季刊『みらい』 2001 SPRING 掲載
親子で楽しめる家庭教育情報誌


特集 「家族」ってなに?
『ボランティア活動で家族の絆を取り戻そう!』

 最近では、傷つける子ども達や、傷つけられる子ども達の話題が、マスコミで報道されることが当然のような毎日になってしまいました。こうした問題の解決策のひとつとして、国は小学校から高校までの学校教育にボランティア活動(奉仕活動)を取り入れる方針を打ち出しています。
 現役のプロレスラーであり衆議院議員の馳浩氏は、以前から「子ども達はボランティア活動に参加すべきだ」と語り、国会活動においても積極的に提言を続けています。馳氏は、子ども達が抱える問題とボランティア活動の関係を、どのようにとらえ、どのように具体化しようとしているのでしょうか? そして、子どもと家族の関係は、どうあるべきなのでしょうか? 


 私がボランティア活動を学校教育に取り入れようと活動をしているのは、現代は社会の連帯性がなくなったと感じているからです。

 特に都会では、隣に住んでいる人すら知らないような生活をしても不自由がありません。

 社会全体が他人に無関心になってしまい、家庭内ですら親が子どもと向き合っていない。

 その結果、子ども達は様々な問題を抱えるようになってしまったのです。最近では14、15歳になれば、私でも恐いと思うような子どももいて、なにか注意などして、恨みに思われたらどうしようとか、ナイフ持ってたら面倒だなとか、自分勝手な理由で自分を納得させ、大人から子どもに注意も挨拶もしようとしない傾向があります。

 しかし、子ども達は「自分を見てもらいたい」と思っています。大人社会では、まず人のことを思いやれ、理解してやれと言いますが、子ども達は自分を見てもらうことで安心するものです。

 ボランティアの基本精神というのは、「自主性、社会との連帯性、継続性、無償性」の四つです。ですから、ボランティア活動をするように、大人が子どもに対して働きかけることは純粋なボランティア精神には反しますが、子どもにとっては励みと安心になるのです。

 

親からはじめるボランティア

 こういうボランティアの理念というものは、教えないと理解できない部分があります。ところが「教える」ということは、ボランティアの「自主性」に反してしまう…と、誰もが思うはずです。

 そこで世界に目を向けて調べてみると、親がボランティアをやっていると、子どももボランティアをやっている傾向が強いことが分かりました。

 ということは、ボランティア活動を子ども達に恨づかせるためには、見本となる大人が、家庭や地域など子どもの身近にいることが大切だということなのです。「なんのためにボランティアをするのか?」「ボランティア活動を通して、いかに自分を発見したか?」ということを、大人が実際にやって見せるのです。これが、子ども達とボランティア活動を身近にさせる最初の一歩です。親が率先して、衰えた連帯力を、一番身近な大人と子どもの連帯感を、ボランティア活動で取り戻すのです。

 しかし、やはり子どもには、学ばなければいけないボランティアの理念もあります。ですから私は、教師のボランティア活動研修と共に、評価をしない特別の科目として、ボランティア科目を学校教育の中に設置すべきだと思っています。

 

地域全体で子どもを育てる

 また、子ども達に社人の一員としての意識を持ってもらうためには、幅広い年齢層の中でボランティア活動をした方が良い。そういう意味も含めて、これからの学校は子どもと大人社会を結ぶ地域のコミュ二ティー・スペースでもあるべきだと思います。

 こうしたことを実現するためには、地域の行政や住民の協力が不可欠です。親や教師だけでなく、すべての大人が子ども達に目をかけてやるのが、教育の基本だと思います。これは誰しも面倒に感じることかもしれませんが、実際に、ある県では、親も教職員も学校教育の中でボランティア活動に参加しています。

 小学生は総合学習の延長のような活動ですが、中学2年では6月の1週間は学校に行かずに、職場体験、自然体験、社会体験などなど、各クラスで自主的に決めて活動をしています。

 地域の教育力を高めるには時間と手間がかかりますが、実際に大人の世界に子ども達が来ればかわいいし、大人が忘れていたような純粋な気持ちを取り戻せるものなのです。しかし実際に、仕事を持っている親がボランティア活動に参加するには、色々な制約があるでしょう。

 ですから私は、行政や地元のNGOなどの協力を得て、まず学校の教師がボランティア活動の研修を受けられるようにし、彼らが子ども達をリ−ドするべきだと思っています。

 ボランティア活動は「自分も人の役に立っているんだ」という気持ちを持たせてくれます。自分が得をするのではなくて、生きていることの満足感や、自分自身の存在価値を得るために、ボランティア活動は存在するのです。

 ボランティア活動に参加すると、子どもなりに社会の中での自分の役割意識が芽生えます。そうして芽生えた自覚を根づかせるのも、またボランティア活動だと思います。

 自分が無償の汗を流して「ありがとう」の一言をもらったときの満足感を、最近の子ども達は知らないのではないでしょうか。

 

問題意識が問題を解決する

 ボランティア活動は、集団行動の中で、子どもが序列を学ぶ場でもあります。

 イジメがエスカレートしたひとつの原因は、子ども達が集団で遊ぶことが少なくなったことにあると思います。集団がなくなれば序列が崩れます。序列が崩れれば、イジメを止める者もいない。ブレーキが効かず、むしろ助長される。これがイジメがエスカレ一卜するスタート地点だと思います。

 同じことが家族にも言えるでしょう。家族に親子の序列がなくなってしまったのです。

 私自身のことを言えば、自分の娘を叱る時に殴ることもあります。泣かせて、なぜ悪いのかを教えて、それから抱き締めます。

 ここで大事なことは、子どもの声を聞く耳を持つということです。相手がいる問題なら、相手の声も聞くという姿勢が必要です。そのために、当たり前のことですが、子どもと過ごす時間をできるだけ作るということです。家庭は子どもにとって、一番大切な集団です。まずは朝食・夕食を一緒にとる、一緒に遊ぶ、家族としての思い出を一緒に作る、そんなことからはじめれば良いと思います。

 そうは言っても、仕事で通勤している親にとって、子どもと一緒に朝食・夕食をとるのは大変なことでしょう。だから、ここからが政治の課題で、たとえば都心部に安く借りられる住宅を造ったり、交通機関を改善したりするべきで、そのために国や自治体が予算を確保するべきなのです。子どもの問題は、この社会を作った国にあります。子どもの問題を解決するのは、大人の責任であり、国の義務だと思います。そして、その国を動かすのは、みなさん一人一人の問題意識だと思います。

 子どもの問題を、機会あるごとに話し合ってください。うるさい奴だと思われても構いません。

 問題を提起し、家族から地域全体で子どもの問題に関心を持つことが、今は一番大切なのです。

 What's Family

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