子供にまなぶ  家庭教育 2007


 

第20回 家庭教育公開講演会
【よい子が育つ夫婦の絆
 −やさしい会話していますか? 

 来賓挨拶

 前文部科学副大臣 馳浩        

 私は、立会演説会でいろいろなところに行かせていただきますが、女性の前でお話しするのは、やはり緊張します。そして、本日は、家庭教育講演会ということですが、できればお父さん方にもご参加いただければ、なお有り難いと思います。

 さて、わが国においては、昭和22年に成立した 「教育基本法」を時代と共に見直さなければならないという議論は、本当に長くありました。
 「教育基本法」は、日本の教育の憲法です。日本人としてどんな人材を育てていくべきかという議論があったにもかかわらず、「教育基本法」だけは触らないでおこうという風潮がありました。そのために、「ゆとり教育」の議論が先行してしまったという経緯があったのです。そして平成12年に「教育基本法は改正すべきである」ということで、6年経って、ようやく法案を提出するに至ったわけです。

 いくつか論点はあるのですが、皆さまにご理解していただきたい一点は、家庭教育に関する一項目に、「父や母やその他、保護者の方が子どもの教育に関して一時的な責任を有する」という表記があるということです。

 これは、子供を産んで育てること。また、両親はしっかりと働いて収入を得、家庭を円満に運営していくこと。その接着剤が愛情であるのでしょう。子供を育てることは大変であり、また喜びもありますが、子育てには責任が伴います。子供の養育についての責任は、両親、保護者にあるのです。それで、このように規定を変えたということを、まずご理解いただきたいと思います。

 では、家庭教育において何が大事なのか。この間、わが家でこんな事件がありました。題して「東京タワー事件」 です。
 私には、妻と小学校三年生の娘がおります。わが家は毎年、大晦日に東京タワーに行きます。思い出をつくるために特別展望台に登って、東京を見渡すのですが、入場するための列に並んでいたら、私の前に、お父さんとお母さん、小学校低学年のお嬢さんがいたのです。その子が、「たまごっち」で遊び始めたのです。すると「ピコピコ」と鳴り始めました。それを見て、うちの娘も刺激を受けたのでしょうね。「たまごっち」をバッグの中から取り出そうとしたのです。その瞬間、妻が甲高い声で私にこう言ったのです。「人前でたまごっちするなんて非常識よね。日本の教育はどうなっているの? 副大臣!」。それも相手のご家族と50センチも離れていないところからです。「そんなこと俺に聞くなよ……」と思いましたが、ここで逆らうとまた妻は激怒すると思ったので黙っていました。

 するとやはり、相手のお父さんは妻の声でぱっと振り返ったのです。そして、私たち夫婦を見て、「まずいなー」 と思ったのでしょう。自分の娘をつっついて、「止めなさい。皆さんに迷惑になるから……」 と言ったのです。しかし、そのお嬢さんは、「うるさいなぁ。楽しんでいるのに、音がしないとつまんないじゃない」って不満そうに言ったのです。その場が緊迫した空気になってきたのがわかりました。

 妻のほうを見ると、知らんぷりで反対のほうを向いているのです。
 私は 「お前が大きい声を出すから、俺が恥をかくじゃないか」と思っているわけです。
 相手のお父さんも、「申し訳ない」と思っているわけです。
 子供は子供で、そんなこと関係ないわけです。

 しかし、その瞬間です。
 相手のお母さんが、ムササビよりも速いスピードで、自分の娘さんの「たまごっち」を取り上げたのです。
 その勢いにア然としたお嬢さんに、お母さんはにらみ返していました。
 とても素敵なお母さんなのですよ。女優の松島菜々子さんのようにきれいなお母さんです。そのお母さんが、般若のような顔をして娘さんを見たのです。
 そのお嬢さんも初めて我に返って、「あ、ここで、こういうことをしたらいけないのかな」と、黙って下を向いたのです。

 その一部始終を見ていたうちの娘も、バッグに突っ込んでいた手をそっと外に出したのです。そして、相手のお父さんは、私の顔を見て頭を下げたのです。私はそのお父さんに対して、「無事におさまってよかったですね」という感じでした。女房も冷静になっていきました。

 私はこの「事件」で、何かがわかったような気がします。と同時に、女房のことをえらいと思いました。
 私はオロオロするだけでした。相手のお父さんも、えらいと思います。その場をうまく取り繕おうとされたからです。いちばん偉いのは、相手のお母さんです。「公衆の面前で音を出すのは止めなさい」とは言わなくても、「たまごっち」を取り上げ、般若のようににらみつけたからです。ここが親の教育力ではないでしょうか。

 いま、ここの会場で、大声で泣いている子供さんがいますね。そのお母さんも、気まずい思いをしているかもしれませんね。このようなとき、皆さんの役割はどうあるべきでしょうか。

 時と場所に応じながら、温かい目で見てあげたり、そっと外に出ることを促したり、一緒になってあやしてあげたり、子供にお菓子でもあげたりとか、なさることはたくさんありますね。つまり、何とかその場を取り繕って「このお母さんに恥をかかせないようにしよう」とか、みんなでかかわってあげることが大事なことだと思います。

 その「東京タワー事件」は、副大臣として文部科学省の官僚から教育に関するたくさんの法律について説明を受けるよりも、とても勉強になりました。法律では 「家庭教育」という項目を設けますが、国や県、市町村が家庭教育に介入するものではありません。

 けれども、いざというとき、周りの方々が支えてあげる、そういう国でありたいと思います。皆さんは、家庭教育に対して非常に情熱のある方たちです。できれば、たくさんの方と協力し合って、皆さんの周囲で、よりよい家庭教育が実施されることを切に願っております。

 

 2006年5月16日、東京都新宿区の牛込箪笥区民ホールにおいて、東京家庭教育研究所主催、文部科学省、東京都教育委員会、財団法人日本ユニセフ協会後援による「第20回家庭教育公開講演会」を開催。


《参照》  子供にまなぶ家庭教育 東京家庭教育研究所

 当研究所では年一回、『子供にまなぶ家庭教育』を発行し、年間を通した活動の状況や成果をお伝えしています。その他、家庭教育の重要性を多くの方々にお伝えすることを目的に、書籍、CD等の出版を行っています。

 子供にまなぶ家庭教育 2007   編集・東京家庭教育研究所 定価300円(税込) A5判 口絵4頁・本文80頁


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