PandA-J (protection & Advocacy Japan) bS September2008 掲載
特集 【虐待防止法案】
 
議員インタビュー

 

難しい、つまらない、どこか別の世界の話のようだし・・・・でも、虐待について考えるのは、大切なことなんです。

ここは、ぱんだ長屋の佐吉とお初に水先案内人になってもらい、障害者虐待防止法について知る旅に出ることにしました。

福田総理辞任で政局が激変して法案の行方がどうなるか不安ですが、新聞やテレビが報じない情報満載ですぞ。

 

佐吉 ようやく障害者虐待防止法ができそうなんだって。これで障害者を殴ったり蹴ったりするやつは逮捕されるってわけだな。おれはこういうのを待ってたよ。ものを言えねえ障害者をいじめるやつは許せねえ。

お初 ちょっと待ってくださいよ。逮捕なんて、そんな単純なものじゃありませんよ。そんなことになったら施設から職員がいなくなっちゃいますよ。だいたい、殴られても、障害者は 「私、殴られました」 と言ってくれないから難しいんじゃないですか。親だってがまんしてる。親が虐待していることもあるし。

佐吉 殴られ損じゃねえか。

お初 だから法律が必要なんです。障害者を虐待してはいけないということを法律で宣言する。虐待されるのを見た人は通報しなければいけない。通報を受けたら障害者を救い出し、安心できるところに保護する。虐待した人を罰したり、カウンセリングをしたり、いつでも相談に乗れるようにしたりする。なかなかものを言えない障害者を守るためには、そういうことを法律で保障するしかないんですよ。

佐吉 なるほど。少しわかってきたぜ。 ところで、お前きっき 「親が虐待することもある」 なんて言ってたけど、ほんとなのかい。可愛いわが子を虐待する親がいるのかよ。

お初 なにl言ってんですよ。障害のある子を殴ったり、食事を与えなかったり、病気になっても治療しなかったり。性的な虐待だってあるんですよ。だいたい、児童虐待防止法や高齢者虐待防止法だって、子どもやお年寄りが家族から虐待されているのを守るためにできた法律なんじゃないですか。

佐吉 いつから日本はそんな情けねえ国になっちまったんだ。おれは障害者を虐待するのは施設の職員だとばっかり思っていたぜ。

お初 もちろん、施設職員だってそうですよ。小規模作業所だって、グループホームだって、知的障害のある人はどこだって虐待される恐れがあるんです。殴られても文句を言えない人がいるところはどこだって虐待のリスクがあります。

佐吉 するってえと、特別支援学校や就労先や病院でも障害者は虐待されているのかい。

お初 たまにはいいところに目をつけるじゃないか、お前さん。そうなんですよ。学校での虐待は実はすごく多いとあたしは見てますけどね。特別支援学校や特別支援学級は少人数で閉鎖的な場所にいるわけで、身体的虐待や性的虐待が発覚することは決してめずらしくはないんです。実際、刑事責任を問われた例もあるし、民事訴訟で裁判所が先生の虐待を認めた例もあります。就労先もそうだし病院にしたところで同じことが言えるんですよ。 「ぱんだJ」 3号で紹介した 「三丁目食堂事件」 もそうだけれど、就労先での虐待は賃金のピンはねや障害年金の搾取など経済的虐待も多いんです。

佐吉 病気やけがを治すところであるはずの病院もかい。

お初 大和川病院という精神病院でひどい虐待が行われていたことを忘れたんですか。ひどいところばかりじゃないけれど、治療の必要がない社会的入院こそが虐待だという人もいます。是非はともかくとして、今でも33万人の精神障害者が病院の中にいるんです。その半数近くが5年以上も病院の中にいる。中には職員の補助のような仕事をさせられている人もいます。労働搾取、これも虐待ですよね。

佐吉 ふ〜ん、いろんなところでいろんな虐待があるってえことだな。それはわかったよ。で、虐待を発見した人は通報しなけりゃいけない、ということにするわけだな。だけど、どこに通報すればいいんだ。これまでのいろんな事件を見ても、市役所や県庁に通報しても何もしてくれなかったじゃねえか。警察か? 法務局か? 虐待の疑いがあるだけで警察が動いてくれるとは思えねえな。障害者のことをよく知っている警察官がそんなにいるとも思えねえしよ。

お初 そりゃそうですよ。これはどうみても犯罪だなと思えば警察に通報すべきかもしれませんけどね、親による虐待、施設職員による虐待は、ひょっとしたら本人たちに虐待しているという自覚がないものもあるかもしれませんよ。もともと親はわが子が可愛いし、施設職員だって障害者に幸せになってほしいと思って福祉の世界に入ってくるわけでしょ。そうじゃないですか。虐待したくはないけれど、自分自身のストレスに負けたりして叩いてしまう。叩かれた障害者がやり返してきたり文句を言ったりしないから、やってる方の感覚が鈍化して障害者の痛みがわからなくなってくる。警察ではなくて、そうしたデリケートな状況をよくわかった人が通報を受けて、相談に乗ったり、調査にあたったりする方がいいというものではないんですか。

佐吉 じゃあどこに通報すりゃいいんだよ。児童虐待のときは児童相談所、高齢者虐待は地域包括支援センターがあるよな。障害者には何にもねえじゃねえか。

お初 なんだい、よくわかってんじゃないですか。そこが課題。あたしはね、権利擁護センターのような専門的な機関を都道府県にひとつは必要だと思いますよ。財政的には苦しいですけれどね。

佐吉 おう、そうよ。高齢化で社会保障費がふくらむ一方だから、毎年2200億円を削減しろとかって言われているんだろ。そんなの無理だぜ。福祉の世界から若い職員がどんどん離れていってるじゃねえか。福祉ばっかり予算を削らないで、道路だとか国の地方機関だとか、削れるところはいっぱいあるだろ。そういうのを削って、障害者権利擁護センターをつくろうじゃねえか。

お初 あたしだってつくりたいですよ。いくら虐待防止法ができたって予算が伴わなければ絵に描いた餅になっちまいますよ。

佐吉 政治の出番だな。

お初 ほいきた、お前さん、ここは政治の出番。障害者虐待防止法にしたって議員立法でやろうということで各党で原案づくりが進められているんです。その中心の議員のインタビューを聞いてみようじゃありませんか。どんな法律になりそうなのかがわかるというものですよ。

 まずは馳浩衆院議員。この人が自民党の中を調整しているらしいですよ。
 児童虐待防止法改正や高齢者虐待防止法の担当者でもあったので、期待したいですね。

佐吉 よっ、ノーザンライト・スープレックス! あれはすごい必殺技だった。今でも思い出すぜ。

お初 失礼なこと言っちゃだめですよ。それは新日本プロレス時代の話。今じゃ自民党副幹事長なんですから。

佐吉 まあ、聞いてみようじゃねえか。 インタビューしているのは 「ぱんだJ」 の編集長だな。

※議員のインタビューは今年7月末に行いました。その後は福田首相辞任によって状況が大きく変わっています。

 

現場が働きやすい法律にしたい 「馳浩関係部分 抜粋」

馳 骨組みづくり。 そして、なかなか調整が必要だなあと思っています。 定義の部分、体制をどうするかという部分。 法律をつくっても実効性が上がらないといけないし、現場の職員さんたちの使い勝手がよくなきゃいけないじゃないですか。 いくら法律で厳しく早期発見、早期対応、障害者の人権に配慮といったところで、それに対応できる職員が現場にまったくいないのでは、あんまりかけ離れていてもいかんから、そういう意味では幅を持たせた原案づくりに入っているところです。

 でも、それの定義のところが両論併記ぐらいな形でつくっているんですけれど、基本的に民主党の園田康博さん、山井さん、公明党は高木さん、福島さん、自民党は衛藤晟一さん、木村義雄さん、私、坂本由紀子さん、一年生で高鳥修一さんとか、福岡資麿さんとか、このへんが中心だね。 与党自民党として決め決めのものはつくらないで、いろんな考え方を盛り込んだ原案づくりをしています。 公明党、民主党の考え方、よりよいもの、より合意の得られやすいもの、現場に即したもの、法律ができて現場が動きやすいもの、そして現場が動きやすくするために予算をバックアップできるもの、それが大事じゃないですか。 職員の配置基準とか。 現場が対応しやすい、バックアップしやすい、実効性が上がりやすいものにしようと考えています。

 ・・・ ひとつの論点として、児童は家庭、高齢者は家庭と施設。

馳 そう、施設も医療法が適用されるものではなく、介護保険法が適用されるもの。

 ・・・ 障害者の場合はその先ですね、学校とか就労先とか病院。このへんをどうしていくのかが焦点になっていくのでは?

馳 二段階論を考えています。 児童虐待防止法に書いてあるように、 「何人も障害者を虐待してはならない」 と。 この規定を入れたほうがいいと思っています。 しかし、医療施設は医療法の中だし、学校は学校教育法の中だし、就労施設は労働基準法の範囲の中だから、そこを法律によって管理監督責任のある責任者が適切な対応をするものとする、という書きぶりをしようと思って。

 具体的にああだこうだと指示するような書きぶりは難しいかなと思っています。 たとえば、障害者も働いている事業所。 これは虐待しちゃいけませんよという理念を入れて、労働基準法の中で職場環境を整えないといけないのは当たり前なんだから。

 ・・・ 労働基準法は主に賃金に関しての規制?

馳 賃金とか労働条件のこと。 しかし、そこには障害者が働いているのだから、虐待が行われないように周知徹底、啓発活動が大事ですよと、実際に起きた場合にはその監督責任の中で責任者が、虐待が起きないように管理するものとする、という緩やかな訓示規定のようなものにできればいいと思っています。

 学校の場合も管理監督責任者、校長とかが障害児に対する虐待が起きないような、起きた場合には早期に対応できるような措置をしなければいけませんよ、病院は特に精神病院とか障害者に対する虐待はダメ、発見された場合は適切な措置をする、というような訓示規定くらいしかできないかなあと思っています。

 ・・・ 病院の場合は医療行為と虐待をどう見るかについて哲学的な論争になってくるかもしれないですね。

馳 それは高齢者虐待防止法をつくるときに一番のハードルでもありました。

 ・・・ 認知症のお年寄りの行動を抑制すること、投薬が必要な医療行為なのか、やってはいけない人権侵害なのか……。

馳 基本的には、医療機関はガイドラインをつくっているはずですから、精神疾患の患者に対するもの、認知症の患者に対するもの。 あるいは身体障害者に対する対応のあり方とか。 そのガイドライン通りにやれば虐待は起きるはずがないのだから、そのガイドライン通りにやってくださいよ、と促すような訓示規定くらいしか無理じゃないかな。 手を突っ込めばそれだけの責任をこの法律で持つことになりますから。 その辺はもう少し民主党や公明党と調整しないといけないのかな、と。

 ・・・ 通報を受けて調査をしたり一時保護したりする機関はどこになるのでしょう。子どもの場合は児童相談所、高齢者の場合は地域包括支援センター障害者の場合は……。

馳 それは私の口からは今の段階では言えませんが、必ず通報や相談を受け付ける窓口は必要です。 通報を受けた以上、それに対応する職員も必要です。 法律をつくる以上はどこかにそれをやってもらわなければなりません。

 ・・・ そのあたりが予算措置の伴うところですね。

馳 そうです。 予算措置といっても要するに人の手当て、人件費です。 職員のみなさんにも研修してもらわないといけないし。

 ・・・ 介護保険と障害者がいずれ一緒になれば包括支援センターが担うことにすればいいけれど、そういう雰囲気ではなくなってきましたよね。

馳 現実に今、どこが窓口になったらベストなのかは与野党で相談しないと。 できないところにやらせてもしょうがないのだから。 より専門性があって受け付けられる人的配置のある機関でなければならないと思います。

 ・・・ 法案の内容によっては障害者団体の仲に異論を唱えるところも出てくることも予言されますね。

馳 思いが強いからね。

 ・・・ しかし、児童虐待防止法にしても高齢者にしてもつくったことによってずいぶん変わってきました。

馳 変わったね。 早期発見ができるようになった、早期対応ができるようになった。 我々の狙いは社会にアナウンスメント効果を発揮することができるようになった。 児童を虐待してはいけない。 親の年金を勝手に使ってはいけない、と。 それと同じように、障害者にも虐待してはいけない、ということですよね。

 ・・・ 今、高齢者の虐待もすごい勢いで通報が伸びてますよね。それだけ潜在化していて声を出せなかったということですね。

馳 それから、監視の目が光るようになった。 民生委員、ヘルパーばかりでなく、高齢者に関わるみなさんが虐待しちゃいかんということを常識として持つようになった。 気になるから通報しましょうね、それからもちろん、機関内における守秘義務がかかっていますから、安心して通報できる。 身分が剥奪されるとか人事に影響する恐れとかありますけれど、自分の目で虐待だと判断すれば通報してくれればいい。
 労働条件が不利になってはならないと明確に書いてあるんだから。

 ・・・ 自民党内では異論はありませんか?

馳 決め決めの議論をしていないから。 こういう考え方もあるよ、ちょっと待ってよ、施設職員による虐待もあるし、入所者同士の虐待もあるんですね。 学校でもありますよね。 障害のない児童生徒が障害児をいじめる、それが常態化する。 職場でもそうですよね、障害者しかいない職場ではなくて、労働者がたくさんいる職場で健常者が障害者をいじめている、常態化しているというケースがある。 いろんな見方があるので、こんな場合はどうか、あんな場合はどうかと、いろんなことを想定しながら条文を考えて行きたいなと思っています。

 ・・・ 臨時国会で?

馳 なんとか臨時国会でね。 気分が盛り上がってきているんでね。 3年前からね、高齢者虐待防止法をつくるときから、厚労省の中で当時の塩田障害福祉部長が一生懸命走り回って勉強会やっていた。 私も何度か出ましたけどね。 尾辻さんが大臣だったですね。 だから、なんとかこの秋の臨時国会でまとめたいなと思っています。

 ・・・ 政局が心配ですね。

馳 そう、しかしまあ、民主党の方にも理解いただけると思うんですけどね。 今まで児童虐待も高齢者虐待も児童ポルノ禁止法とか民生に関わる部分はでこぼこはあったけれど、話し合って全会一致で通してきましたからね。 みんな仲間としては知っていますから。 ただ、各党の事情はありますけれどね。 みんなが思いのたけをぶつけ合って落としどころを探して行きたいなと思っています。

 

 「立法でなんとかせんなんー」。育児放棄の末に餓死した子どもの痛ましいニュースに、激しい怒りとやるせなさが湧き上がり、馳浩議員は児童虐待防止法改正案のまとめ役として立ち上がったという。餓死した子どもが、馳議員の愛娘と同じ年だったせいもある。

 3年前に障害者虐待防止法について厚生労働省内で勉強会が重ねられていたとき、民主党と公明党からは何人もの議員が毎回参加してマイクを奪い合うように熱弁を振るった。ところが、自民党の議員は誰もいなかった。何回目かの勉強会で、真剣な顔をして勉強会の意見に聞き入っていた馳議員の大きな体に気づいた。結局、その勉強会は法律制定には直接つながらなかったが、3年の時を経て、馳議員が自民党内のまとめ役として重要な役割を果たすようになった。

 政局の高波の中で障害者虐待防止法は浮いては沈み、さらに浮き上がろうとしているが、 「ねじれ国会も民意。そして、民主主義には時間もかかる」 と馳議員は著書 「ねじれ国会方程式」 の中で語る。子どもや高齢者や障害者など社会的弱者に向けた、そのまなざしを信じたい。議員会館の部屋には一人娘の鈴音(りおん)ちゃんの写真が掲げてある。

 

佐吉 なんだか、家庭や施設での虐待は何とかなりそうだけど、学校や職場や病院での虐待は難しそうだな。たしかに、まずつくることに意味があるのはわかるけど、ちょっと心配だなあ。

お初 そりゃそうですけどね、まあ福島豊議員の話も聞いてみようじゃありませんか。それと高木美智代議員。公明党の原案はとてもよくできてると評判ですよ。

佐吉 わかった。福島さんてのは障害児のお父さんでもあるらしいじゃねえか。しかもお医者さんだって?

お初 発達障害者支援法を超党派でまとめたときも事務局を切り回した人ですよ。

佐吉 頼みますぜ。


権利擁護・成年後見情報誌 PandA-J

発行日  平成20年9月1日

編集長  野沢和弘

 

編集部・問い合わせ先

〒187−8570  東京都小平市小川町1-830
白梅学園大学 堀江まゆみ研究室 気付 PandA-J 編集部
TEL・FAX  042−344−1889
Mail info-panda-j@shiraume.ac.jp

 この冊子は、平成20年度厚生労働省障害保健福祉推進事業(障害者自立支援調査研究プロジェクト)『虐待防止マニュアルの作成およびソーシャルマーケティング視点を導入した「わかりやすい権利擁護および障害福祉情報」の開発と普及に関する研究−虐待防止法の制定および自立支援法の見直し過程におけるモデル的実践を通して−』によって作成しました。

 

事務所

〒185−0014  東京都国分寺市東恋が窪3-20-9-709
TEL・FAX  042−323−5647
Mail info-panda-j@shiraume.ac.jp

                


馳浩 in Mediaメニューへ戻る



メールをどうぞ


ホームページへ