ味鋭い横綱。けれども千代大海の前に出る圧力と強引に横からなぐりつけるようなすくい投げにひとたまりもなかった。有無を言わせぬ力強さは、師匠である元横綱千代の富士の再来をさえ思わせる。あの生意気そうな目つきもいい。

 貴乃花、曙、若乃花と若年寄りのような生気のない横綱がチンタラしている土俵上。ここは千代大海の「悪役パワー」で圧倒してほしい。時代は作られたヒーローよりも、本音と自力で勝負する、カッコ悪いけど野武士のようなリーダーを求めている。来場所が楽しみ。では一句。

 

 

土俵上 暴れまくって 梅が咲き
 

エッセイスト・小矢部市出身

 

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