「毎日新聞」 平成13年12月16日掲載

<朝の百葉箱>

小島正美(編集委員)

千葉大の環境ホルモン戦略

 

 いま起きている狂牛病で最も関心の高いのは、人に感染するリスクがどの程度かだろう。多くの専門家はゼロに近いといっているが、行政の対応が悪かったために、そうしたリスク情報の信頼性が揺らいでしまった面は否めない。

 同じことは環境ホルモン(内分泌かく乱物質)を中心とする化学物質に関するリスク情報にも言える。この面で注目したいのが、千葉大学医学部の森千里教授らが行っている“環境ホルモン戦略”だ。

 化学物質が健康にどんな影響を与えるのか、正確な情報はなかなか伝わっていないのが実情だ。森さんらは「企業や市民団体の一方向の情報だけでは正確さに欠ける。大学が企業と市民の間に立ち、マスメディアの協力を得ながら、情報を伝えていく手法がよい」との考えで、昨年から市民講座を積極的にやり始めた。

 これまでダイオキシン問題などを取りあげ、先月は4回目の講座を開いた。化学物質の規制がどうやって決まっていくかを知ることも重要だと、“環境族”を自任する衆院議員の馳浩さん(自民党環境部会)を招き、政治の世界を語ってもらった。好評だった。

 大学院に環境生命医学教室を開設し、社会人を積極的に入学させているのも戦略のひとつ。今年4月から30代の4人が学ぶ。学んだ知識を企業や地域に帰って、生かしてもらう狙いだ。

 その一人の戸高恵美子さん(千葉市)は今年夏、環境専門新聞の記者をやめて入学した。現在、リスク・コミュニケーションを学ぶ。もっと医学的な専門知識を学び、地域や市民に貢献できる研究活動がしたいと思ったという。現在は非常勤の助手も務める。講座では早くも研究成果を披露した。

 「化学物質の影響は人によって異なる。微量でも影響をこうむりやすい人もいれば、何ともない人もいる。その裏には遺伝的な差異があることが最近の研究で分かってきた。将来的には、個人差に応じた予防法を伝えていくことも可能になるかもしれない」と一大学が市民への対応策まで探っていく雄大な構想を披露する。

 大学は研究をする所といった従来の枠を破って、市民や企業との対話を始めた意義は大きい。森さんは「大学が対応策を探りながら、化学物質のリスクの少ない社会を築いていくのが理想」と新しいアプローチに意欲的だ。同教室は、いま社会人の大学院生(来年4月入学)を募集している。


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