馳浩の |
|
平成12年4月19日大阪新聞掲載
|
参院の本会議場の演壇に立って議場を見渡すと、すみずみまで一望できる。視界のはしばしに、議席の様子がとびこんでくる。私はまだ一度も代表質問に立ったことがなく、また、大臣にもなったことがないのだから当然答弁に立ったこともない。一年生議員としてやじをとばしているのがせいぜい。楽しみといえば、壇上で演説している議員のクセを見つけ出すことだ。これがまた人それぞれ。保守党の扇千景党首は、森喜朗首相の所信表明に対する代表質問を、原稿を読まずに15分間、顔を上げてしゃべりまくった。宝塚で鍛えた複式呼吸による大声は、マイクがいらないのではと思うほど議場内にひびきわたる。やじが飛ぶと、その方向をキッとした目でにらみつけながら、ことさら声のトーンを高くして、見下ろすようにしゃべりまくる。自由党の連立離脱、分裂騒動についてのたとえ話は出色であった。
「婚約をしている男女の間柄でも、やれ結婚式の日取りがいつだの、披露宴をこうやれだのと迫れば迫るほど愛情が次第と薄れてくるものです」と、言外に小沢一郎自由党党首の政治手法を問題視すると、議場内からはどっと歓声がわきあがった。「これこそ代表質問!」とのやじがとんだ。つまり、自分の言葉で語る当意即妙さを激励したもの。
初めて登壇する議員はさすがに緊張気味。民主党の桜井充議員(宮城)が金融三法で蔵相に質問したとき、慣れていないのか、そわそわして早口に。そして小さく見えてしまう。
この答弁に立った宮沢喜一蔵相の答弁は与野党の議員を感心させた。
「日本の金融危機対策につきましては、別に私の政策のおかげとは自分では申しませんがひとまず落ち着いてきていることはご存じのとおりです。なお、今後の対策については(桜井)議員のご指導をいただきながら、さらに注目して対処して参ります」
途中で与党席から「あんたのおかげで金融事情も持ち直したんだ!」との声がとび、最後の段に至っては与野党の議員から桜井議員に対して「大蔵大臣をしっかりご指導しろよ!」との声がとんだ。当の桜井さんは自席で平身低頭。苦笑いであった。また、「孫をさとすような答弁だったなぁ!」と言われて、桜井さんは真っ赤になっていた。宮沢さんのとつとつとした答弁は人気があるということ。
森首相は、できるだけ失言をしないようにと原稿に目を落としての答弁だが、時折見せるアドリブは鋭い。田名部匡省議員(参院クラブ・青森)の質問に対して、言葉を選ぶようにして「かつてあなたと私は自民党の同じ政治集団の仲間として共に切磋琢磨しあった。折にふれて選挙の応援にも八戸に何度となくうかがった」とほほえみながら言うと、今は野党的立場の田名部さんも一本取られてしまったような表情。
怒るようにしゃべる人、体をゆすりながらの人、ポケットに手をつっこむ人。壇上のしぐさに人間性が如実にあらわれるということだ。
INDEXに戻る