馳浩の快刀乱筆

 ホラーと喜劇じゃ泣けぬ 

 タイタニック論争 

平成10年12月20日富山新聞掲載


 

 タイタニツク、おもしろいのか?

 あまりにもマスコミが騒ぐので、私もレンタル開始早々にビデオを借りて来て女房と二人でチェックした。女房は映画評論にはウルサイので、粗(あら)さがしに近い雰囲気で鑑賞

 ディカプリオは、悲恋の主人公としてはさわやかで明朗すぎると思う。

 身分違いの恋愛を、閉ざされた豪華客船という空間の中で展開するのであるから、もっと素朴で陰を感じさせる演出であってもよいのでは?

 そのディカプリオの相手、ケイトは政略結婚の被害者。婚約者の鼻持ちならない態度など、ステレオタイプの人物描写にはがっかりした。

 CGを駆使した現代的な映像である。『あぁ、よく撮れてているなぁ』との感想は万人が持つだろう。しかし、映像の美しさと人物設定の陳腐さのギャップは、ストーリー展開にのめり込めない原因でもある。

 また、映像のリアルさも程度問題。史実に忠実に描き出したいとの製作者の意図は、その労苦に敬意を表する。しかし私は一観客として言いたい。映画に求めるのは『事実』の克明さよりも『真実』の心理描写だ。

 いよいよ船体が沈む、という時の乗船客が甲板に叩(たた)きつけられる様や、海中に呑(の)み込まれる様子はホラーに近い。逆に、ディカプリオとケイトの恋人同士だけ船尾のマストにつかまって助かるという設定は喜劇に近い。

 泣ける、泣けると友人に言われて期待していたのに。悲恋なら悲恋だけに焦点をあててくれれば、そして配役に工夫してもらえれば十分泣かせてもらえただろうに、と思った。

 そんな感想を友人に言うと、『映画館で観(み)ないからよ。だいたいタイタニックは理屈を並べて品評するような映画じゃないの。大画面の迫力の中で悲恋に泣くことに意味があるのよ。だいたい夫婦で文句並べ立ててるなんて、夫婦の愛が足りないんじゃない!』だって。

 ではタイタニックに一句。

 

 

駆け落ちも 豪華客船も 海の底
 

エッセイスト・小矢部市出身

 

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