馳浩の快刀乱筆

後味悪いだけの
花発言
兄弟ゲンカの行方
平成10年9月13日富山新聞掲載


「もう若乃花と話すことはありません」

 9月1日付の一部スポーツ紙に掲載されたインタビューの見出し。発言者は弟、貴乃花。

 ただの兄弟ゲンカではないようだ。

 「若乃花は体の基盤がなっていない」「若乃花の相撲には、基本がない。基本をしっかりやらない若乃花がどうやって横綱の地位を守れるのか、不思議です」

 どうみてもこの発言は不自然だ。

 同じ二子山部屋に所属し、ましてや実の兄弟なのだから、稽古(けいこ)場で叩(たた)きのめすまで強さを見せつけて若乃花の奮起をうながせば良いだけのこと。言いたいことがあれば、チャンコ鍋(なべ)を囲みながら意見交換すれば良いではないか。それでも言い辛いことがあるならば二子山親方に間に入ってもらえば良いだろう。

 そんな努力をした形跡もない今回のいきなりの訣別(けつべつ)宣言に、どんな意味があるのか。

 マスコミ報道にあるように、若貴の体を診てきた整体師の影響があるとすれば、悲しい。

 大横綱となる人材である貴乃花は、一体いつから自らの言動を他人に左右される主体性のない人間になってしまったのか。勝負と伝統の美学こそが相撲の魅力。稽古場での汗こそ至上の宝。言辞をもてあそんで他者の足を引っ張り、自らの立場を優位に立たせようとする駆け引きなんて、三流政治家の仕事。国技の代表者がすべきふるまいではない。

 今回の貴乃花の発言が軽挙妄動なのか、それとも一貫した相撲道に対する思い入れの故に勇み足をしたのか。いずれにせよ、マスコミ雀(すずめ)を喜ばせ、ネタを提供しただけの後味の悪さが残っている。横綱としての地位に、26歳の若者の未熟さが同居したかのような貴乃花の危うさに、気がついていないのは本人だけなのだろうか。

 さて、弟に酷評された若乃花。心中おだやかではなかろうが、兄としてのプライドで沈黙の様子。願わくば次の本場所の優勝決定戦で対決し、実力で貴乃花のへらず口をこらしめてもらいたい。若乃花の心中を代弁して一句。

 

へらず口 秋のせいかと 綱をしめ   

エッセイスト・小矢部市出身

INDEX