馳浩の快刀乱筆
選手の尊厳踏みにじる
異種格闘技戦の無意味

平成10年10月18日富山新聞掲載


 誰が一番強いのか?

 プロレスファンが三人寄ると必ずこんな会話が始まる。力道山、ジャイアント馬場、アントニオ猪木、長州力などなど、時空を超えてお気に入りのレスラーを対戦させ、仮想現実にひたるのがプロレスファンの真骨頂。

 プロレスラー最強論を唱え、モハメド・アリ(ボクシング)やウィリアム・ルスカ(柔道)、ウィリー・ウィリアムス(極真空手)など各種格闘技の王者と闘って異種格闘技戦を興行してきたのがアントニオ猪木。彼の戦略・ロマンはプロレスファンに多くの夢と幻想を与え続けている。ところがプロレス最強論の幻想を崩壊させ、ファンに現実を見せつける試合が10月11日、東京ドームで行われた。

 自称400戦無敗。ブラジル柔術の王者ヒクソン・グレイシー対自称プロレス最強論者高田延彦。結果は昨年に続いてプロレスファンの夢のとりで、高田選手が腕ひしぎ逆十字固めで敗れた。二連敗。

 この試合、あるいは異種格闘技戦をどう評価すべきか、評論家やファンの声は迷走。現役プロレスラーであり、ロス五輪レスリング日本代表選手の私が持論をぶつけてみたい。

 誰が強いかどうかというのは全(すべ)てルールによって左右される。(ケンカなら別)

 ボクシング、柔道、空手、レスリング、柔術と、違うルールの王者が無理にルールを急ごしらえに折半して闘ったところで無意味。

 だからアントニオ猪木の異種格闘技戦には夢もロマンもあったけど、強さの基準がなかった。今回のヒクソン対高田も、お互いに取り決めたルールの中で闘い、昨年今年とヒクソンが二連勝しただけ。ブラジル柔術対プロレスの闘いではなく、あくまで個人の闘いなのだ。

 プロレスファンの誤解を助長しているマスコミやプロレス関係者は猛省すべきだ。神聖な各種格闘技を同じ土俵に乗せて論じ、いたずらに選手の尊厳を踏みにじるべきではない。闘いの敵は選手の心の内にのみあるのだから。選手に一句ささげる。

 

プライドを 天高く問え プロレスラー
 

               エッセイスト・小矢部市出身

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