馳浩の快刀乱筆
あるがままを受け入れよ
TOSHIの悩み

平成10年9月20日富山新聞掲載


 朝のワイドショーを見ていると「MASAYA」が出演していた。元X−JAPANのボーカリストのTOSHIが心酔している人物として話題のヒト。私が彼の話を聞いていて、どうもフに落ちないことがある。並み居る芸能記者やワイドショーのコメンテーター達の突っ込みが甘いので指摘しておきたい。

 「人間は宇宙の子です。地位や名誉やカネは通用しない。自然体で生きて行けばよいのです。とにかく我を捨てることです」

 この発言には2つのまやかしがある。

 1つには、それならあなたこそカネを捨てろ、と言いたい。宇宙の子として人間が皆、平等であると言うならば、あなたの財産全(すべ)てを捨てて、家族も人間関係も断ち切った生活をしたらどうかということ。会社もホテルも自分が持っているモノを捨ててみるべきだ。

 2つめには、「我を捨てる」という考え方を主張することこそ、「我を張っている」ことだと気がつかないのだろうか、ということ。

 彼の行っているセミナーには三段階ある。初級では「自分を見る」と称して既存の価値観を崩壊させ、中級では「癒(いや)しの体験」と称して自分に都合のよい考え方を教え込み、上級の「実践」を通して「新人格の定着」を図るのだという。これでは全くのMASAYAの我を押しつけているだけのセミナーではないだろうか。TOSHIの心の悩みは兄弟の確執から始まっているという。いわばトラウマだ。その悩みにつけ込んでTOSHIの心の拠(よ)り所となっている。ならば相談役に徹すれば良いだけのこと。

 MASAYAはしきりに「TOSHI本人の自由でやっていること」と強弁した。本人の意志で活動しているように志向けることで自分は責任逃れをしている。

 私が言いたいのは、過去や現実の自分を否定することによって心の解放が得られるというような考えは、一時の逃げにすぎないということ。そんなのは自由ではない。TOSHIに一句ささげる。

 

あるがまま 受け入れてこそ 自然体            

エッセイスト・小矢部市出身

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