新連載 馳浩の快刀乱筆
不倫疑惑の目を外へ
米の報復攻撃

平成10年8月23日富山新聞掲載


 いきなり、とはこのことか。アメリカが爆弾テロに対して報復攻撃を行った。

 ケニアとタンザニアで今月7日に起きた米大使館同時爆破事件。このテロ事件について米政府はサウジアラビア出身の富豪ウサマ・ビン・ラディン氏が率いるテロリストグループの犯行と断定し、米東部時間20日午後1時半、アフガニスタンとスーダン国内にある同グループの訓練施設など計7ヶ所を巡航ミサイルで報復攻撃した。

 「テロリストに聖域はない。アメリカの国益を守り、必ず勝利する」とのクリントン大統領のテレビ演説が流され、ラディン氏らとの全面対決の決意が表明された。

 さて、この報復攻撃と、今後の展開をどう読むか、である。

 ちょうど大統領は不倫疑惑の真っ最中。もみ消した、いや真実はそうではない、とアメリカのマスコミは大騒ぎ。そんな中での米軍の報復攻撃は、国民の目を不倫疑惑からテロ組織との戦争に転化させたととられても仕方あるまい。内政にゴタゴタがある時に外交問題でポイントを稼ぐ政治手法は洋の東西を問わずどの国家においても使われる。クリントン大統領延命のための窮余の一策。タイミングが良すぎる。プライベートの問題よりも国益を優先させるアメリカ国民のナショナリズムをどこまで満足させられるかが問われよう。

 そして、今後の展開の不透明さ。

 なぜなら、アメリカの国益の相手はイスラム原理主義者。国対国の構図ではない。国益対原理主義では、終わりは見えない。ということはアメリカはテロリストの思うがままに泥沼の報復合戦に引きずり込まれる可能性が大きい。多くの市民が犠牲になるようならば、国際紛争から世界大戦に発展するやもしれぬ。

 アメリカの主義は世界の主義ではない。あくまでも一国家を守るための主義。周辺諸国に発展しないための外交努力が必要だ。

 平和ボケの日本から一句発信したい。

 

国益と テロの争う 野分かな

 エッセイスト・小矢部市出身

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