馳浩の快刀乱筆
達成後のコメントは
マグワイアの快進撃

平成10年9月6日富山新聞掲載


 米大リーグの年間本塁打記録が塗りかえられる。この原稿を書いている時点ではマグワイアが59号を放っている。残り試合数と、マグワイアのハイペースを考えれば、間違いなく数日中に偉業は達成されるだろう。

 この快挙を目前にして特筆されるのは、マスコミや世間のプレッシャーをものともしないマグワイアの精神力の強さである。たとえば日本が誇るホームランアーティスト、巨人軍の松井秀喜選手を引き合いに出してみよう。日本人にしては年齢に似合わぬ大人びたムードを持つ彼にしても今シーズン開幕当初は「4番打者」というプレッシャーにいとも簡単に打ち負かされてしまった。記者会見でのコメントにしても波がある。下ネタを連発するおちゃめな一面があるかと思えば、体調が良くない時は沈んだコメント。心の拠り所が一体どこにあるのかと疑わざるを得ないほど、まだまだ彼には人生の哲学がうかがい知れない。

 それに比べて、というとマグワイアに失礼かもしれないが、神がかったオーラを彼のコメントに見ることができる。聞いている人をとりこにさせる。年間最多本塁打にあと2に迫った際には「何かが起こるときは何かの理由がある。毎日が神がかっている」「体調?すごくいい。悪かったらどうするんだい?」とまるで予言者。アスリートの条件は、特別な成績を残すことはもちろん、子供を始めとする社会全体に与える教育、哲学的影響力なくしては語れないということを実感させてくれる。

私の楽しみは、新記録達成直後の彼のコメント。いつものように淡々と神のことばを発するのだろうか。それとも歴史の語り部として名言を残すのだろうか。いずれにしても、マグワイアの名前は、ホームランということばと同義語として世界中を駆けめぐることだろう。マグワイア・ホームラン。このひびきに酔いしびれる私たちファンは、彼に感謝しなければならない。伝説を体感させてもらえるのだから、期待をこめて一句捧げる。

名月を打つ マグワイア ホームラン

                       

エッセイスト・小矢部市出身

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