月刊 自由民主 10


特集・都市問題対策 座談会
確かな都市ビジョン− 新しい自民党をアピール

 この夏の総選挙で、わが党は都市部および都道府県庁所在地において極めて厳しい戦いを強いられた。「都市政策の欠如」「税の再配分をめぐる都市部と地方との不均衡」など、その理由については、さまざまな指摘や分析があった。「大都市・一区現象」と評された苦戦を招いたものは何だったか。次なる選挙を勝利するためには、自由民主党は何を為さなければならないのか。大都市・東京と横浜、県都・金沢で、いずれも民主党候補を破って当選した小此木八郎(神奈川三区)、馳浩(石川一区)、下村博文(東京十一区)の三衆議院議員に、「都市選挙をいかに勝利したか」と、「自民党の都市戦略はどうあるべきか」などについて話し合ってもらった。
 出席者
 衆議院議員 小此木八郎・衆議院議員 馳浩・衆議院議員 下村博文 

 

従来の“自民党型”から“触れあい”の選挙へ

小此木八郎 総選挙が終わって2か月余りが過ぎました。大変厳しい選挙戦を戦ってきたわけですが、振り返ってみてどんな感想をお持ちでしょうか。

下村博文 今回に限らず選挙というのは毎回毎回大変なものですが、今回は特に大変だったという印象を持っています。

馳浩 中選挙区時代には大きな争点だったことが、小選挙区の選挙では争点とならない。そう考えて戦いましたが、選挙結果を振り返って、中選挙区のときの「しこり」といったようなものはもうなくなっている、ということを強く感じました。

小此木 私も下村さん、馳さんも都市部出身で同年代です。私は選挙カーには乗らずにできるだけ多くの人と直に接する選挙をやってきましたが、皆さんは、特にどんな選挙運動をされたのでしょうか。

下村 私も「直に触れ合う」ことを主眼に戦いました。自民党型の選挙というのは、これまでは「組織固め」が中心でした。各種団体からいただいた推薦状が選挙事務所いっぱいに貼られている状況は、そのことを象徴的に表していますね。いかに、それぞれの団体を固めきるかが勝敗のポイントでした。しかし、最近はこうした方法では通用しなくなっています。

小此木 たしかに、既存の「組織を固める」以外の方法が求められるようになった。今までの「組織固め」だけではハッキリ言って勝てない、私もそう思います。

下村 もちろん、組織固めは不要だと言っているのではない。ただ、それは選挙前に行うべきことだと思います。今、東京では無党派層が50%を超えると言われている。そういう層に、どう選挙に関心を持ってもらい、私の名前を書いてもらうか。私は、自ら街頭に立ち、直接語り掛ける選挙ができるかどうかがポイントではないかと感じました。「出来る限り選挙カーに乗らず街頭に出よう」「浮動票をいかに獲得するか」という観点で、特に街頭演説では、「全ての人と握手をする」という意気込みでやった。旧来の自民党がやらない「候補者イメージを浸透させて親近感を持ってもらう」という選挙戦を展開しました。

小此木 馳さんは、いわゆる「一区現象」のなか、石川県庁のある第一区で戦われたわけですが、いかがでしたか。

 

 分り易いスロ−ガンで分り易い選挙

 私は争点を明確にすることに力点を置きました。さきにも触れましたが、「馳か奥田かの選択を」と「森vs奥田戦争は終わった」ということを訴え、これを基本原則に戦いました。また、政策についても「子を育て、妻をいたわり、親守ろう」というスローガンを掲げました。子育て支援策や家族を大切にする施策、高齢者対策、社会保障政策、経済対策などを含む「総合政策」です。できるだけ「分り易いスローガン」「分り易い選挙」を行ってきたつもりです。一方、絶対にやらなかったのは「ネガティブキャンペーン」でした。中選挙区時代でのしこりは、できる限り無くしていくという必要を切実に感じていたからです。

小此木 私も厳しい戦いは覚悟していました。勝っても負けても接戦だろうと。選挙カーに悠然と乗っている場合ではないという意気込みで戦いました。総理の発言を一面的に取り上げたマスコミ報道などがあって政策論議を離れた状況でのスタートとなりましたが、「そういうことは争点にすべきではない」ということを真剣に訴えました。まず「教育問題」、そして「経済対策」が喫緊の課題であり、政治家がまず為すべきテーマであるということを訴えました。

下村 教育問題に取り組むというのは「戦後教育」を受けて育ったわれわれにとっては、大変に重要な責務の一つです。少し前までは、教育問題は「票にならない」と言われてましたが、今は全く違います。少年犯罪の凶悪化という問題に関して、少年法の適用年齢の引下げを話題にしました。その話になると、街頭で足を止めて聞きいる人が少なくありませんでした。

小此木 その通りです。身近な話題ほど関心があるということですね。少年犯罪の凶悪化について言えば、これは子どもだけの問題としてではなく、彼らを取り巻く社会の問題として取り組まなければならない。さらに、「自由」「平等」「権利」などの言葉が一人歩きして、その裏側にある義務や責任を忘れているのではないか。私は「21世紀の主役は子供たちであり、その教育環境をしっかりと築いていくのが政治家の役割である」ということを言い続けてきました。政治に携わる人間は「関心の変化」を敏感に捉えなければならないということを選挙戦を通じて痛感しましたね。

 

イメージ作戦と“内”からの改革に力点

下村 同感です。私は三つのテーマに絞って戦いましたが、まず「教育問題」です。「教育の下村」というイメージを有権者に持ってもらえるよう訴え続けました。あと二つは「都市政策」と「党改革」です。特に、党の内部から改革をしなければならないという意識を持ち、そのことを前面に強く出しました。選挙区をまわってみて、「自民党は古い。ダサイ」「自民党の役割は、もう終わった」というイメージを持っている人が意外に多いことが分かった。それは、私の個人票よりも自民党と書く比例票が大幅に少なかったことでも明らかです。しかし、「自民党はまったくダメだ!」ということではないと思うんです。

 私もそう思います。有権者の皆さんは、民主党や共産党に政権を任せようとは思っていない。「やっぱり自民党しかない」という意識はなくなったわけではない。

下村 だからこそ、党改革を今後の最重要課題にしなければならないと考えています。

小此木 「今のままの自民党」では、都市部の有権者の支持を集めるのは難しくなっている。自民党が変わる、そして、こういう「都市政策」を進めるというビジョンを示していかなくてはならないですね。

下村 東京が元気にならなければ日本は元気にならない。つまり、都市対策と景気対策の融和です。

 無党派層を主な対象とした街頭演説を主体とした選挙運動と、いわゆる組織選挙をどのように調整したのでしょうか。

下村 さきに言ったように、組織固めはできるだけ選挙前に終えるようにしました。もちろん、その間にはミニ集会など300ぐらいの会合をこなしたので、それなりに苦労はしましたが・・・。

 友好関係にある各種団体と下村さん個人の関係団体とをバランス良くこなしたということですか。

下村 もちろんそうです。一方、選挙期間中は、昼間はなるべく個人演説会など「箱モノ」はやらないようにして,街頭演説を中心にした「無党派対策」に重点を置きました。

小此木 そうした運動が勝利に結びついたということになりますね。

下村 独自に世論調査を行ったのですが、無党派層と言われる有権者の半数以上は、投票日の当日もしく前日になって「誰に投票するか」を決めたという結果が出ました。投票日までの選挙期間中は街頭で、という方法は、無党派層からの好感度アップにつながったと自負しています。無党派層の人にとっての「見える選挙」をいかに行うか、それが勝敗のカギを握っているのではないかと思います。

 

 駅頭に立って子どもたちとスキンシップ

小此木 私の場合も下村さんと目指すところは同じでした。週一回、早朝に駅に立ってあいさつをしています。有権者だけでなく、子どもたちにも「元気かい」「小此木八郎、はっちゃんです。よろしく」と声をかける。なぜ、そんな事をするのかと言えば、文部政務次官の時に全国の学校をまわって感じたことですが、今の子どもたちは大人から声を掛けられることが少ないんです。子どもたちとほんの一瞬のスキンシップを通じても、さまざまなことが分かるものです。選挙の話に戻りますが、ある駅で対立候補が背広にネクタイでビラを配っているんですね。対抗意識じゃないですが、私は上衣を脱ぎネクタイを外して、スキンシップです。そうすると、子どもたちは家に帰って「きょう、駅で小此木八郎が何かやってたよ」という話題になる。それで結構、名前が広がったのかなと思います。

下村 スキンシップと言えば、馳さんは選挙期間中、ずっと走っていたって聞いたけど。

 

まず注目を集めること−1日50キロを“完走”

 走るというパフォーマンスで、私のほうに目を向けていただく。そして、馳浩という人間を分かってもらって投票してもらう。パフォーマンスと得票の二つをいかに結び付けるか悩んだすえの行動でした。まずは「注目を集める」。そこから始めたわけです。つまり、「一目で分かる選挙戦」を心がけました。それから従来の組織対策よりも、無党派対策を重要視して、いかにして投票所に行ってもらうか、そして、どうすれば「馳」と書いてもらえるかを思案した結果の選挙戦だったのです。

下村 どのくらい走ったのですか。

 1日50キロぐらいかな。毎日12時間は走っていました。おかげで一か月間で12キロ痩せました。

小此木 さすが、元オリンピック選手だ。

下村 走るのは、選挙カーの前をですか。

 いや、後ろです。黄色いTシャツに白い短パンで走りました。走っているうちに人が集まって来る。そして、5人以上集まれば、すぐに「演説会」にします。題して「神出鬼没作戦」。相手陣営に「馳は何をやってるんだ」という不安を抱かせる、一種の心理作戦にもなりました。

小此木 これまでは、自分たち個人の選挙の「戦い方」を話してもらいましたが、われわれは自民党の公認候補者でもあります。「自民党の候補者」としての選挙運動についてはどうでしたか。

 「日本国憲法を守る」「国家体制を維持していく」ということを言っていました。つまり、自民党の候補者として「当選したら何をしてくれるのか?」という、国民の皆さんからの問いかけを常に意識しました。自民党はあらゆる世代・階層の人とともに歩んでいく政党です、ということを訴えました。

 

有権者の物差しは“実績”から“期待感”へ

下村 東京は今回の選挙で議員数が半減しました。特に、大臣経験者であるベテラン議員が軒並み落選するという最悪の結果となりました。そうした選挙区の方の話を聞くと、「大臣を何回やった」という「実績」を、有権者はほとんど評価していないということでした。政治家として、自分たちのために何をしてくれるのか、という物差しで見た「期待感」が評価の基準になっているということではないでしょうか。

 有権者は、候補者個人がどういう人かをみて、投票行動を決める。したがって候補者の選考は重要だし、候補者調整は慎重に行われるべきです。また、連立を組んでいても、選挙戦では、正々堂々と政策論議を主張し合うという方が国民には分り易いと思いますね。

小此木 来年には参院選挙が行われますが、衆院選よりも無党派層の動向の影響力は大きい。いくら個人を売り込む戦略に出ても、全県をくまなくまわることは不可能ですから、「自民党の今ある状況」つまり「自民党のイメージ」がダイレクトに結果に反映すると思います。こうした参院選挙の制度上の特質を考慮に入れた選挙対策が求められることになります。

下村 ですから、党のイメージアップを慎重かつ大胆に行わなくてはならない。自民党は「20世紀の政党だ」「21世紀の政権政党として期待できない」という声が国民の中に広がりつつあることに危機感を持たなければならない。「自己改革」をしながら「変化」を国民の目の前に示していかなければならない。私は「21世紀型の自民党」に変わることができるかどうか、という意識をもって選挙戦を戦いました。

小此木 私の選挙区では、比例区で自民党が獲得した票は「小此木八郎」と書かれた票の7割程度でした。近所の主婦層との懇談を通じて感じたのですが、「連立政権」の影響は大きかった。「小此木八ちゃんには入れるけど、自民党にはねえ」という具合です。平成5年に、わが党が下野してから総理は7人も代わっている。アメリカはクリントンが一人でやっている。これだけコロコロ代わるようでは重要政策を実行することはできない。自民党が有為な人材を排出して確固たるリーダーを擁立し、安定した政治状況を創らなければならない。政党の「粗製濫造」状況も決して国家、国民にとってよいこととは思えない。

下村 そうですね。ですから、自民党が若い力を結集して、安定した政権を創っていかねばならない。こうしたビジョンを示していく必要があると思います。

 

国民と政治家の間の「意識の乖離」が問題

小此木 結局、国民の意識と政治家の意識に乖離があるというのが問題だと思います。下村さんは、街頭に出て有権者と触れ合った、馳さんはマラソンで・・・。私は、選挙期間中、電車に乗って移動することもあった。まわりの人が怪訝そうな顔で私の方を見ているんです。私は恥ずかしい気持ちがある。ふとした瞬間目があった人に、「こう見えても、私も恥ずかしいんです」と言うと、「そうなんですか。政治家は恥ずかしいなんて感じていないと思ってました」と驚かれました。些細なことですが「乖離」を感じたできごとでしたね。

 私は政治家の生の声をどう届けるかを意識しながら運動しました。それを「口コミ」でどう広げていくか。小此木さんも言った通り、子どもを通じてどう支援を広げていくかということは、私も考えました。

下村 「自民党らしくない」選挙戦がいかに重要であるか。私は後援会の人に「動員をしない街頭演説をやりたい」と申し出て、実際に行いました。しかし、ある後援者から電話があり、「何で連絡をしないのか。もっと人が集まるのに」と言われた。しかし、私は「街頭演説は無党派対策である」という方針のもとで、自分の意見を通させていただきました。動員をすることで、親近感が減ってしまうことを恐れたからです。無意識のうちに自民党型の選挙を行い、「自民党は奢っている」というイメージを植え付ける危険が生まれてくる。それは回避しなければならない。

 今回の選挙で当選した塩川正十郎先生(大阪十三区)や石川参院補欠選挙の沓掛哲男先生は、大ベテランでいらっしゃいますが、初心に返った選挙戦を戦ったと聞きました。政治家個人が「選挙に臨む姿勢」も有権者は注目しているんじゃないかと思います。

小此木 「頭を下げる」「あいさつをする」ということももちろん大切だが、結局、ほとんどの有権者はマスコミの報道で候補者の情報を得ています。「街頭に立つ」とは、そうしたマスコミが創ったイメージを壊すための手段という考え方もあると思います。ところで、都市政策ですが、渋滞緩和策や住宅対策などを党で提言していますが、実のところ、あんまり受け入れられない。一方、公共事業に対する都市部と地方との捉え方の違いなどが今回の選挙の争点になったと思います。しかし、単に予算を都市部に配分することで解決をするわけでもない。都市政策に関してはどうでしょうか。

 

 長期的な展望を具体例を挙げて説明

 公共事業については、具体例を挙げて、例えば電線の地中化や中心市街地の活性化など丁寧に説明をすれば理解を示してくれた。地域経済を潤わせるためでなく、長期的展望に立った事業であるということを懇切丁寧に訴えました。

小此木 すべての公共事業が悪いというわけではないことは明白です。景気回復の手段であり道路やゴミなど国民生活に密着するものもあるわけです。

 都市部でゴミの問題が頭痛のタネですね。今、リサイクルなどが盛んに行われていますが、もっと国政からの後押しも必要とされています。

下村 東京で言えば、ディーゼル車の都内乗入れ規制を石原都知事が決めましたが,国民は環境問題に大きな関心を持っています。都市政策の一環として取り入れる必要はありますね。

小此木 具体的な話が出ましたが、結局、どのような政策をやるにしてもわれわれ政治家が国民の中に入って行って、直接、語り掛けなければならない。

下村 そして、今までのように「飴を配る」話ばかりをするのではなく、国難を乗り切るための「痛み」を伴うことも言っていかなければならない。国民はわれわれが思っているより冷静で、「飴」ばかりではいけないことを認識している。「口当たりのいいこと」ばかりを言うのではなく、十年、二十年後の日本に責任を持つ発言をすべきだと思います。特に、税制・福祉・エネルギーなどでどんどん問題提起をしていくべきです。そういう過程を通じて、国民の信頼を得ていくべきです。

小此木 来年は参院選挙が行われるが、今考えられる対策は−−。

馳 「確実に取れるところで落とさない」ということで、複数区では候補者を一人に絞って戦うべきであると思います。

下村 一言で言うと、「旧態依然」の自民党と言うイメージをどのように払拭していくかにかかっています。日本の企業でも年功序列は解消しつつある。党でも、例えば内閣改造で当選回数に関係なく若手を抜擢するなど、イメージアップを図っていくべきだと思う。それが、「自民党はここが変わった!」という国民へのメッセージになると思います。

小此木 参院選挙は全県区なので、細かい選挙運動はできません。党のイメージに負うところが大きい。党内改革はもちろんですが、基本となる党の政策を前面に押し出す必要があります。党内での議論により、解決法が必ず見えてくる。その見えてきたものを国民に訴えれば、「分かりずらい政治」を解消できる。

 

 いまこそ「自民党らしさ」を強く、明確に 

下村 そうです。「耳障りな事」もハッキリと言うべきなんです。政策論議をわが党からもっと盛り上げる必要があります。そこでは「自民党らしさ」を打ち出していかなければならない。

小此木 都市部は地方に比べて、価値観がより多様化している。その、さまざまな価値観を持った人に、さまざまな政策を理解してもらうには、外へ出て行って、直接語り掛けていく必要がある。来年の参院選挙でも次期総選挙でもそうした「基本」に立ち返った選挙を行っていきたい。

下村 都市部では「締め付け選挙」は効果が無くなってきた。これは、地方にも波及する可能性があります。そこで、「自民党は過去のもの」というイメージを払拭し、「これからも自民党に任せよう!」というイメージを創り出し、アピールしていく必要がある。それにはまず、例えば、テレビでも若手が率先して出演するなどといった「自民党らしくない選挙」を行っていくべきだし、その手法を検討していかなければならない。「若さ」を前面に出して行くのも、一つの有効な手法ですね。

 候補者擁立やマスコミ対策、ITの活用などが考えられますが、特に、広報戦略をなお一層検討すべきです。さらに「国家論」などの基本理念を打ち出していくべきだと思います。

小此木 問題意識を持ちながら、批判を恐れず、国民とともに歩んでいく自民党であるべきだと思いますね。


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