馳浩の快刀乱筆
働く女性の増加策を

公的年金 大丈夫?

平成10年10月11日富山新聞掲載


 議員会館の私の執務室から、日の丸の旗と韓国の国旗が並んで秋の風にゆられているのが見える。椅子(いす)の背もたれにからだをあずけ、目を閉じて昨日の金大中大統領の国会演説の場面を思い起こしてみる。かすかな興奮がよみがえると共に、さて私は日本人として何をすれば良いのだろうかと考える。両国間の過去の歴史事実を確認すること、隣国としての未来志向のパートナーシップを行動として示していくこととは、戦後世代の私たちには避けては通れない関門だろう。胸がふくらむ。

 金大中大統領は少し足を引きずりながらも小幅に一歩一歩、確実に踏みしめながら参議院本会議場内に入場。用意された原稿を右手に持ち、左、中央、右の順序で頭を小さく下げ、一息吐いてから演説を始めた。

 「・・・・私は、私の生命と安全を守って下さるため、長い期間に亘(わた)って努力を惜しまれなかった日本国民と言論、そして日本政府のご恩を、決して忘れることができません・・・・日本の国民の皆様、本当にありがとうございます」

 念頭に25年前の東京拉致(らち)事件と、1980年の死刑宣告を乗り越えて民主化闘争を繰り広げ、大統領となった道のりかがあったことは言うまでもないだろう。私は歴史に残るであろう演説の、その場にいられることに感謝しながら聞き入っていた。

 日本と韓国の間の、未来志向のパートナーシップとは何だろうか。この機会にその方法を模索し行動に移すことが、両国民に与えられた宿題ではなかろうか。私たちは歩き続けなければならない。

 演説を終えた大統領は、退場の際、一瞬立ち止まった。議場内を振り返り、はじめて笑顔になり、顔見知りの日本側の議員を見つけて小さく右手を挙げ、横に振った。

 何もかもゆったりと、控え目な大統領の仕種(しぐさ)に議場内の拍手は鳴り止まなかった。

 そんな光景を思い起こしながら目を開けると、窓の外の両国旗はやはり風に絡み合っている。日韓の今後を占い、一句。

 

喜怒哀楽 分かちあうかと 秋の風

 

               エッセイスト・小矢部市出身

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