馳浩の快刀乱筆

 混迷の時代映す流行語 

 だっちゅーの?

平成10年12月06日富山新聞掲載


 

 世相を斬るには、その時代を的確に一語で表現する『流行語』を分析してみるに限る。

 1998年はどんな1年であったか?

 発表された流行語大賞から振り返ってみよう。

 『ハマの大魔神』

 38年ぶりに日本一の栄冠に輝いたプロ野球横浜ベイスターズの守護神、佐々木主浩投手のニックネームだ。

 この人が試合終盤に出てくると、もう安心。セーブポイントの日本新記録を打ち立てるほどの大活躍で優勝に貢献した。苦しい時の神だのみならぬ、大魔神だのみ。他の選手や監督、ファンのみならず、プロ野球のワクを越えて国民的安心感や信頼感を与えた。

 こんなに頼りになる人がいたならば、との思いを国民に持たせた。それだけ世の中が混迷を極めたことの裏返しが佐々木投手の人気の秘密だろう。政界、官界、経済界。はては家庭内にまで、絶対的な大黒柱が存在しない時代には、まさしくヒーローである。

 『凡人、軍人、変人』

 悲しいかな自民党総裁選候補者に対する党内外の声を代弁したのが田中真紀子代議士。人の和を大切にする小渕恵三、国家論を大上段に振りかざす梶山静六、てこでも自説「郵政三事業民営化論」を曲げない小泉純一郎の3氏に対して言い得て妙。このニックネームの命名の裏には、「そんな人材しかおらんのか」とのヒステリックな国民の声が潜んでいる。

 しかし人気の一番なかった小渕さんがどうして総裁→首相になれたのかの分析は、いまだ誰も成し得ていない。ここに日本的村体質があるのに。小渕人脈は深い。

 そして『だっちゅーの!』

 アイドルタレント、パイレーツの決め言葉。

 経済の先行き不透明、日本民族の軸も不確定、政権不安定、凶悪犯罪増加の社会事情。

 せめて国民は、断定的なもの言いを持っているということか。しかし、「だ」と強く断定した後に、「ちゅーの」と茶化しているところに、日本人のあいまい、テレ隠し体質が見える。

 では一句。

 

来年は 景気回復 だっちゅーの!

 

エッセイスト・小矢部市出身

 
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