馳浩の快刀乱筆

 伝言ダイヤルの落とし穴

 潜む「危険」自覚すべき 

平成11年1月10日富山新聞掲載


 

 またまたイヤな事件だった。伝言ダイヤルを利用した昏睡(こんすい)強盗事件の容疑者が逮捕されたことによって、ひとまずホッとしたが、よく考えると世相を反映した事件の内容に、イヤーな気分にさせられる。

 キーワードは、伝言ダイヤル、携帯電話、薬物、そして金目当て。

 伝言ダイヤルの利用はずいぶん一般に浸透しているようだ。自分専用のIDとパスワードを持つことによって、誰にも知られずに複数の異性と連絡を取り合うことができる遊びだ。伝言ダイヤルの経営者は「出会いや交流の場を提供しているだけで、何も悪いことはしていない」と主張すれば、責任はない。利用者側がケータイやPHSを使って連絡をとりあい、その結果、何がどうなろうとそれは個人の自由の範囲ということ。これは「匿名の犯罪」が成立する温床となりやすい。犯罪の潜行化だ。

 だいたい、男女の出会いやつきあいにセオリーがないとは言え、氏素性、どんな姿形をしているかも全くわからないヒトといきなり電話で連絡しあって何が楽しいのだうか。そういう出会いには、相手の反応を直接確かめる恋のプロセスや、目を見て心を通じあうあたたか味とか、思いやりの態度の発揮とか、人間味のかけらも感じられない。

 いくらお手軽に異性と出会えるからと言ったって、いくら男女関係は個人の勝手でしょうと言ったって、この手の事件に発展する可能性は限りなく大きいというとを、自覚すべきである。プライバシーが絡み警察の取り締まりも入りづらいだけに、今後とも情報機器を悪用した犯罪は増加するだう。いつも犯罪の被害者となるのは年少者や高齢者などの社会的弱者ばかり。

 人の弱みを逆手にとっておとし入れようとする悪人は、世の中のどこかに必ずいる。そう考えなければ生きていけないなんて悲し過ぎて、人を信用することもできなくなる。

 こんな無責任、拝金主義犯罪が拡大しないことを願って、一句。

 

 

うそをつく 携帯電話の 向こう側
 

エッセイスト・小矢部市出身

 

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