馳浩の快刀乱筆
世の中を生き抜く人生訓
不易流行

平成10年8月30日富山新聞掲載


 歌手・山下達郎さんが数年ぶりにアルバムを発表した。発売日は8月26日。私の女房(高見恭子)がパーソナリティを務めるラジオ番組に、宣伝のためにゲスト出演した。その中で興味深いエピソードを話していたので紹介しておきたい。

 山下さんは、自分が世の中からナツメロ歌手としてレッテルを張られているのではないかと時々錯覚するそうである。言われてみれば「クリスマスイブ」「ライドオンタイム」など曲名を聞いただけでメロディーを口ずさんでしまうような往年のヒット曲が多い。ということは最近のヒット曲が少ない。イコール昔のふんどしで今も相撲をとっているようなナツメロ歌手と思われているのかな、ということである。

 山下さんはそういう風評を打破するために新アルバム「コージー」を発表したのだと力説する。60年代、70年代のメロディーであっても、90年代において通用しないはずがない。むしろ、B'Zやアムロなどのアップテンポで機械的な音楽シーンの全盛期に、アナログ的な心にしみとおる音楽に若者たちは飢えているはずと喝破(かっぱ)する。何よりも10代、20代の若者層は、山下達郎の10年前20年前を知らないのだから、先入観なしに受け止めて吸収してくれるだろう。彼らの心のスキ間を埋めてみたいとまで。

 それから、コマーシャルに何故出演しないのか、の真実まで語っていた。コマーシャル撮影は2、3日間の拘束で数千万円のギャラがもらえる。そんな楽な稼ぎ方をしていると曲を作る七転八倒の苦しみをしなくなってしまう。私は意地でもコンサートの営業収入と印税で食べていく、との決意である。

 私はこの2つの話に不易流行の世の中を生き抜く人生訓を感じた。時代が変わってもいつまでも変わらない価値観が不易。時代の空気を先読みする価値観が流行。この2つを兼ね備えていてこそ自身を啓発させ、他者に貢献できる人材となることができるのだな、と。

 山下さんのプロ意識に敬意を表して一句。

あくまでも 不易流行 音作り

                       エッセイスト・小矢部市出身

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