kyodo weekly 2004年10月25日 毎週月曜日発行
【対論 座標軸】
小泉改革の目玉である『三位一体改革』が迷走している。最大の柱である8500億円の義務教育国庫負担金の削減問題で、文部科学省が対案提示を拒否するなど調整が難航しいてるからだ。年末の予算編成を目前に控え、どう決着を図るべきなのか自民党の馳浩、民主党の奥田建の両氏に聞いた。

(聞き手:ジャーナリスト 伊藤達美)

 

『義務教育国庫負担金削減問題』 

国庫負担金の単純な一般財源化は難しい(自民党:馳浩

−地方6団体が提示した補助金削減案は義務教育国庫負担金の公立中学校の人権費約8500億を一般財源化するよう求めていますが、どうお考えですか。

 「難しい問題です。給与水準を守るというのは、教員の意欲・熱意を啓発する意味もあります。そこから教育水準を守るということにつながっていますので単純に一般財源化というのは難しいのです」

−高校教諭の経験がありますが、その視点ではいかがですか。

 「現場から見れば、二つ論点があります。一つは、公立小中学校の設置者は市町村です。市町村としてできる限りの人事、教員の配置を決定できる権限を持つことは望ましいと思います。その場合、国庫負担金を一般財源化してほしいという気持ちは理解できます。もう一つは、中心市街地の学校と過疎地域の学校を比べた場合、学校規模が縮小してきています。学校規模が縮小し、6年間1回もクラス替えができないような学校もあるようです。せめてソフトボールやドッジボールのチームが組めるような、さらにクラス替えができるような学校の規模を保つことを考えなければいけません。学校規模の観点から考えれば、それを実現していくのはやはり市町村、現場の役割であると思います」

−その場合、国の義務教育への関わりはどうなりますか。

 「学習指導要領とカリキュラムの編成は国が責任を持つように法律で明確にすべきでしょう。その上で、義務教育国庫負担金制度は地方に任せていくことも考えられるべきかな、とも考えていますが正直、私は迷ってます」

−義務教育に対し、国庫負担金という形で国が責任を持つのか、あるいは税源移譲して自治体に責任を持たせていいのか、という義務教育に対する思想の問題です。

 「国が確保すべき義務教育の根幹を法律で定めること。法律によって運営していく上で、権限はできるだけ分けて考えていく時代、分けて考えるのも選択肢の一つかなと思います」

−義務教育国庫負担金を通じて、国が教育委員会を指導していますが。

 「これは財政的な問題からきていますから、本質的な教育と相いれませんが、教育の内容を充実させていくためにも、なぜ学校で公教育を成すかというと、やはり集団生活であったり、社会性を学ぶ、社会で生きていく上での個人の資質を向上させるのが目的ですから、それに沿ったものは国が決めるというよりは、地方がやっていったら、国が守るべきなのは教育内容を法律で定めてもいいのではないかと思います。先の河村建夫前文科相プランで出された到達目標を明確にすることも、一つだと思います。どういう法律の形にするか、義務教育で学ぶべき到達目標を明確にすれば、地方はそれに従って、学校の親模、学級の規模、教育内容を工夫してやっていくことができると思います。ここでの大前提は、税源移譲と再配分機能の二つです。その二つが確立されなければ駄目です」

−義務教育をどう行うかは教育の根幹であり、単純にお金で解決できない問題です。

 「義務教育国庫負担金を廃止した場合、どうなるのかの絵を描かないと駄目です。義務教育の根幹の守るべきものをどう保てるのか。そのメニューが見えないとそれ以上、前に進めないと思います。慎重に議論を重ねる必要があります」

 

 

結論ありきの小泉手法は危うい(民主党:奥田建

−地方6団体が提示した義務教育国庫負担金の一般財源化案について、どうお考えですか。

 「負担金と補助金とは性格が違います。義務教育国庫負担金は問違いなく国の責任の限りであります。国のやるべき仕事を絞り込んでいこうという動きの中で、義務教育は国の仕事としての義務です」

−義務教育は国が責任を負うべきだとお考えですか。

 「そうです。法体系の上では、憲法から始まって、国の大きな一番の責任というより義務です。小学校、中学校という義務教育は国民の平等の権利として格差があってはいけないと考えるのは正しい。その中で地方自治体に任せたら、崩れ去ってしまうのか、というとそうでないのも事実であり、現実だと思います。どちらもわがままな言い分ではないのです。筋の通った言い分なのですから、じっくりと腰を落ち着けて話し合ってもいい部分だと思います」

−義務教育は地方自治団体が本当に責任を持てるのかという問題がありますが、どうお考えですか。

 「それは、お金で責任を持たせるのか、一つの基準・ガイドラインとしてそれを示すのか、方法はいくつかあると思います。そういう中で議論して、どうすれば教育のレベルや格差を生じさせないで保てるのか、検討しないといけないと思います。ガチガチに決まってるのであればどっちにいっでも一緒じゃないですか、回らなくても一緒じゃないですか、というのもある意味正論になってくると思います」

−義務教育国庫負担金の一般財源化について、政府は平成2006年度末までに検討するとのことでしたが。

 「昨年の衆院選前、塩川財務相、片山総務相(いずれも当時)に『三位一体改革』について質疑させてもらいました。そうしたら、『経過年数は4年くらいかけて』というようなことを言っていました」

−総選挙が終わったら、小泉首相は財政削減を全面に出しました。

 「補助金と交付金で2兆円強のものを一気に問答無用でバッサリと切りました。あのやり方は、地方に活力を与えたいという財源移譲の話じゃなくて、完全に財政削減の話でしかないものになってしまいました。今年1年はしっかりと反省していただいて取り組んでもらいたいと考えています。根拠がある数字ならいいですが、何の根拠もない数字で、早急に数字合わせの結論だけ求める手法は納得できません。出す方も受け取る方も確実に納得して、できる部分を形にすればいいんじゃないですか。まとめろと言ったのは1カ月弱、2カ月くらいの期間です。時問をかけて、しっかり議論すべきです」

−小泉政権になってから「初めに結論ありき」で、議論がなされないまま結論だけが先に進む傾向が強く、健全な政党政治、議会政治とは言い難い面が多分にありますが、その点はどう見ていますか。

 「その点が一番問題だと思います。小泉さんの政治手法は『俺が結論を出してるんだから、お前ら形とプロセスを作ればいいんだ』というものです。小泉改革と名付けられたものが全部そうなっています。道路公団改革、そして三位一体改革、郵政民営化もそういう姿になりつつあります。しかし、それは全く逆であると思います。少なくとも共同作業でなければならない。国会において十分議論すべきテーマだと思います」


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